【日本語訳】聖なる経済学(チャールズ・アイゼンスタイン)目次
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聖なる経済学
目次
序文
第1部 分断の経済学
第1章: 贈与の世界①、②
第2章: 欠乏という幻想①、②、③
第3章: お金と心①、②
第4章: 財産という問題
所有の衝動
原初の強奪行為
ジョージ主義の系譜
第5章: コモンズの屍
文化と魂の資本
コミュニティの露天掘り
ニーズの創出①、②
お金の力
第6章: 高利貸しの経済学
経済の寓話
成長の命令
富の集中
富の再分配と階級闘争
インフレーション
あなたの分が増えれば私の分は減る
第7章: 文明の危機
第8章: 時代の転換点
お金:物語と呪術
人類の成人期を迎える試練
第2部 再合一の経済学
第9章: 価値という物語①、②
第10章: 回帰の法則①、②
第11章: コモンズの通貨①、②、③
第12章: マイナス金利の経済学
歴史と背景
現代における応用と理論①、②、③
債務危機:変革の機会
未来を考える①、②
私の分が増えればあなたの分も増える
第13章: 定常状態経済と脱成長経済
持続可能性の再考
定常状態への移行:山か、崖か
貨幣の縮小、富の拡大
脱仲介化とP2P革命
第14章: 社会配当
余暇のパラドックス
陳腐化する「仕事」
働く意志
誰がゴミを片付けるのか
第15章: 地域通貨と補完通貨
地域通貨のジレンマ
タイムバンキングと相互信用①、②、③
暗号通貨革命①、②
第16章: 贈与経済への移行①、②、③
第17章: まとめとロードマップ
1. 債務の免除
2. マイナス金利通貨
3. 経済レントの撤廃、およびコモンズの枯渇に対する補償
4. 社会・環境コストの内部化
5. 経済・通貨の地域化
6. 社会配当
7. 経済の脱成長
8. 贈与文化とP2P経済
第3部 新たな経済を生きる
第18章: 贈与文化を学び直す
第19章: 蓄財しないこと
第20章: 善い生活と聖なる投資
第21章: 贈与の中で働く
第22章: コミュニティと数値化不能なもの
第23章: 新たな唯物論
第24章: 結論:私たちの心が実現できると告げるもっと美しい世界
チャールズ・アイゼンスタインが2007年の『人類の上昇』に続いて2011年に発表したのが『聖なる経済学』です。著者が本書の初版を執筆していた当時に起きたのがリーマン・ショックで、世界中で経済が大混乱に陥りました。経済が「成長」し金融が膨張を続ける限りにおいて社会は表面的に平静を保つことができますが、必ず限界を迎えてクラッシュするのです。
本書では、社会に課されたこの「成長の命令」が、実は私たちの人生を貧しくしているものの正体であって、その根源には利子があること、これが唯一可能な経済のあり方ではないこと、そして、その代替策であるマイナス金利貨幣への移行について掘り下げていきます。利子の束縛から解放されたなら、太古の昔から社会生活を繋いできた贈与の精神の中に、私たちは再び生きることが可能となるでしょう。
いま2020年代も中盤を過ぎ、世界経済の雲行きが今まで以上に怪しくなってきました。この危機を今までのように「対症療法」で乗り切ることは不可能かもしれません。大変動と大崩壊の灰の中から、次の社会が生まれるでしょう。そのとき何を構想するか、何を選び取るか、私たちは試されているのだと思います。『聖なる経済学』の重要性が今まで以上に高まっているのを、私は感じています。
ここにまず目次を作って、これから少しずつ翻訳を進めていきます。
本書のエッセンスを著者自身が語る動画が公表されていますので、ぜひご覧ください。
◆
翻訳メモ:
abstraction from physicality:物質世界から概念だけを抜き出すこと。
afford: 「買うお金の余裕がある」という意味。I can't afford〜というと「お金がないから買えない」。何かがaffordableだといえば「手頃な価格」。この表現が英語では「忙しいからできない」ようなときにも用いられます。
alien:異星人や外国人という意味がカタカナ語として広まっていますが、「見知らぬ」という意味が中心にあります。we live in an alien world といった場合、世界自体はいつも見ているわけですから「見知らぬ世界に住んでいる」と訳すわけにはいかず、疎外されていて居心地が悪く、余所余所しく感じているという意味をくみ取るべきでしょう。
artificial scarcity:人為的希少性。scarcityを欠乏と訳すか悩みますが、経済用語なので希少性とします。
axiomatic:自明の理。axiomは「公理」で、一般に真実であると認められている原理。
bump or crash:山か、崖か。自動車に減速を強いる路面の凸形の段差のことをspeed bumpといいます。このような凸形を描いて社会は定常状態に至る。bumpを言い表す簡潔な日本語が見つからず、これを「山」と訳したとき、対になるcrash(崩壊、急落)は崖でしょうか。
carry cost:キャリーコスト。資産を保有し続けることで発生するさまざまなコストの総称。現物資産の場合は、保管・保険のコスト。
circulation of money:貨幣の流通。circulationは循環という意味がありますが、経済用語では「流通」で定着しています。
