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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定 精神科病院編 第38回

第38回 精神科救急は「看板」では評価されない──受入実績で選別される病院

精神科病院の経営者と話していると、「うちは精神科救急をやっている」という言葉をよく耳にします。
確かに精神科救急は地域にとって不可欠な機能です。

夜間や休日でも患者を受け入れる。
措置入院に対応する。 警察や消防と連携する。
その役割は決して小さくありません。

しかし令和8年度診療報酬改定を見ていて、私は明確な変化を感じました。

それは、
精神科救急を“持っている病院”と、
精神科救急が“機能している病院”を国が区別し始めた。
ということです。

今回の改定は、精神科救急病院に対して、「救急を標榜しているか」ではなく、「実際に地域の救急医療を支えているか」を問う改定だったのではないでしょうか。

■ 精神科救急の価値基準が変わった

これまで精神科救急は、

  • 指定の有無

  • 輪番参加

  • 当直体制

といった「体制面」が重視されてきました。もちろん今も重要です。

しかし今回の改定では、精神科救急急性期医療入院料や救急医療体制加算において、実際の受入実績や患者の状態をより重視する方向性 が示されました。

私はここに大きな意味があると考えています。
なぜなら、精神科救急は制度ではなく機能だからです。
看板を掲げていても、 受け入れられなければ地域医療は守れません。

■ 私が最初に見る5つの数字

精神科救急病院の相談を受ける際、私は次の数字を必ず確認します。

① 救急受入件数

地域からどれだけ必要とされているか。最も分かりやすい指標です。

② 夜間・休日入院割合

精神科救急の本当の負荷は夜間に現れます。昼間だけでは実態は見えません。

③ 措置入院・緊急入院割合

地域の「最後の受け皿」になれているか。病院の立ち位置が分かります。

④ 応需率

救急要請に対してどれだけ受け入れたか。私は最重要指標だと考えています。

⑤ 平均在院日数

受け入れた後、どれだけ早く次の患者を受け入れられるか。病床機能が見えます。

■ 救急病院を苦しめる本当の原因

精神科救急病院の課題は、医師不足だけではありません。 看護師不足だけでもありません。

私が現場で見てきた中で最も深刻なのは、病床が回らないこと です。
救急患者を受け入れる。 しかし退院先が決まらない。 入院が長期化する。 病床が埋まる。 次の救急患者を断る。

こうした悪循環は珍しくありません。

つまり、
精神科救急の課題は救急部門だけの問題ではない。
病院全体の構造の問題である。
ということです。

■ 「受ける力」より「回す力」

精神科救急病院を見る時、私は受入能力だけを見ません。
本当に重要なのは、回す力 です。

患者を受け入れる。 治療する。 状態を安定させる。 退院支援を行う。 次の患者を受け入れる。

この流れが機能して初めて、精神科救急は地域医療として成立します。

■ なぜ今、精神科救急が重要なのか

2040年に向けて、精神科救急の重要性はさらに高まります。

  • 独居高齢者の増加

  • 認知症患者の増加

  • 家族支援力の低下

  • 身体合併症を抱える精神科患者の増加

これらが重なれば、地域で支えきれない患者が増えます。
その時、 最後の受け皿になるのが精神科救急病院です。

精神科救急は病院機能の一つではなく、地域インフラそのものになりつつあります。

■ 財政審議会が見ている未来

診療報酬改定を見る際、私は財政制度等審議会の議論も必ず確認します。
そこで繰り返し語られているのは、効率化ではなく、 持続可能性 です。

精神科救急も同じです。限られた人材。 限られた財源。
その中で、本当に地域に必要な機能を維持できるか。
国はそこを見ています。

だから今後は、体制だけではなく成果が問われる時代になります。

■ 生き残る精神科救急病院の共通点

私は今後、強い精神科救急病院には次の共通点が生まれると考えています。

  • 救急を断らない

  • 応需率が高い

  • 病床回転が速い

  • 身体合併症へ対応できる

  • 一般病院と連携している

つまり、救急を病棟の仕事ではなく、病院全体の機能として運営している病院 です。

■ 最後に──令和8年度改定が評価したもの

精神科救急急性期医療入院料。 救急医療体制加算。
これらを見ていると、国が本当に評価したいものが見えてきます。

それは、病床数ではありません。 指定の有無でもありません。
地域が困った時に、実際に患者を受け入れ、治療し、次へつなげる力です。

今回の改定は、精神科救急病院への負担増ではなく、
本当に機能している病院を評価するための改定 だと私は考えています。

そして今後、精神科救急病院の価値は、何床持っているかではなく、地域からどれだけ必要とされているかで決まる時代になるでしょう。

■ 次回予告

第39回 身体合併症を診られない精神科病院は生き残れない──令和8年度改定が突きつけた現実
精神科患者の高齢化が進む中で、新設された「精神科慢性身体合併症管理加算」と見直された「精神科リエゾンチーム加算」は何を意味するのでしょうか。次回は、精神科病院に求められる新たな医療機能について考えてみたいと思います。


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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

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第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
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