【読了】過去のパリを脳内散策する『文学的パリガイド』(鹿島茂/中公文庫)
書籍情報
著:鹿島 茂
出版社:央公論新社
発売年:2010年
おすすめ度
★★★★★
一文引用
生まれついての幻視者だったユゴーは、想像力というタイム・マシンに乗って一気に三百五十年の時間を遡り、ホイジンガの言う「中世の秋」の時代のパリをありありと思い浮かべることができた。
整理・感想
エッフェル塔やシャンゼリゼ通りなど、パリの名所をフランスの文学や作家にちなんだエピソードを紹介したのち、その名所についての概要を1pで説明する構成。
名だたる小説家や劇作家などが登場し解説されているので、該当の本を読んでいるだけでは知りえない情報が盛りだくさんでフランス文学好きは非常にたのしく脳内でパリを散策できる。
歴史的な経緯もよく触れられているので文学部の学生にとってよい教材にもなるだろう。
もちろんフランス文学を読んだことがない人も楽しめる。
名前だけ知っている名所のエピソードから、その名所が登場する本を知って読んでみるのも楽しめるし、そこから筆者の別の書籍に興味をもって広げていくのも楽しめる。まさに文学的にパリの街をガイドしてくれている。
登場作家
登場する作家は多く、知らなかった人も複数いる。名前だけならかなり知っている方だと思っていたが全然だった。
ギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)
ジェラール・ド・ネルヴァル(Gérard de Nerval)
マルセル・プルースト(Marcel Proust)
ヴィクトル・ユゴー(Victor-Marie Hugo)
ガストン・ルルー(Gaston Leroux)
オノレ・ド・バルザック(Honoré de Balzac)
ミュッセ(Alfred Louis Charles de Musset)
アレクサンドル・デュマ・フィス(Alexandre Dumas fils)
エミール・ゾラ(Émile Zola)
アナトール・フランス(Anatole France)
シモーヌ・ド・ボーヴォワール (Simone de Beauvoir)
フランシス・カルコ(Francis Carco)
アンドレ・ブルトン(André Breton)
ルイ=フェルディナン・セリーヌ(Louis-Ferdinand Céline)
ギュスターヴ・フロベール(Gustave Flaubert)
アンドレ・ジッド(André Paul Guillaume Gide)
アルフォンス・ドーデ(Alphonse Daudet)
スタンダール(Stendhal)
ギ・ド・モーパッサン(Henri René Albert Guy de Maupassant)
ジャン・コクトー(Jean Maurice Eugène Clément Cocteau)
ロートレアモン(Le Comte de Lautréamont)
レティフ(Nicolas Edme Restif de La Bretonne)
ウージェーヌ・ダビ(Eugène Dabit)
アレクサンドル・デュマ(ペール:Alexandre Dumas, père)
ゾラ
ゾラの話はレ・アール(Les Halles)で登場する。レ・アールはパリの中央市場が前身の地区。サン=トゥスターシュ協会(Église Saint-Eustache de Paris)やショッピングセンターのフォロム・デ・アール(Forum des Halles)などが有名だ。
サン=トゥスターシュ協会は地区協会であり、パリで最も優美な教会とも言われている。
ゾラと言えば『ルーゴン・マッカール叢書』(Les Rougon-Macquart)の『ボヌール・デ・ダム百貨店』(Au Bonheur des Dames)における、客や従業員が血液に、吹き抜けの中央階段が動脈に例えられ、デパートがまるで生き物かのように書かれた描写が有名だ。
レ・アールも同様に、『パリの胃袋』(Le Ventre de Paris)内で巨大な生き物の内臓として描写されている。
「いま、彼はレ・アールから発せられている長い唸り声を聞いていた。パリはその二百万人の住民のために、食べ物を咀嚼しているのだ。それはなにか巨大な器官、激しく脈打ち、生命の血液をあらゆる血管に送り出している中心器官のようだった」
ゾラの描いた時代と現在のレ・アールやパリはまた違ってしまっているが、なにかおぞましい印象を受ける近代化の最中の街や建物と、ピークを越えて落ち着きつつより無機質になった街とを比較して眺めるのもよい。
リュクサンブール公園(Jardin du Luxembourg)
リュクサンブール公園というパリの公園が紹介されている。筆者はパリに行く際、リュクサンブール公園の近くに宿をとることが決まりだそう。
名前の由来はルクセンブルクで、マリ・ド・メディシスがルクセンブルク公が所有していた土地を買って宮殿を建てた。公園は宮殿に付随する庭園として造られた。
非常に華やかな歴史だが、19世紀には地味な公園として扱われていて、講演に訪れる人の属性は大学生、僧侶、老人などばかりだったという。
ユゴーの『レ・ミゼラブル』でも老人と子どもがセットで描かれている。ほかにも『ゴリオ爺さん』など老人が登場する作品や『一粒の麦もし死なずば』で子どもが登場するなど、さまざまな作品内で平和を象徴するかのようにリュクサンブール公園が舞台になったそう。
作家たちの眼には街と異なる時間の流れで見えていたのだろうか。少なくとも文学の舞台になるような惹きつけるなにかがあったのだろう。
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