【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第13回
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
2026/6/24リライト
令和8年度診療報酬改定が終わりました。
多くの病院経営者の関心は、目の前の課題に向いていると思います。
賃上げ対応。
医療DX。
地域包括医療病棟。
高齢者救急。
DPC改定。
どれも重要です。
実際、経営への影響も小さくありません。
ただ、改定内容を改めて見ていて、私は強く感じたことがあります。
今回の改定は、令和8年度だけを見た改定ではない。
むしろ国が見ているのは、2040年ではないか。
医療関係者と話していても、
「来年度をどう乗り切るか」
という話はよく出ます。
一方で、
「2040年に病院をどう残すか」
という話は、意外なほど少ない。
しかし、本当に怖いのは来年度ではありません。
2040年です。
あなたの病院は、2040年にも今のまま存在できるでしょうか。
2040年問題とは何か
2040年問題という言葉は、多くの方が聞いたことがあると思います。
高齢者が増える。
現役世代が減る。
医療と介護の需要が増える。
人材確保が難しくなる。
大きく言えば、そういう話です。
ただ、病院経営の現場で見ると、もっと切実です。
患者は増える。
しかし職員は増えない。
むしろ減る。
ここが本質です。
75歳以上、85歳以上の高齢者は今後も増えます。
一方で、生産年齢人口は減っていきます。
つまり、医療を必要とする人は増えるのに、医療を支える人は減る。
この構造が、中小病院の経営を直撃します。
令和8年度改定は、この現実を前提に作られているように見えます。
地域差は病院の生存率に直結する
2040年問題は全国一律ではありません。
地域によって、深刻さは大きく違います。
首都圏では、高齢者人口の増加と人材不足が同時に進みます。
患者は増える。
しかし看護師や介護職は採りにくい。
都市型の人材不足です。
一方で、北海道・東北、九州・四国、離島・中山間地域では、人口減少と高齢化が同時に進みます。
患者数は減る地域もある。
しかし高齢者救急や介護連携の負担は増える。
医師も看護師も集まりにくい。
この差はかなり大きい。
同じ200床病院でも、都市部と地方ではまったく違う経営課題になります。
だから2040年問題は、全国平均で見ると危険です。
自院の医療圏で見る必要があります。
今回の改定は“人材不足前提”で作られている
令和8年度改定の特徴は、人材が十分に確保できる前提を置いていないことです。
ここが過去の改定との大きな違いだと思います。
医療DX。
看護補助者の活用。
多職種連携。
タスクシフト。
高齢者救急。
地域包括医療病棟。
DPC標準病院群の再編。
これらは一見すると別々の改定です。
しかし根っこは同じです。
限られた人材で、どう地域医療を維持するか。
この問いに向き合った改定です。
私はここに、厚労省の危機感を感じています。
中小病院ほど影響が大きい
大規模病院には、まだ余力があります。
人材採用力もある。
教育体制もある。
専門部署もある。
しかし中小病院は違います。
看護師が3人辞めるだけで、病棟運営が変わります。
常勤医が1人抜けるだけで、外来も救急も揺らぎます。
事務職が数人辞めれば、施設基準管理や診療報酬改定対応にも影響します。
医療関係者と話していて感じるのは、
「病床はある。でも人がいない」
という声の多さです。
患者はいる。
病床もある。
地域ニーズもある。
しかし職員がいない。
その結果、病棟を閉める。
これはもう珍しい話ではありません。
2040年を待たずに、すでに始まっています。
高齢者救急が未来を先取りしている
今回の改定を考える上で、高齢者救急は象徴的です。
救急搬送の中心は、すでに高齢者です。
肺炎。
心不全。
尿路感染症。
脱水。
転倒。
骨折。
軽度意識障害。
こうした患者が増えています。
しかも高齢者救急は、診断して終わりではありません。
退院先。
介護保険。
家族支援。
認知症対応。
在宅医療。
すべてが絡みます。
つまり、高齢者救急は医療だけでは完結しません。
地域の受け皿が必要です。
だから令和8年度改定では、高齢者救急、地域包括医療病棟、入退院支援、在宅連携が同じ方向を向いているように見えます。
高齢者を地域で受け止める。
この体制を作れる病院を評価する。
そういう流れです。
DXの本当の意味は“省人化”である
DXというと、電子カルテや電子処方箋の話になりがちです。
もちろんそれも重要です。
ただ、病院経営の視点では、DXの本質は省人化だと思っています。
言葉としては少し冷たく聞こえるかもしれません。
しかし現実です。
人が足りない時代に、同じ業務を同じ人数で続けることはできません。
会議資料作成。
施設基準管理。
診療報酬改定対応。
DPC分析。
経営データ集計。
採用広報。
こうした仕事を、すべて人力で続けるのは限界があります。
AIやDXは、職員を減らすためのものではありません。
人がやらなくてよい仕事を減らし、人にしかできない仕事へ集中するためのものです。
令和8年度改定でDXが重視された背景にも、この人材不足があります。
危険なのは“現状維持”
病院経営者と話していると、
「もう少し様子を見たい」
という言葉を聞くことがあります。
気持ちは分かります。
制度は変わる。
補助金も変わる。
地域事情も違う。
ただ、2040年問題については様子見が最も危険かもしれません。
高齢者は増えます。
現役世代は減ります。
医療人材の確保は厳しくなります。
ここは大きく変わりません。
だから現状維持は、実は維持ではありません。
少しずつ後退していく選択です。
生き残る病院の共通点
今回の改定を見ていて感じるのは、病院規模より病院機能が問われていることです。
何床あるか。
どれだけ広い建物か。
そういう話ではありません。
地域で何を担うのか。
ここが問われています。
高齢者救急を担うのか。
在宅支援を担うのか。
回復期を担うのか。
急性期を担うのか。
役割が明確な病院は強い。
逆に、何でも少しずつやる病院は苦しくなるかもしれません。
これは冷たい話ではありません。
地域医療を残すために、役割を絞る必要が出てきたということです。
最後に
令和8年度診療報酬改定は、一見すると賃上げ、DX、高齢者救急、地域包括医療病棟への対応を中心とした改定に見えます。
しかし少し引いて見ると、別の姿が見えてきます。
それは、2040年の医療提供体制を見据えた改定です。
人材不足。
高齢化。
地域医療再編。
病院機能の明確化。
今回の改定で示された方向性は、すべて2040年につながっています。
病院経営で本当に重要なのは、改定項目を追いかけることではありません。
改定の背景にある未来を読むことです。
その視点で考えると、令和8年度改定は単なる制度改正ではなく、中小病院に対する警鐘だったようにも見えます。
これから問われるのは、
「どの加算を取るか」
ではありません。
「2040年に向けて、自院の役割をどう定義するか」
です。
数年後に振り返ったとき、多くの病院が今回の改定を転換点だったと語るかもしれません。
そのとき生き残っている病院は、点数表だけを読んでいた病院ではなく、人口構造の変化を読んでいた病院なのではないでしょうか。
📌 2040年対応の最初の3ステップ
自院の医療圏の2040年人口構造を確認する
高齢者救急 → 包括 → 在宅の導線を可視化する
紙運営の業務を棚卸しし、DX化の優先順位を決める
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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定
「病院選別」シリーズ
第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由
病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む
第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
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第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
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最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件
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