見出し画像

慰安婦論22):倉橋正直・従軍慰安婦の売春婦型と性的奴隷型の2類型論

倉橋正直は、旧日本軍の慰安婦問題、および「からゆきさん」について歴史研究を行ってきた人物である。


1.『従軍慰安婦問題の歴史的研究: 売春婦型と性的奴隷型』 (1994)

概要:

この著作は、倉橋の慰安婦問題に関する歴史研究の主著の一つである。タイトルが示唆するように、慰安婦として存在した女性たちの境遇や動員の実態を、「売春婦型」と「性的奴隷型」という分析的な視点から分類・考察することを試みた。1990年代半ばという時期は、慰安婦問題に関する日本での歴史研究が進展し、様々な資料が公開され始めた時期にあたる。

研究の目的:

この本は、慰安婦問題の多様な実態を歴史的に明らかにし、単純化せずに理解することを目的としている。慰安婦とされた女性たち全てが画一的な境遇にあったわけではないという前提に立ち、個別のケースや資料を分析することで、どのような形態が存在したのかを分類しようとした。

1)「売春婦型」とは:

当時、公娼制度や私娼として性産業に従事していた女性が、契約に基づいて慰安所に移り、比較的自身の意思や経済的判断が介在したとされるケースを指す。ただし、ここでの「契約」や「意思」が、貧困や借金、社会構造的な圧力の下での限定的なものであった可能性も、当然研究の対象となる。

2)「性的奴隷型」とは:

誘拐欺罔(だますこと)、物理的な強制軍による厳格な管理下での自由の剥奪などにより、自らの意思に反して慰安所で性のサービスを強制され、事実上奴隷的な状況に置かれたとされるケースを指す。これは、国際法上の人身売買や奴隷制、あるいは戦争犯罪としての性暴力といった概念と結びつく。

研究手法:

当時の軍の公文書、慰安所業者の記録、関係者の証言(日本兵、業者など)、裁判記録など、入手可能な様々な歴史資料を分析し、それぞれの「型」に当てはまる事例やその特徴を検証していくアプローチをとっている。特に、契約書や給与、借金に関する資料、慰安所の管理規則などが重要な分析対象となる。

研究の意義:

この研究は、慰安婦問題の実態を一面的なものとせず、多様な側面があったことを歴史資料に基づいて示そうとしたものである。しかし、その分類自体が、個々の女性が置かれた複雑な状況を十分に捉えているか、あるいは「売春婦型」という言葉が被害の深刻さを矮小化する可能性はないかなど、その分析枠組みや結論については、その後の研究や議論の中で様々な評価がなされている。

2.『従軍慰安婦と公娼制度:従軍慰安婦問題再論』(2010)

概要:

テーマとしては「従軍慰安婦問題と日本の公娼制度との関係性」に焦点を当てている。これは、慰安婦問題が日本の近代公娼制度の歴史とどのように繋がっているのかを比較検討している。

比較の視点:

日本の公娼制度が、国家公認・管理下の性産業であったのに対し、慰安婦制度は軍が関与した戦時下のシステムであった。この研究では、両制度の間にある類似点と相違点を比較分析している。

1) 類似点:

募集・調達のルートや手法(周旋業者によるもの、借金による拘束など)、女性の出身階層(貧困層が多い)、国家・公権力による管理(警察による管理 vs 軍による管理)、健康管理(性病検査など)、逃亡の制限といった側面での共通点が検証される。特に、公娼制度の周旋業者や経営者が、慰安婦の募集や慰安所の運営に関わった事例は、両制度の連続性を示す重要な要素として分析される。

2) 相違点:

軍の直接的な指揮・監督下に置かれたこと、戦地という極限状況であったこと、兵士(軍人)が排他的な顧客であったこと、戦地が移動することで女性も移送されたこと、そして特に強制性・組織的性暴力の側面が強かった点は、国内の公娼制度とは異なる慰安婦制度の特殊性として強調される。

研究の意義:

この研究は、慰安婦問題が日本の近代社会における性管理や女性搾取の歴史と無縁ではないことを示しつつも、それが公娼制度の単なる延長ではなく、戦争という特殊な文脈で生まれた、より深刻な人権侵害を伴うシステムであったのかどうかを、歴史的な証拠に基づいて論じようとしている。

