パスカル博士: ルーゴン=マッカール叢書 第20巻
1,800円
- 著者
- エミール・ゾラ
- 翻訳
- 斉藤 寛
- 発売日
- 2026年6月30日
- ページ数
- 302

・美しい日本語が心を打つ高品位な翻訳。 ・ページを繰る必要のない親切な注釈。 ・挿絵『ルーゴン=マッカール家系樹』完訳。 ハイライト ――子どもを育てたのはマルティーヌだった。教会へ連れて行き、彼女の内に常に燃えている敬虔な信仰の炎をもって、その子の心にも小さな火を灯したのだった。 ――幾時間もの思索を経て、彼女の満ちた心は麗しき夜の密やかな静けさの中で溢れ出した。彼女の邪魔をしないよう彼は口をつぐんだ。 ――人生とは一つの石を遥か遠くの知られざる目的のために運んで行くようなものだ。 ――仕事に生涯を捧げ、仕事こそが救いでありすべての動機であった彼が、この世で一番大切なことは人を愛し愛されることと認めることになるのだろうか。 ――愛はあまねく大地を照らす太陽のように、善はすべての心を潤す大河のように、世界の果てまで行き渡るだろう。 解説 本書はルーゴン=マッカール叢書全20巻の最後を飾る作品である。他巻を読んだ後に本書を読むことはもちろん推奨されるが、『居酒屋』『ナナ』で馴染みのとおり本書単独でも楽しめる構成になっている。これまでの全19巻の物語が劇中劇の形で語られるので、先に本書を読んで関心を深め、それから他巻に移ることも十分推奨できる。いずれにしても全巻の総括を担う必読の書であることには間違いない。 物語 かつての荘園ラ・スレヤードをパスカル博士が購入した理由は、一つには世間を離れた静かな暮らしを望んだこと、二つ目には引き取った七歳の姪クロチルドの養育環境への配慮のためだった。それから十八年の間、人知れず遺伝の研究に従事しながら、彼の隠遁生活は穏やかな幸福のうちに流れていた。とはいえ、次第に募る不安に少し悩まされてもいた。それは女中マルティーヌを含めて三人の信仰における対立が日に日に激しさを増していることだった。 一方母フェリシテはパスカルに対し、他の兄弟たちのように目覚ましい活躍もなく、そもそも立身出世の意欲もないことに不満を抱いていた。そして、とくに懸念していたのは家族を対象にした彼の遺伝の研究だった。一族の祖アデライードは長年精神病院に収容されている。さらにアデライードから数えて5世代目、もっとも若いシャルルは精薄だった。もしも博士が収集した一族の資料が公の場にさらされれば、ルーゴン家の栄誉を破壊し名誉を失墜させる。フェリシテはそれを極度に恐れていた。彼女は宗教と科学の間で迷うクロチルドを焚き付け、博士の研究の成果である膨大な書類を破棄させようと企てる。神への冒涜を止めさせ、科学を神の生贄にすることこそパスカルを幸せに導く――そうフェリシテは説くのだった。次第に狂信性を帯びたクロチルドは、元々敬虔なクリスチャンであるマルティーヌと結託して神との和解をパスカルに迫る。それは彼女たちが博士を深く愛するがゆえの行為だった。ここにラ・スレヤードの平和な生活は終わりを告げ、地獄の季節が始まった。