【聖なる経済学】 マイナス金利:現代における応用と理論②
訳者コメント:
ここでは、マイナス金利経済の中で銀行と中央銀行が果たす役割について述べています。マイナス金利になっても銀行が潰れることはありません。銀行の利益は準備金と貸し出しの「金利差」から来るものなので、準備金がマイナス金利ならゼロ金利ローンでもやっていけるのです。逆に、マイナス金利をタブーにしておいて超低金利状態になるから、金利差がなくなって銀行は貸し出しができなくなるのです。ですから、低成長下ではマイナス金利の方が経済を活発に回すことができ、既存の銀行制度を変えなくてもそれは実行可能です。2016年から2024年までの日銀のマイナス金利がそれを証明しています。最後の段落にある、心臓は感覚器官だという理解は刺激的ですが、中央銀行は感覚器官としての心臓の役割を担って、経済の声を聴き、適切なバランスを保つのです。内閣から指示された「インフレ目標」を達成するため経済を力でコントロールするというのは、本来のあり方ではないのです。
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(①から続く)
現代のマイナス金利案が実行可能だということを、ここで強調しておきたいと思います。ゲセル式の印紙通貨は、大規模な経済混乱を招く時代錯誤的な夢物語のように思えるかもしれませんが、準備預金に課税するだけなら、新たな金融インフラはほとんど必要ありません。実際、それは金融政策が既に進んできた方向性の延長上にあります。連邦準備制度、中央銀行、基本的な銀行システムはそのまま維持できます。もちろん、大きな変化は伴うでしょうが、それは徐々に進む変化となり、金融システムを解体して一からやり直すような社会の混乱を避けることができるでしょう。第5章で述べたように、「〈聖なる経済学〉は全く異なる種類の革命の一部なのであり、それは粛清ではなく変革なのです。」
各国の中央銀行はマイナス金利の試行を始めていて、2009年にリクスバンク(スウェーデン中央銀行)がマイナス金利を導入し、準備預金に0.25%の手数料を課したのが皮切りでした[23]。デンマーク、スイス、欧州連合、日本の中央銀行がその後に続きました。その利率はゼロとほとんど変わりません(最も大幅なものはスイス銀行のマイナス0.75%でした)が、ここまで金利を引き下げても良い理由があるのなら、さらに引き下げても良いことになります。
その理由とは何でしょうか。私の知る限り、主流派のマイナス金利支持者は、それを不況時の一時的な措置と見なしており、銀行に融資を再開させ、低金利の信用を利用可能にして、経済が再び成長し始めるのを待てば、その時点で金利はプラスの領域に戻ると想定しています。しかし、もし恒久的なゼロ成長あるいは脱成長経済に突入しているのなら、マイナス金利も恒久的なものになる可能性があります。
適切な金利は、プラスでもマイナスでも、経済が拡大するか縮小するかによって決まります。従来の考え方では、金融政策は経済成長を促進するか、持続可能な水準に抑制することを目的としていました。新しい考え方では、金融政策は基準金利を経済成長率(または縮小率)に合わせるよう努めます。ケインズは、基準金利が「完全雇用と両立する新規投資率に対応する資本の限界効率に対する貨幣金利の超過分にほぼ等しい」はずだと推定しました[24]。この公式に修正の必要が生じるのは、第14章で私が示唆するように、もはや完全な有給雇用を社会にとって望ましいこととして追求すべきでなく、また追求することもできない場合です(これは定常状態経済学の必然的な結果であり、社会配当が存在する場合にはそれほど恐ろしいことではありません)。しかし、本質的にケインズが示唆しているのは、流動性税を、生産資本への投資の平均収益率に対して金利が上回る分を補償する水準に設定すべきだということです。言い換えれば、富を使用することに比べて富を保有することの利点がない水準に設定しなければなりません。
