慰安婦論14):李栄薫・『反日種族主義』編著者の歴史実証研究
『反日種族主義』は、元ソウル大学教授の李栄薫(イ・ヨンフン)氏が編集代表を務め、複数の韓国人研究者やジャーナリストが共著した書籍である。韓国における特定の歴史認識や対日観に対して、実証的なデータや歴史資料に基づいて批判的な検証を行った内容で、韓国および日本で大きな反響を呼んだ。
書籍『反日種族主義』について
概要:
2019年7月に韓国で出版され、同年11月に日本語版が文藝春秋から刊行された。副題は韓国版が『大韓民国危機の根源』、日本語版が『日韓危機の根源』。 本書は、韓国で広く受け入れられている日本統治時代や慰安婦問題、徴用工問題、独島(竹島)問題などに関する歴史認識に対し、それが事実に基づかない「嘘」や「扇動」によって形成された「反日種族主義」であると厳しく批判している。感情的な民族主義が歴史を歪曲し、それが韓国社会の危機や日韓関係の悪化の原因となっている、というのが本書の主要な主張である。
内容:
慰安婦の強制連行説や徴用工への賃金差別、日本の食糧収奪、土地収奪といった従来の韓国における通説に対して、当時の資料や統計を分析し、異なる見解を提示している。
例えば、慰安婦は公娼制度の一部であり強制連行を示す証拠はない、徴用工への賃金差別はなかった、食糧は収奪ではなく市場取引であった、といった主張が含まれる。
また、「種族主義」という言葉で、事実や理性よりも感情や集団的な同一性を優先する韓国社会の傾向を批判している。
本書がいわゆる嫌韓本とは一線を画すのは、経済史学などの専門家が一次資料にあたり、自らの良心に従って、事実を検証した結果をまとめたものであるということだ。
その結果、歴史問題の様々な点で、韓国の大勢を占めてきた歴史認識には大きな嘘があったことが明らかにされている。そしてそうした嘘に基づいた教育が何年も積み重ねられた結果、韓国の人々の多くは誤った歴史認識を正しいものと信じ込み、反日に駆られている。
民族主義というより、意見の合わないものを力ずくでも排除する非寛容な「種族主義」が韓国には蔓延しており、それが日韓の関係を危機に陥らせている根源なのである。
目次
日本語版序文
はじめに
プロローグ 嘘の国
第1部 種族主義の記憶
1 荒唐無稽『アリラン』
2 片手にピストルを、もう片方に測量器を
3 食糧を収奪したって
4 日本の植民地支配の方式
5 「強制動員」の神話
6 果たして「強制労働」「奴隷労働」だったのか
7 朝鮮人の賃金差別の虚構性
8 陸軍特別志願兵、彼らは誰なのか!
9 もともと請求するものなどなかった――請求権協定の真実
10 厚顔無恥で愚かな韓日会談決死反対
第2部 種族主義の象徴と幻想
11 白頭山神話の内幕
12 独島、反日種族主義の最高象徴
13 鉄杭神話の真実
14 旧総督府庁舎の解体――大韓民国の歴史を消す
15 親日清算という詐欺劇
16 ネバー・エンディング・ストーリー 「賠償!賠償!賠償!」
17 反日種族主義の神学
第3部 種族主義の牙城、慰安婦
18 我々の中の慰安婦
19 公娼制の成立と文化
20 日本軍慰安婦問題の真実
21 解放後の四十余年間、慰安婦問題は存在しなかった
22 韓日関係が破綻するまで
エピローグ 反日種族主義の報い
韓国での出版と反応:
韓国では保守系出版社から刊行され、発売直後から大きな議論を巻き起こした。従来の歴史認識を否定する内容に対して学界やメディア、市民団体から激しい批判や非難が巻き起こる一方で、既存の歴史観に疑問を持つ層からは支持を集め、ベストセラーとなった。著者たちへの個人攻撃や脅迫なども発生し、韓国社会における歴史認識問題を巡る分断を浮き彫りにした。
日本での出版と反応:
日本語版もベストセラーとなり、日本のメディアでも大きく取り上げられた。韓国の知識人自身が従来の歴史認識を批判している点に注目が集まり、日韓関係のあり方について考えるきっかけの一つとなった。