倉橋正直の研究は、慰安婦問題の複雑な実態を歴史資料に基づいて分析しようとする試みであるが、その分析枠組みや結論については、他の研究者や慰安婦問題に関わる人々から様々な視点での評価や議論が存在する。特に「売春婦型」「性的奴隷型」という言葉の使用については、被害の実態を正確に表しているのか、あるいは被害者の尊厳を傷つける可能性はないのかといった点で、慎重な検討が求められるテーマである。

amazonレビュー

秋風亭遊穂 ★★☆☆☆
紙幅のため?? 全体に浅い分析
『第1章において従軍「慰安婦」について述べられる。
日本軍「慰安婦」を「性的奴隷型」のと、日本人町に多くいた「売春婦型」と区分し、"限定的な効果しかない性的奴隷型の従軍慰安婦を用意する必要があったのだろうか。私はなかったと考える。"と著者は兵士たちのリフレッシュ効果という側面から判断を下している。
 
この兵士たちへの「リフレッシュ効果」は著者の主観によっており、これを以て売春婦型が一般的という結論を導いてしまうのは研究者としていかがなものか。実態の検証には様々な証言、軍の政策も加味が必要である。

また、日本人町の多かった"中国戦線では性的奴隷型の従軍慰安婦は少数の例外的な存在であり、売春婦型のほうが一般的であった"としている。

南京事件(1937年)以降、"38年以降は中国大陸に常時100万以上の軍隊が駐屯"(従軍慰安婦:岩波新書/吉見義明著)し、「慰安所」も大量設置されるのだが、著者は日本人町の「売春婦型」慰安婦の視点からしか論じていない。軍の防諜に対する認識にも触れられず、軍が「慰安所」制度を通じて、兵士の性管理をする意味を考える必要があるのだが、本書ではそうした検証はほとんどされていない。

慰安所の形態、および慰安婦の実態は、時代、戦局、前線か否か、利用した兵士の階級などにより、多様である。それは従来からの研究や証言などによく示されている。著者はどこまで認識していたのだろうか。

廃娼運動の当時の弱点にも論述があるが、欧米の運動の弱点が検証されないため、日本の運動にもどう影響があったかの分析も弱く、概観するに至らない。藤目ゆきの「性の歴史学」(不二出版)が詳しいので参照されたい。

からゆきさんをはじめとする「売春婦型」慰安婦の存在は重要な視点だが、慰安婦問題全体を語る上では、その他の史料、先行研究も渉猟してもらいたい。その上で「売春婦型」慰安婦の実態が語られればと思う。残念なことだ。

第6章の日露戦争プロパガンダの風説の論考は興味深いが、メディアが戦意高揚に果たした役割をもっと突っ込んでほしかった。

第7章で著者の専門分野である「からゆきさん」の論考があるが、国外へ売春婦を送り出す条件の一つに、商品経済の進展をあげている。工業化が進み就職先があればそれはないと言いつつも、インドネシアと西アジアについても"商品経済の進展に伴い、将来、必ず売春婦を国外に送り出すようになろう"と述べているが、そんな簡単に推定していいものだろうか。国外への就職先は売春婦業だけではあるまい。当時の日本農村の絶対的貧困において、近代以降どんな産業構造などの変化があったのか。「商品経済の進展」の周辺の事情も概観してもらいたかった。

過去の研究の積み重ねで述べられる論旨としては実に残念である。』

トンボ ★☆☆☆☆
売春婦は世界のどこにもいる
彼は「中国」を例に取り「日本人町」があれば<売春婦>がいると断じている。こんなことは「中国」でなくとも「朝鮮」にもあり世界各地にある。取り立てて「中国」を例に取るまでもない。

また「日本軍人」がいれば<売春街>があるとも言う。これだって世界の軍人がいれば<売春街>がある。これも当たり前のことだ。』

結論として(レビューに基づく)

