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【小説】ここに、おったけん――猫は何も言わんけど、佐世保は知っとるまち景色(第61話「陽だまりの矜持」/「ぬっか場所は、ゆずらん」)


ここに、おったけん――猫は何も言わんけど、佐世保は知っとるまち景色

サイドA:「陽だまりの矜持」
――ぶんちゃん視点


倉庫の屋根に、陽が差しよる。
ぬっか風にまじって、魚の匂いがふわりと鼻をくすぐる。

あそこは、おれの場所やった。
ひなたぼっこの特等席。
港の音ば聞きながら、うとうとするには最高の屋根。

けんど今日は、先に黒い影が座っとった。
カラスのクロスケ。羽ば広げて、堂々としとる。まるで、おれに「近寄るな」とでも言いよるごたる。

おれは見上げる。しばらく、ただ見上げる。
言葉はいらん。「そこは、おれの場所やろうが」
そう目で告げても、クロスケは一歩も引かん。羽をバッと広げて、威嚇しよる。

おれは、屋根の下で丸くなった。
引いたわけじゃなか。譲ったつもりもなか。
ただ、そこに“おる”ことを選んだだけ。陽が届かん場所でも、ぬっか想い出は届いとる。

クロスケが空へ舞い上がる。
影がひゅうと差して、おれの顔に落ちた。挑発かいな。
でも、おれは目を閉じた。しっぽばひとふり。——「おれは、ここで日向ぼっこしとると」

静かな時間が流れた。風も、潮も、少しずつ変わっていく。

「カァ…」
空から、ひと声だけ。クロスケは飛び去った。——いや、ちょいと離れた電柱の上で、じっとおれを見よる。

おれはゆっくりと屋根にのぼり、かつての場所に座った。
ぬっか。やっぱり、ここはええ。

互いに譲らんかった。でも、互いに引かんかったけん、そこに通じ合うもんがあったとやろう。

港の光の中で、おれは丸くなる。
電柱のクロスケも、静かに羽ばたきの音を止めた。

ここに、おったけん。
言葉がなくても、わかりあえることもあるとたい。

 

【了】



サイドB:「ぬっか場所は、ゆずらん」
――クロスケ視点


今日も、港の風は塩気をはこんどる。
倉庫の屋根、ここはオレの“ぬっか場所”。陽がよう当たって、羽も心もほどけていく。

オレが屋根の上で羽ばたきを終えて、ちょこんと座ったときやった。
ふと下を見おろしたら、あいつがおった。白と茶ぶち、片耳にちいと傷のある猫——ぶんちゃんや。

じぃーっと、オレば見上げとる。なしか、オレに無言の圧ばかけとる、ただただ見とる。
「なんばね、ここはオレが先に来とっとばい」と思いながら、オレは悠然と羽ば広げた。そいでも、ぶんちゃんは引かん。

「せからしか」と思いながら、オレは一度空ば舞った。影を屋根の下に落として、ちょいとちょっかい出したばってん、
ぶんちゃん、目ばつむって、動かんとたい。ただ、しっぽがふわりと揺れよった。

なんちゅう、しぶとか猫かね。
お互い言葉はなかばってん、気持ちはよぉ伝わっとる。
「どけ」「どかん」——そげな無言のやりとりのなかに、プライドの火花が飛んどる。

陽はじんわり背ば押す。
オレはついに、屋根から飛び立った。
「カァ…」とひと声、ひとまずは退くばってん、離れんばい。

ちょいと離れた電柱の上、オレはそこでぶんちゃんば見とる。
すると、ぶんちゃんも屋根にのぼり、丸ぅなって寝そべった。

風がやさしか。陽もぬくか。
お互い、譲らんかったばってん——ま、これもよか。

ここに、おったけん。
言葉はなくとも、そいでよかっさ。


【了】



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シリーズタイトル一覧:(順次、掲載予定です)


あとがき

この本を手に取ってくださり、ありがとうございます。
そして、ぶんちゃんと佐世保の町を、ここまで一緒に歩いてくださったことに、心からの感謝を申し上げます。

私は佐世保で生まれ育ちました。
けれど、大学進学で町を離れ、そのまま県外で就職しました。
けれど人生の節目がいくつか重なり、今はまた、この町に暮らしています。
この短編集は、そんな「ふたたびこの町で暮らす」ようになった私の目に映る、どこか懐かしく、でも確かに変わってきた佐世保の風景と、そこに生きる人たちの姿を、“猫の目線”という静かなレンズを通して描いてみたいと思ったことから始まりました。
 主人公のぶんちゃんは、白と茶のぶち模様の猫。
人の言葉は話しませんが、ただそばにいることで、人の心の奥にある小さな揺らぎや、誰にも見せていない表情を、そっと受け止めてくれます。
 町の片隅にいる猫。
それだけでありながら、たしかに「ここに、おった」と記憶される存在。
この短編集のタイトルは、そんなぶんちゃんの在り方、そして、この町で過ごしてきた人々の“想いが残る場所”としての佐世保を象徴する言葉として名づけました。
なお、本書の創作には、OpenAIのChatGPTを創作パートナーとして活用しています。
最初は「猫と町を舞台に、どんな物語が生まれるだろう」と軽い気持ちでプロットを相談しはじめましたが、気がつけば、物語の呼吸や言葉の余韻を、AIとの対話によって丁寧に探りあてていく日々になっていました。
「語らない猫」「語りたがらない人」「語られずに消えていく町の記憶」——
そんなテーマを、ChatGPTとの共同作業で、時に詩のように、時に物語として形にしていけたことは、まさにこの作品にとって欠かせないプロセスだったと感じています。
佐世保は、坂と港の町です。
変わってしまった景色も、変わらずそこにある空気も、すべてが人と町の記憶を育て続けています。
ぶんちゃんの物語が、そんな記憶のひとつとして、あなたの心に、そっと寄り添えたなら嬉しく思います。
2025年 春
佐世保の町より
筆者


プロフィール|Kazuomi Matsunaga

🧭思考の案内人|Thinking Navigator

略歴:九州大学工学部卒業(材料工学)⇒愛知の金属素材メーカーエンジニア(生産技術)⇒地元長崎県のフリーペーパー広告営業⇒学校法人職員(←いま、ココ)。長崎県在住の50代。こどもは二人とも大学生となって巣立ち、妻と二人暮らし中。
“問い”と“好奇心”の交差点で、日々思考を遊ばせている書き手です。最近は、連載コラム「思好の科楽(しこうのかがく)」シリーズを中心に、教育・物語・心理・AI・デザインなどをテーマとした独自視点の思索を綴っています。既存の枠を超えた“自由な知のデザイン”を模索中。モットーは「想像力が世界をひらく」。
本業では大学・教育関連の仕事に携わりつつ、「人が何かを“好き”になる瞬間」や「問いが芽吹く場面」を丁寧に見つめることを大切にしています。
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Kazuomi Matsunaga🍀 「クリエイティブの世界へようこそ!」 創造・表現することが好きで、日々新しいものを生み出しています。応援が次の創作の力になります!