李栄薫(イ・ヨンフン)氏について
経歴:
1951年生まれ。韓国の経済史学者である。ソウル大学で韓国経済史を研究し、博士号を取得。韓神大学、成均館大学の教授を経て、韓国の最高学府であるソウル大学経済学部の教授を務め、2017年に定年退職し名誉教授となった。経済史学会会長や韓国古文書学会会長も歴任するなど、学術的なキャリアを持っている。定年退職後は、初代大統領である李承晩(イスンマン)の研究や、韓国の近代史に関する啓発活動を行う李承晩学堂の校長を務めている。
専門分野と主な主張:
専門は韓国経済史、特に朝鮮後期の土地制度や経済構造、日本統治時代の経済成長などに関する実証的な研究を行ってきた。 彼は、韓国の近代史において、日本統治時代にも経済成長や近代化の側面があったと評価するなど、従来の植民地収奪史観に対して批判的な立場を取ってきた。
また、慰安婦問題や徴用工問題についても、感情的な民族主義が歴史的事実を歪曲していると主張し、国内外で論争を巻き起こしている。
『反日種族主義』における役割:
『反日種族主義』は李栄薫氏が中心となって企画・編集を行い、自身も複数の章を執筆している。彼は本書の「はじめに」や「プロローグ 嘘の国」などを担当し、本書全体の基調となる、韓国社会の歴史認識に対する批判と「反日種族主義」の問題点を提起した。
人物像と論争:
李栄薫氏は、自身の研究に基づいて客観的な歴史認識の確立を目指すべきだと主張しており、韓国社会の感情的なナショナリズムや反日感情が、歴史の真実から目を背けさせていると批判している。 その率直な発言や従来の歴史認識に対する批判的な姿勢は、韓国国内で「親日派」といった強い非難や学術的な反論、さらには物理的な脅迫にまでつながり、大きな社会問題となった。
『反日種族主義』および『反日種族主義「慰安婦問題」最終結論』
慰安婦問題は、『反日種族主義』の著者たちにとって、韓国社会における「反日種族主義」が最も顕著に表れている問題の一つと捉えられている。彼らは、この問題に関する従来の韓国側の主張や運動が、歴史的事実に基づかず、感情的な民族主義や政治的目的によって歪曲されている「嘘」や「神話」であると主張する。
執筆者:朱益鍾(チュ・イクジョン)氏
特に慰安婦問題に関する詳細な検証は、主に共著者の一人である朱益鍾(チュ・イクジョン)氏が中心となって行っている。彼は李承晩学堂の理事も務める経済史研究者であり、『反日種族主義』本編でも慰安婦問題に関する章を執筆しているが、『反日種族主義「慰安婦問題」最終結論』は彼が単著で著したもので、より専門的かつ網羅的な分析が展開されている。
慰安婦問題に関する具体的な主張と「最終結論」
本書(特に続編)で示される慰安婦問題に関する主な主張や「最終結論」は以下の通り。
1)「強制連行」説の否定:
最も核心的な主張の一つは、日本軍や官憲による組織的な「強制連行」はなかったという点である。当時の公文書、新聞記事、関係者の証言などを詳細に分析し、慰安婦の募集は主に民間業者によって行われ、多くの場合は契約に基づくものであったと論じている。一部に人身売買や騙し討ちのようなケースはあった可能性を否定しないものの、それは当時の貧困問題や業者による悪質な行為に起因するものであり、日本政府や日本軍による広範かつ組織的な強制連行を示す証拠はないとしている。
元慰安婦の証言についても、時間が経過するにつれて内容が変化したり、他の証言と矛盾したりする点を指摘し、その信頼性に対して疑問を呈していまる。
2)「性奴隷」説の否定と公娼制度との関連:
慰安婦が「性奴隷」であったという主張も否定している。慰安所は当時の日本の公娼制度の延長上にあり、慰安婦はそこで働く契約売春婦であったと見なしている。彼女たちには収入があり、自由な時間や外出が許されており、貯蓄をして故郷に帰ることも可能であったケースが多く存在したことを示す資料を提示している。劣悪な環境や虐待が全くなかったとは言えないが、それは「奴隷」と定義されるような状況とは異なると主張している。
