【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第6回
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
2026/6/24リライト
令和8年度診療報酬改定を振り返ると、多くの病院が最初に注目したのは医療DXでした。
電子処方箋
電子カルテ情報共有サービス
オンライン資格確認
標準型電子カルテ
どれも重要で、経営会議の議題にも上がりやすいテーマです。
実際、改定直後は
「医療DX加算をどう取得するか」
が病院の最優先課題になっていたところも多かった。
しかし、改定から数か月が経ち、現場を歩いていて感じるのは、
今回の改定で本当に病院経営を変えたのは“医療DX加算そのもの”ではなかった
ということです。
むしろ、国が示したのは
「実績で評価する時代への転換」
だったのではないでしょうか。
■DXに注目しすぎて、本質を見落とした病院が多い
医療DXは“導入すれば点数が取れる”という分かりやすさがあります。
新しいシステムを入れる
加算を取得する
補助金を活用する
経営者にとって取り組みやすいテーマでした。
しかし、実際に成果が出ている病院は、DXを“導入した病院”ではなく、
DXを“経営改善に結びつけた病院”です。
●成果が出ている病院のDX活用
DPCデータ分析
救急搬送分析
地域連携分析
在院日数管理
病床稼働予測
診療科別収益構造の可視化
こうした“経営判断の材料”としてDXを使っている病院は、確実に成果を出しています。
一方で、
電子カルテを更新しただけ
電子処方箋を導入しただけ
という病院では、経営改善効果は限定的です。
DXは魔法ではありません。
経営判断を支える情報基盤です。
■今回の改定の主役は「実績評価」だった
改定全体を俯瞰すると、ほぼすべての領域で
「実績評価」
が強化されています。
●DPC
病院群再編(標準病院群1・2)
機能評価係数Ⅱの強化
地域医療係数の見直し
●地域包括医療病棟
救急受入実績
在宅復帰実績
多職種連携
●回復期リハ病棟
アウトカム評価
ADL改善
在宅復帰率
●高齢者救急
受入体制
地域連携
救急搬送対応
共通しているのは、
「何を持っているか」ではなく「何をやったか」が評価される
という点です。
私はここが今回最大の変化だったと感じています。
■医療DXは“評価項目”ではなく“評価基盤”
医療DXの本当の役割は、
病院の実績を可視化すること
です。
救急搬送件数
平均在院日数
DPC係数
紹介率
逆紹介率
在宅復帰率
地域シェア
これらを把握しなければ改善できません。
つまり、DXは
点数を取るためのものではなく、実績評価に対応するための基盤
なのです。
ここを理解している病院ほど、改定後の経営が安定しています。
■DPC改定に見える厚労省の本音
今回のDPC改定は象徴的でした。
標準病院群は初めて
標準病院群1
標準病院群2
に分かれました。
基礎係数は:
区分基礎係数 標準病院群11.0583 標準病院群21.0283
差は0.03。
包括収入30億円の病院なら、
約9,000万円規模の差です。
厚労省が見ているのは、
「電子カルテを入れたか」ではありません。
救急を受けているか
手術をしているか
急性期機能を果たしているか
地域に貢献しているか
です。
DXは、その実績を把握するための“道具”に過ぎません。
■院長が毎月見るべき数字は変わった
以前は、
病床稼働率
患者数
医業収益
が中心でした。
しかし今は、それだけでは不十分です。
私なら次の数字を毎月確認します。
① 機能評価係数Ⅱ
病院の“実力”を示す指標。
② 救急搬送受入件数
地域急性期機能の指標。
③ 紹介率・逆紹介率
地域連携の指標。
④ 在宅復帰率
退院支援力の指標。
⑤ DPCデータ分析結果
経営改善の材料。
これらはすべて、今回の改定で強化された“実績評価”に直結します。
■2040年問題と「実績評価時代」
今回の改定の背景には、2040年問題があります。
生産年齢人口の減少
医療従事者不足
高齢者の急増
医療費の抑制
これらが同時に進む中で、国は
「病床数」ではなく「成果」で評価する方向へ舵を切った
と言えます。
DXもその流れの一部です。
■医療DX加算を取った病院が勝つわけではない
ここが最も誤解されやすい点です。
医療DX加算を取得した病院が勝ち組になるわけではありません。
勝つのは、
DXを活用して実績を改善した病院
です。
逆に、加算だけ取得して満足してしまうと、
数年後には他院との差が広がる可能性があります。
■最後に──令和8年度改定は「実績評価時代の始まり」
令和8年度改定を振り返ると、多くの病院が医療DX加算に注目しました。
それは間違いではありません。
しかし、改定の本質はそこではなかった。
今回の改定で国が評価し始めたのは、
「何を導入したか」ではなく「どのような成果を出したか」
です。
DPC。
地域包括医療病棟。
回復期リハ病棟。
高齢者救急。
地域連携。
そのすべてに共通するのは、
実績評価です。
医療DXはゴールではありません。
実績を可視化し、改善し、地域に価値を提供するための基盤です。
数年後に振り返ったとき、令和8年度改定は
「医療DX改定」ではなく「実績評価時代の始まり」
として記憶されるのではないでしょうか。
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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定
「病院選別」シリーズ
第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由
病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む
第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件