リベラル派のエコノミストも、デマレージとほぼ同じものを提唱することがありますが、それはインフレーションです。インフレは減価する通貨と数学的に非常によく似ていて、貨幣の流通を促進し、貯蓄を抑制し、債務の返済を容易にします。しかし、マイナス金利貨幣にはいくつかの重要な利点があります。インフレの古典的なコスト(メニューコスト〔価格の変更でメニューを書き直すコスト〕、シュー・レザー・コスト〔銀行との往復で靴底がすり減るコスト〕など)が無くなるだけでなく、固定収入の人々を貧困に陥れることもなく、物価の上昇が賃金の上昇を上回るという、よくある状況に陥る危険もありません。以下は、経済政策研究センターのディーン・ベイカーによる典型的なインフレ擁護論です。
財政赤字の拡大が政治的に不可能な場合、金融政策は需要を喚起するための第二の潜在的な手段となる。連邦準備制度理事会は、量的緩和プログラムを超えて、緩やかなインフレ率(例えば3~4%)を明確な目標とする政策を採用し、実質金利をマイナスにすることができる。これはまた、住宅バブル崩壊の結果として数千万人の住宅所有者が直面している巨額の住宅ローン債務負担を軽減する効果もあるだろう。[25]
問題は、銀行が融資を行わないデフレ環境で、FRBがインフレを起こすことができるかどうかです。これが、借り入れ過剰と生産力過剰という状況におけるインフレ対策の最大の問題点です。量的緩和は、流動性の高い資産(マネタリーベース、準備金)を流動性の低い資産(例えば、さまざまな金融派生商品)と交換しますが、新しいお金がそれを使う人々に届かなければ、物価や賃金のインフレは起こりません[26]。たとえFRBが公的債務と民間債務のすべてを貨幣化したとしても、根本的な問題は残るでしょう。ゼロ金利下限のせいで、2008年と2009年にFRBはインフレを起こして債務の罠から抜け出すことができませんでした。その後の数年にわたる量的緩和も、好景気を引き起こすことはなく、低迷した成長を維持するにとどまりました。量的緩和は金融機関に無利子の資金を供給しますが、金融機関は、資本投資の収益が見込めない経済に投資するよりも、その資金を保有し続けることを選ぶのです。ここで、私たちはマイナス金利貨幣の本来の動機、つまりお金を流通させるという点に戻ります。
マイナス金利の準備制度では、銀行は準備金の保有を何としても避けようとするでしょう。マイナス金利が5~8%程度なら(これはゲゼル、フィッシャーなどの経済学者が妥当だと考えていた水準ですが)、銀行は無利子融資、場合によってはマイナス金利融資を行うことさえも望むようになるでしょう。では、銀行はどうやって利益を上げるのでしょうか。それは基本的に今日と同じ方法です[27]。預金にもマイナス金利が適用されますが、準備金利よりは低く設定されます。銀行は当座預金を例えばマイナス7%、定期預金をおそらくマイナス5%かマイナス3%で受け入れ、融資はマイナス1%か0%で行うでしょう。(これで、現金の価値も下がる必要がある理由がおわかりでしょう。そうでなければ、誰がマイナス金利で預金するでしょうか。)
マイナス金利に対する反対意見の一つは、金利差の縮小により銀行の利益が損なわれるという点です。しかし、これは中央銀行のバランスシート拡大〔国債などの資産を大量に買い入れることで市場へ潤沢な資金を供給する量的金融緩和策〕によって金利を引き下げるという現行の仕組みに起因する現象に過ぎません。これは「緩和的」金融政策として知られており、金利差を圧迫します。しかし、もし中央銀行が準備預金に手数料を課すなら、原則としてマイナス金利と量的引き締めを併用することが可能となり、銀行は適切な収益性を維持できるでしょう。マイナスの下限金利を前提とした引き締め的な金融政策は、リスクの高い投資に対する資本コストの上昇を意味し、好況時に経済の過熱を防ぐという中央銀行の本来の役割を果たすことが可能になるでしょう。
準備預金に対するマイナス金利は、既存の金融インフラと両立可能です。コマーシャルペーパー市場も、銀行間資金市場も、必要であれば証券化やデリバティブ取引の仕組みも、すべてそのまま利用できます。変わったのは金利だけです。これらの機関にはそれぞれ、より高次の目的が潜んでいて、潜性遺伝子のように発現の時を待っているのです。これは、最も批判されがちな機関、つまり金融システムの「心臓」である連邦準備制度(および他の国の中央銀行)にも同じように当てはまります。