3) 慰安婦問題の政治問題化:
戦後長らく慰安婦問題が表面化しなかったのは、それが当時の公娼制度や貧困問題と関連付けられて捉えられていたためであり、1990年代以降に特定の運動家や政治家によって意図的に「日本による性奴隷制」という形で問題化された経緯を分析している。彼らは、この問題が日韓関係を悪化させるための政治的道具として利用されてきた面があるという見解を示している。
4) 韓国社会への批判:
慰安婦問題に関する「嘘」や「神話」が韓国社会に蔓延し、多くの国民がそれを事実として信じ込んでいる現状を厳しく批判している。こうした非科学的で非理性的な態度こそが「反日種族主義」の現れであり、真実に基づかない歴史認識が韓国社会の健全な発展を妨げ、国際社会における信頼を損なっていると主張している。
5) 「最終結論」の含意と論争
本書が「最終結論」と銘打っているのは、著者たちが自身の経済史研究者としての立場から、利用可能な資料を最大限に駆使し、実証的なアプローチによって慰安婦問題の真相に迫った結果として導き出された、彼らにとっての現時点での最も妥当な結論であるという意味合いである。
しかし、これらの主張は韓国国内の主流な歴史学界や市民社会、さらには国際社会の一部で受け入れられている見解とは大きく異なりる。そのため、本書の内容は韓国で激しい批判や反論を巻き起こし、「歴史歪曲」「日本の立場を擁護するものだ」といった非難にさらされています。学術的な手続きや資料解釈についても批判が存在する。
ただし、韓国社会内部から従来の歴史認識に異議を唱える声として、大きな波紋を広げた書籍であることは間違いない。
書籍『反日種族主義との闘争』について
概要:
韓国語版は2020年に出版され、日本語版も同年9月に文藝春秋から刊行された。前作『反日種族主義』で示された主張、特に日本統治時代に関する歴史認識、慰安婦問題、徴用工問題、独島(竹島)問題などについての著者たちの見解に対して、韓国国内から多数の批判や反論が展開された。本書はそれらの批判を詳細に検討し、事実に基づかないものや誤解であるとして再反論を行うことを主な目的としている。
出版背景:
『反日種族主義』の刊行後、著者たちは学術的な議論を超えた感情的な非難や攻撃にさらされた。本書の執筆は、こうした状況に対する著者たちの「闘争」の意思表示であり、彼らが正しいと信じる歴史認識を守り、韓国社会の「嘘」や「扇動」に立ち向かう姿勢を示している。前作が問題提起であったとすれば、本書はそれに対する反響への応答であり、著者たちの主張をより強固にする試みと言える。
著者: 前作と同様、李栄薫氏が編著者となり、複数の韓国人研究者やジャーナリストが共著している。彼らはそれぞれ自身の専門分野から、前作に対する批判を検証し、反論を展開している。
主な主張・内容
『反日種族主義との闘争』では、前作への批判に応える形で以下の点が特に掘り下げられている。
1) 前作への批判に対する徹底的な反論:
慰安婦問題における「強制連行」説や「性奴隷」説、徴用工への差別、日本の収奪論など、前作で否定あるいは疑問を呈した主張に対する反論に、具体的な資料や論理をもってさらに詳細に再反論している。批判側が提示した新たな資料や解釈についても検討を加え、それがなぜ本書の主張を覆すものではないのかを説明している。
2)「反日種族主義」概念の深掘り:
「反日種族主義」という概念について、その歴史的な形成過程や韓国社会に根付いた背景をさらに詳しく分析している。単なる「反日感情」ではなく、排他的で非寛容な「種族」的な思考様式が、どのように歴史認識を歪曲し、社会全体の非合理的な行動につながっているのかを論じている。李栄薫氏自身の論考では、韓国の精神文化やシャーマニズムとの関連性を示唆する記述も見られる。
