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永井荷風の出世作『地獄の花』はエミール・ゾラの自然主義を日本で再現しようとする野心に満ち満ちていた! 【永井荷風はエゴイストでヒューマニスト③】

 今月のメンバーシップ限定記事では「永井荷風はエゴイストでヒューマニスト」をテーマに議論を展開しています。

 初回は軍国主義への反発から"エロジジイ"として生きる道を選んだ永井荷風について、その代表作にして日本文学史上の最高傑作『濹東綺譚』がいかに凄い小説だったかを見ていきました。

 前回はそんな永井荷風が37歳で老人宣言をしたという衝撃の事実を掘り下げました。

 そして、キリスト教が中心となって展開した廃娼運動についても細かく見てみたのですが、永井荷風はそれに参加しなかったことで男性中心主義の作家であると批判されることもありました。では、なぜ、永井荷風は廃娼運動に参加しなかったのか。今回はそこに迫っていきます。

 ちなみに過去のメンバーシップ記事が溜まってきたので、各月の買い切りプランも始めてみることにしました。メンバーシップならすべての記事を読むことができるけれど、お試しとして、興味のある月だけでも是非是非。

 例えば、『ベルサイユのばら』の元ネタとして知られる伝記『マリー・アントワネット』を書いたツヴァイクについて考察したりしています。よかったらぜひ!


☆出世作『地獄の花』

 前回、確認したように廃娼運動は賛否両論あれど、搾取されている女性たちを救うという意味では否定のしようがないものでした。それでも、荷風はキリスト教の道徳観や禁欲主義を好きにはなれませんでした。そして、それは1902年、23歳で発表し、森鴎外に絶賛されたことで出世作となった『地獄の花』から一貫しています。

 この『地獄の花』は2026年5月に岩波文庫版が復刻するなど、いま、再び注目を集めるようになっています。以下、あらすじをまとめてみます。


・『地獄の花』あらすじ

 若い女教師・園子は世間からバッシングされている金持ちの家で家庭教師として住み込みで働くことになる。以前、婦人雑誌の編集を手伝ったことがあり、その関係で知り合ったクリスチャンの青年が紹介してくれた仕事なのだ。養母との生活に息苦しさを感じていたところなので、実家を出る口実ができて喜んでいる。

 やがて、園子はこの青年と恋に落ち、夏休みに金持ち一家に連れられ、小田原旅行をした際、せっかくならと恋人になった青年を呼び出す。二人は秋にも結婚する予定で、キリスト教の教えに従い、婚前交渉はしないようにしていた。お互い、純粋なまま愛し合っているんだと彼女は信じていた。ところが、金持ち一家の母親が小田原に青年が来ていると知って癇癪を起こす。どうも青年はこの母親とふしだらな関係を続けていたようで、園子はすっかり取り乱してしまう。

 途方に暮れていると、同じく小田原に来ていた女学校の校長に呼び出され、いきなり結婚してほしいとプロポーズされてしまう。校長はずっと考えていたというが、脈略がないので断るも、上司だし、気を遣っているとお酒を飲むように強要され、送っていくと言われた帰り道に襲われてしまう。

 心も体も破壊され、この世界に救いはないし、神もいないし、立派なことを言っている連中だって本当はろくでもないんだと悟った園子は、どうせ地獄にいるのなら、他人に左右される地位も名誉も要らないから、好き勝手に生きて綺麗な花になってやると決意。再び立ち上がる。 


・荷風の創作姿勢が示されたあとがき

 荷風は1901年、22歳のとき、暁星中学の夜学でフランス語を習い、エミール・ゾラを読んでその自然主義に影響を受けます。『地獄の花』はそれを日本文学で再現すべく書いた小説です。

 自然主義は時代・環境・遺伝という三つの要素で人間を描こうとする試みで、科学的に世界を捉えるため、神を否定する点でキリスト教と対立します。あとがきで荷風はそのことを示唆しています。

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