正統的に信じられているのとは違って、心臓は血液を全身に押し出すのではなく、血液を受け取り、その声を聞き、再び送り返します[28]。心臓は知覚器官なのです。血液について感知した内容に応じて、心臓は膨大な種類のホルモンを生成します。その多くは最近発見されたばかりで、体の他の部分とコミュニケーションをとります。それは心臓自身の細胞が外部で作られたホルモンの影響を受けるのと同じです。この心臓の聴く役割、調整する役割が、中央金融当局の役割について全く異なる比喩的な視点を与えてくれます。つまり、システムに資金を押し出すのではなく、システムのニーズを聴き取り、それに対応する器官です。連邦準備銀行は、経済の脈動を聞き取り、適切な水準に金利を維持するために資金供給を調整するはずなのです[29]。経済への新たな資金の注入は、今日と同じ方法、つまり公開市場操作によって行うか、政府による法定通貨の支出によって行うことができますが、それはどの形のコモンズ使用料が採用されているかによって決まります。一般的に言えば、デマレージで失われた資金は経済に再注入しなければなりません。そうでなければ、経済活動を円滑に進めるための資金需要があるにも関わらず、外貨準備高は毎年減少してしまいます。その結果、今日私たちを脅かしているのと同じ、債務不履行、資金不足、富の集中といったパターンが繰り返されることになります。したがって、私たちには依然として、経済の血液の声を聴き資金の増減を指示する、金融の心臓が必要となるのです。
(③に続く)
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注:
23. データはリクスバンク(スウェーデン国立銀行)の公式ウェブサイト(www.riksbank.se/en-gb/)より。
24. ケインズ、『雇用・利子および貨幣の一般理論』、357頁。
25. ベイカー、「出口なし」。
26. 実際、生産的な投資機会がない状況では、商品価格の投機的な高騰によって物価上昇を引き起こす可能性があります。
27. 知識豊富な読者の中には、銀行が金利差で利益を上げているというのは誤解だと反論する人がきっといるだろうと思います。銀行が融資を行う際、預金者の資金を貸し出すのではなく、単純な会計処理によって新たな貨幣、すなわち信用を創造しているのだと彼らは主張します。残念ながら、これも貨幣の発生過程を歪曲した解釈です。ここでの結論は、マイナス金利の銀行業務は、多くの重要な点で、今日の銀行業務(少なくとも「カジノ資本主義」が台頭する以前の銀行業務)と根本的に類似しているということです。
28. 心臓の生理学的説明のほとんどはポンプに例えられますが、心臓は血液循環の推進力を全く提供していません。粘性の高い液体を何千マイルにも及ぶ細い血管を通して送り出すことは、300グラムの臓器には不可能です。実際、胎児の循環は機能する心臓が存在する前から始まっており、循環系全体、ひいては全身との関係によって維持される内発的な推進力があるのです。心臓は一時的に血流を止め、それが心房を拡張させ、その後で心室に送り出します。ポンプというよりは油圧シリンダーに似ており、血液の螺旋運動を維持するためのねじり機能を加えるのです。
29. 実は、FRBは既にこの傾聴と調整という機能を果たそうと試みています。元FRBエコノミストのメレディス・ウォーカーは、公開市場委員会の会合準備において、無数の企業や金融機関とコミュニケーションを取り、実質的に経済の心拍を聴くことがどれほど重要だったかを述べています。金融政策は、こうした傾聴に対する自然な反応でしたが、政治的な干渉によって自然な反応が阻害され、ポンプのような統制的な役割をFRBが担う場合もありました。(2010年の私信。)
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原文リンク:https://sacred-economics.com/sacred-economics-chapter-12-negative-interest-economics/
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