読者のレビューを踏まえると、倉橋正直氏の『従軍慰安婦と公娼制度: 従軍慰安婦問題再論』は、従軍慰安婦の「売春婦型」と「性的奴隷型」への区分けや、公娼制度との関連性、からゆきさんの視点など、興味深いテーマを扱ってはいるものの、全体的に分析の深さや厳密さに欠け、資料の検証や先行研究の踏まえ方が不十分であると批判されている。特に、著者の主観による結論の導き方や、基本的な主張が自明であることへの言及が、読者の期待に応えられていない点として挙げられている。

慰安婦類型論への批判・再録

騙したり強制連行されたような犯罪型の”慰安婦”は、日本の官憲がそもそも「慰安婦」として許可しなかった!法的に「慰安所」として許可されたのは、あくまで公娼制度の延長線上にある、あるいは軍の管理下で規律された施設だった。「犯罪型」の施設は、女性を騙したり、強制的に連行したりして売春を強要するものであり、これは当時の日本の法律においても、そして日本の官憲の建前においても明確な違法行為であった。そうした場所を、軍が「慰安所」として公式に許可することはありえない、むしろ、それらは取り締まりの対象となるべき非合法な売春窟だったはずであり、そのような所で、”性的奴隷”状態のまま女性たちが働いている違法行為を日本の官憲が見逃すわけがない!従って、「慰安婦」を”性的奴隷型”と分類する発想そのものが、「慰安婦」が何たる存在であったかを見誤っている!

今一度言う、「慰安婦」は、”性奴隷”でも、”単なる売春婦”でもなかった、「慰安婦」である限り!

慰安婦論1)慰安婦問題に関する日本国政府の公式見解の韓国語への試訳
慰安婦論2) いわゆる「河野談話」への曲解を正す
慰安婦論3)談話後の記者会見でも河野は…
慰安婦論4)河野談話・英文テキストの分析
慰安婦論5)日本警察による朝鮮人悪徳業者検挙の新聞記事
慰安婦論6):慰安所設置の目的
慰安婦論7):慰安婦の証言の信憑性〜イ・ヨンス
慰安婦論8):慰安婦の証言の信憑性〜キル・ウォノク
慰安婦論9):兵隊やくざと慰安婦
慰安婦10) 慰安婦は性奴隷だったのか?
慰安婦論11) 賃労働と奴隷労働
慰安婦論12) 日本軍慰安所朝鮮人管理人の日記
慰安婦論13) 朴裕河・『帝国の慰安婦』著者のスタンス
慰安婦論14):李栄薫・『反日種族主義』編著者の歴史実証研究
慰安婦論15):朝鮮における妓生と公娼制度の導入
慰安婦論16):公娼制度の歴史と遊郭文化
慰安婦論17):公娼制度・慰安婦制度と女衒の手口
慰安婦論18):藤目ゆき・『性の歴史学』著者の学術研究と国際的支援活動
慰安婦論19):千田夏光・『従軍慰安婦』著者の功罪と"慰安婦問題"
慰安婦論20):ラムザイヤーによる慰安婦制度のゲーム理論的合理性の分析
慰安婦論21):C・サラ・ソー『慰安婦問題論』〜タイトル詐欺!?
慰安婦論22):倉橋正直・従軍慰安婦の売春婦型と性的奴隷型の2類型論
慰安婦論23):小野沢あかね・公娼制の民衆史・国際関係史と日本人慰安婦
慰安婦論24):吉見義明の強制連行論
慰安婦論25):ネット上に流布するコピペに対するAI評価+二日市保養所
慰安婦論26)慰安婦関連公文書の解釈論争
慰安婦論27):有村治子議員の慰安婦問題啓蒙政治活動と河野談話曲解
慰安婦論28):辻元清美議員・慰安婦問題国会質問
慰安婦論29)元慰安婦の算術、サックを知らない?あり得ない!
慰安婦論30):「従軍慰安婦」等の表現に関する質問・政府答弁のAI分析
慰安婦論31):オーラルヒストリー、元慰安婦らの証言と元兵士らの証言
慰安婦論32)日本共産党・従軍慰安婦強制論へのAI反論
慰安婦論33):貧困⇒女衒⇒娼婦
慰安婦論34):文玉珠、慰安婦は高給売春婦だった!?
慰安婦論35):AI女衒・遊郭・売春・立ちんぼ考

いいなと思ったら応援しよう!