3) 韓国社会の「嘘」の構造の分析:
なぜ韓国社会で歴史に関する「嘘」や「扇動」がまかり通りやすいのか、その社会構造や心理的な要因についても分析を深めている。学問の世界やメディア、政治、裁判といった様々な分野で、事実よりも感情や集団的な圧力が優先される傾向があると指摘し、それが健全な社会の発展を阻害していると批判している。
4) 学術的誠実さと「闘争」の姿勢:
本書全体を通して、著者たちが自身の研究と学術的誠実さに基づいて発言していること、そしてそれに対する不当な攻撃と「闘争」しているという姿勢が強調されている。批判に対する感情的な反論ではなく、あくまで資料に基づいた論理的な再反論であることを示そうとしている。
本書に対する反応
『反日種族主義との闘争』もまた、韓国国内では前作に引き続き大きな論争を巻き起こした。本書に対する批判は依然として強く、著者たちの主張を受け入れない立場からの反論や非難が続いた。一方、前作を支持した層からは、著者たちの勇気ある反論として評価された。
日本でも本書は翻訳出版され、日韓関係に関心を持つ人々から注目を集めた。韓国国内からの批判に対して韓国の研究者自身が応答しているという点に、複雑な日韓関係の現状を理解する上での新たな視点を見出す人もいる。
総じて、『反日種族主義との闘争』は、前作が巻き起こした論争に対する著者たちの詳細な応答であり、「反日種族主義」という彼らの問題提起をさらに強化し、その概念を深掘りした書籍と言える。本書は、韓国社会における歴史認識問題を巡る激しい対立の一端を示すものとなっている。
YouTube:李承晩TV
⇒慰安婦論1)慰安婦問題に関本国へ政府の公式見解の韓国語への試訳
⇒慰安婦論2) いわゆる「河野談話」への曲解を正す
⇒慰安婦論3)談話後の記者会見でも河野は…
⇒慰安婦論4)河野談話・英文テキストの分析
⇒慰安婦論5)日本警察による朝鮮人悪徳業者検挙の新聞記事
⇒慰安婦論6):慰安所設置の目的
⇒慰安婦論7):慰安婦の証言の信憑性〜イ・ヨンス
⇒慰安婦論8):慰安婦の証言の信憑性〜キル・ウォノク
⇒慰安婦論9):兵隊やくざと慰安婦
⇒慰安婦10) 慰安婦は性奴隷だったのか?
⇒慰安婦論11) 賃労働と奴隷労働
⇒慰安婦論15):朝鮮における妓生と公娼制度の導入
⇒慰安婦論16):公娼制度の歴史と遊郭文化
⇒慰安婦論17):公娼制度・慰安婦制度と女衒の手口
⇒慰安婦論18):藤目ゆき・『性の歴史学』著者の学術研究と国際的支援活動⇒慰安婦論19):千田夏光・『従軍慰安婦』著者の功罪と"慰安婦問題"
⇒慰安婦論20):ラムザイヤーによる慰安婦制度のゲーム理論的合理性の分析
⇒慰安婦論21):C・サラ・ソー『慰安婦問題論』〜タイトル詐欺!?
⇒慰安婦論22):倉橋正直・従軍慰安婦の売春婦型と性的奴隷型の2類型論
⇒慰安婦論23):小野沢あかね・公娼制の民衆史・国際関係史と日本人慰安婦
⇒慰安婦論24):吉見義明の強制連行論
⇒慰安婦論25):ネット上に流布するコピペに対するAI評価+二日市保養所
⇒慰安婦論26)慰安婦関連公文書の解釈論争
⇒慰安婦論27):有村治子議員の慰安婦問題啓蒙政治活動と河野談話曲解
⇒慰安婦論28):辻元清美議員・慰安婦問題国会質問
⇒慰安婦論29)元慰安婦の算術、サックを知らない?あり得ない!
⇒慰安婦論30):「従軍慰安婦」等の表現に関する質問・政府答弁のAI分析
⇒慰安婦論31):オーラルヒストリー、元慰安婦らの証言と元兵士らの証言
⇒慰安婦論32)日本共産党・従軍慰安婦強制論へのAI反論
⇒慰安婦論33):貧困⇒女衒⇒娼婦
⇒慰安婦論34):文玉珠、慰安婦は高給売春婦だった!?
⇒慰安婦論35):AI女衒・遊郭・売春・立ちんぼ考