commercial barter ring:商用バーターリング
commonwealth:辞書には「国家、連邦、国民」といった意味が第一に出てきますが、ここではその本来の意味であるcommon wealthつまり共有財産のことです。
commonwealth:共有財産。この文脈では「連邦国家」ではなく、その語源であるcommon(共通の)wealth(富)です。本稿ではcommonsを「コモンズ」と訳していますが、こちらはもう少し広い意味合いを持っているようです。
connected self:つながり合う自己
control は、制御、支配、管理という意味を含むので、一つの言葉に統一していません。カタカナの「コントロール」も必要に応じて使っています。
conventional:伝統的な言い方、ではなく、慣習に則った、という意味。経済学の慣習に則った、ということなので、「経済用語で」と訳しました。
credit account:(信用取引の)台帳。信用口座の原始的な形は「大福帳」だったはず。
cryptocurrency:暗号通貨。暗号資産や仮想通貨と訳す向きもありますが、字面通り暗号通貨とします。
data point:実データ。実世界から得られる測定値は点でしかありませんが、それをつないでグラフの線を推定します。点として存在するのは実データです。
debt peonage:債務奴隷制。peonは、スペイン語peón(小作人・歩兵)から英語に入り、もともとは歩兵や駒を意味し、転じて地位の低い労働者や下っ端を指すようになった。
decay:劣化。元々の意味は腐ることですが、そうするとバクテリアが活動しているイメージが付きまといます。物理学で言う減衰のように、価値が低下するという意味で使っているので、劣化とします。
debt cancellation:債務免除。
delocalization:(経済の)脱地域化。「本来の場所から移動させること」という意味。本来その地域にあるべき経済の機能が、他地域に移ってしまうこと。物理学などでは「非局在化」と訳されますが、これは特定の場所に留まらないという意味なのでズレています。
discrete and separate self:個別ばらばらの自己。
economist:研究者なら「経済学者」、実務家なら「エコノミスト」。
elaboration:入念に作ること、精緻化。ここでは機械化農業とファッションについて、行き過ぎた「高度化」と訳しました。
electromagnetic spectrum:電磁スペクトルの帯域。コモンズとして価値を持つのは「2.5GHz帯」のような帯域なので。
endemic:「ある地域に特有の(病気や動植物)」という意味ですが、比喩的に用いられると、「特定の集団や制度にある、共通で根絶困難な、根深く広範な(問題や特徴)」という意味になります。
fiduciary value:信用価値。fiduciaryは信託、信用と訳されますが、信託は「財産運用を任せる制度」のことなので、ここでは当てはまりません。
function:社会の中の役割という意味では「職務」ですが、お金をもらってするプロではないので「仕事」としました。
functionary:機能(職務)を果たす人、という意味から、職員・役人という訳語が付きますが、一般人が社会の中で果たす役割は「プロ」ではないので職員とは言えません。ここでは「構成員」という言葉を使いました。
generic:無個性な。ジェネリック医薬品のように、ノーブランドで無印の。
genome:全遺伝情報。
goods, commodity:goodsの訳は、経済用語では財ですが、一般的消費者の目には商品です。一方、commodityの訳は商品ですが、どちらかというと小麦や原油のように大量に取引される無個性な原料というイメージです。本書は経済学の本なので、財という言葉を主に使うようにします。
gratuitous:好意からの、無報酬の、という意味の他に否定的な意味があり、gratuitous complaintといえば「根拠のない苦情」という意味。この2つの意味の繋がりを暗示する日本語は、有り難迷惑か。
greed は、強欲、貪欲という意味です。日本語の「強欲」は悪い意味にしか使われませんが、「貪欲」は「知識を貪欲に吸収する」のように良い意味にも使われます。ここでは善悪中立な「貪欲」を使いました。
grow organically:自発的に成長する。この場合のorganicallyを「有機的」と訳すと意味不明になってしまう。developing naturally over time without being forced(強制されることなく、時間とともに自然に発展する)という意味を一言で表せば、自発的か。
import replacement:輸入代替。
intensive:集約的と訳されることが多いですが、intensive course(集中コース)であれば、春休みなど短い時間に多くの単元を集中的に、ギュッと詰め込んで学ぶような意味です。詰め込むのは時間だけでなく空間的なスペースのこともあります。ですから、集約的な農法といえば、狭い土地に多くの作物を作る方法を指し、当然そこに多くの手間と資源が投入されることも意味します。
junta:(クーデター後の)臨時政府、軍事政権。起源のスペイン語で「ホンタ」、英語では「フンタ」または「ジャンタ」と発音される。
