【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第18回
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
退院先が見つからない──それは病院経営の問題になった
最近、院長先生や事務長と話していて強く感じることがあります。
それは、
「患者はいるのに病床が回らない」
という悩みが確実に増えていることです。
救急車は来る。
紹介患者も来る。
病床稼働率も高い。
それでも経営は思ったほど改善しない。
なぜか。
理由の一つが 退院先の不足 です。
治療は終わっている
しかし在宅へ戻れない
施設も空いていない
家族も受け入れられない
結果として患者は病院に残り続ける。
すると病床が詰まり、新たな患者を受け入れられなくなる。
これはもはや一部地域の話ではありません。
全国で起き始めている構造的な現象 です。
令和8年度診療報酬改定を見ていて私が強く感じたのは、
「介護とつながれる病院」が評価される時代に入った
ということです。
高齢者救急が増えるほど、介護連携は“病院の生命線”になる
令和8年度改定を理解する上で欠かせないのが 高齢者救急 です。
消防庁の統計では、救急搬送患者の 6割以上が高齢者。
そして2040年に向けて、85歳以上人口はさらに増えます。
つまり、
肺炎
心不全
尿路感染症
転倒骨折
誤嚥
といった高齢者救急は確実に増え続けます。
しかし高齢者医療の本質は、
治療だけでは終わらない
という点にあります。
認知症
独居
老老介護
介護保険
施設調整
訪問看護
ケアマネジャー調整
医療だけでは完結しない。
退院後の生活まで含めて“医療”になる。
医療関係者と話していて感じるのは、
「病院の問題が地域の問題になっている」
という現実です。
病院単独では解決できない課題が確実に増えています。
今回の改定が示したメッセージ
病院の価値は「どれだけ入院させたか」ではなく「どれだけ地域へ戻せたか」
令和8年度改定では、
地域包括医療病棟
入退院支援
高齢者救急
在宅医療
地域連携
といったテーマが強く打ち出されました。
一見すると別々の改定に見えます。
しかし共通するキーワードは 「地域完結型医療」 です。
病院だけで患者を支える時代ではない。
病院・介護・在宅が一体で患者を支える時代へ移行する。
特に入退院支援や地域包括医療病棟の考え方を見ると、
病院の価値は「どれだけ地域へ戻せたか」へ変わり始めています。
実は病院の競争相手は“病院ではない”
多くの経営者が見落としがちなのはここです。
病院経営の競争相手は、
近隣の病院ではありません。
本当の競争相手は、
介護施設
訪問看護
ケアマネジャー
地域包括支援センター
です。
同じ200床の病院でも、
A病院
施設との連携多数
訪問看護との関係良好
退院調整が早い
B病院
介護との接点が少ない
退院調整が遅い
紹介先不足
では、病床回転率がまったく違います。
結果として、
救急応需率
紹介件数
病床稼働率
収益
まで差が広がります。
病院経営の勝負は院内だけではなくなっている。
「退院先を持つ病院」が強くなる
私は今後、病院の強さを決めるのは病床数ではなく、
「退院先を持っているか」
だと思っています。
自前の施設を持つ必要はありません。
重要なのは 地域との接続 です。
退院支援担当者が施設担当者と日常的に連絡を取っているか
ケアマネジャーとの信頼関係があるか
訪問看護ステーションとの連携が機能しているか
ここに大きな差が生まれています。
地域連携が強い病院では、
退院調整日数が短い
救急患者を受けられる
病床回転率が高い
紹介患者が増える
という好循環が生まれます。
逆に介護との接点が弱い病院は、
病床が詰まり始めます。
私はこれを 「出口渋滞」 と呼んでいます。
入口(救急・紹介)を増やしても、
出口が詰まれば経営は改善しません。
2040年問題で起きること
退院先の争奪戦が始まる
2040年に向けて、
高齢者は増える
介護人材は不足する
医療従事者も不足する
この流れは確実です。
そのとき何が起きるか。
私は、
「退院先の争奪戦」
が始まると考えています。
今でも施設入所待ちは珍しくありません。
今後さらに高齢者が増えれば、
退院支援はもっと難しくなります。
だからこそ今のうちから、
介護事業者との関係構築を進めている病院は強い。
逆に、
退院先はMSW任せ
介護連携は担当者任せ
という病院は、確実に厳しくなります。
院長・事務長が今確認すべき5つの数字
もし私が病院経営者なら、次の数字を必ず確認します。
① 在宅復帰率
② 退院調整日数
③ 救急応需率
④ 地域連携件数
⑤ 退院先別患者数(施設・在宅・家族)
病床稼働率だけを見ていても病院の未来は見えません。
患者がどこへ流れているか。
地域との接続ができているか。
こちらの方が重要です。
最後に──これから評価されるのは「地域を持つ病院」
令和8年度診療報酬改定を俯瞰すると、
高齢者救急
地域包括医療病棟
在宅医療
入退院支援
そのすべてが 介護との連携を前提 に設計されています。
国が見ているのは病院単体ではありません。
地域全体の医療・介護のつながり です。
病院経営において重要なのは、
どの加算を取るかではなく、
どれだけ地域とつながっているか。
これから評価されるのは、
病床を持つ病院ではない。
地域を持つ病院です。
そして数年後に振り返ったとき、
病院間格差を生んでいたのは病床数でも診療科数でもなく、
「患者を安心して地域へ戻せる仕組みを持っていたかどうか」
だったのかもしれません。
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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定
「病院選別」シリーズ
第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由
病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む
第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件