labor-intensive:労働集約的、労働集約型と訳されます。これはある生産物を産み出すのに多くの労働、つまり手間を掛けるという意味です。その反対は、機械化・省力化して一つの製品に掛ける手間を減らすことです。
larger community of life:全生命の共同体。「より大きな生命共同体」では分かりにくいので。largerという比較級は、人間だけとか自分の周りだけといった狭い認識ではなく、他の動植物を含み、地域から地球全体へと拡大していく認識を表していますが、「全生命」と訳したときに、その括りを地域生態系か地球全体のどちらで見るかは曖昧なままなので、これで良しとしました。
law of return:回帰の法則。returnには"no risk, no return"のように利益という意味がありますが、ここでは資源循環の意味で使われます。
logical construct:理屈。直訳すれば論理的構築ですが、理屈をこねる、こねた理屈のことです。
magico-religious thinking:呪術宗教的思考
marginal efficiency:限界効率。marginalとは、微小差分。微分でいうところのδ(デルタ)のこと。つまりグラフの傾き、増加率。
monetization: 「貨幣化」と訳してしまうと通貨増発による国債引き受けの意味になってしまうので、金銭化と訳しました。また「収益化」は金儲けを意味する現代ビジネス用語として少し手垢が付いているような感じがあるので避けました。ここでのニュアンスはもっと基本的なもので、時間をお金で買えるものと見なすこと、そのものです。
money machine:金融マシーン
needs:ニーズ。これに対しdesireは欲求。
nitrous oxide:化学用語としては「亜酸化窒素」ですが、大気汚染という文脈で問題となるのは、種々の窒素酸化物の総量(NOx)なので、ここでは「窒素酸化物」と訳しておきます。
objective:客観的という意味の他に、「物(オブジェクト)の」という意味になり得ます。サブジェクト(主体)の反対がオブジェクト(客体、対象物)なのは、物には意識も主体性も個性もないと考えられているからです。そのような見方がオブジェクティブ(客観的)であり、相手をモノ扱いしているということです。
obligation:義理。
odious debt:「不当債務」とでも訳すべき米国特有の法概念。独裁体制が人民を犠牲にして外国から借金をした場合、独裁体制が崩壊したあとの民主主義的政府は、独裁時代の債務を「不当債務」として返済を拒否することができる、という考え方。
perception management:認知操作。確立した訳語は無いようです。
Pirahã:『人類の上昇』では「ピラハ族」と訳していましたが、ダニエル・エヴェレットの著書が『ピダハン』として邦訳されていますので、そちらに倣いました。
regional:広域の。localを地域と訳したとき、regionalはより広域を指します。regional governmentを広域政府と訳すと国家連合のように聞こえてしまうので、広域自治体としました。
ripped off:ぼったくられた。単純に「損をした」と訳したのでは、自己から「引き剥がされた」というニュアンスが伝わりません。
sacred economy:神聖な経済。「聖なる」は著書名だけにします。
scarcity:経済学用語では「希少性」ですが、もっと生活感のある一般的な言葉として「欠乏」を使いました。
scarcity: 「欠乏」から「希少性」という経済学用語にだんだん移行できるよう訳してみました。
scarcity mentality:欠乏心理。mentalityは心理構造と訳していますが、複合語では短さを優先しました。
sellout:売れ線狙い。お金のために魂を売った。理想・信念・芸術性などを犠牲にして、金・権力・人気に迎合したという否定的評価を表す。
sovereign debt:公的債務。
separate self in an objective universe:物体でしかない宇宙の中の切り離された自己。objectiveは「客観的」ではなく「物体的な」という意味。
social dividend:社会配当。本書の重要なキーワードです。いわゆるベーシックインカムのことですが、定まった訳語はないようです。
sovereignty:主権。国であれ個人であれ、主権の中心的な意味は「他者の干渉を受けないこと」。
talisman:護符
token:割符。代用貨幣というと貨幣が発明された後のことになってしまうので。
uncommitted earning potential:活用されていない収益能力。この場合のuncommittedは「使途が決まっていない」という意味。
unity:一元。二元論のような多元に対して宇宙を作っている唯一の存在。
voodoo chit:ブードゥー教の呪符。chitはメモ、書き付け
wanton improvidence:無計画な浪費。wanton 放縦な、improvidence 無計画。
withhold:出し渋る。与えないでおく。
witnessing:見聞きする。辞書的な意味は「目撃、証言」ですが、法的な意味合いではない文脈では固すぎるので。
