【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第8回
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
2026/6/24リライト
病院経営者と話していて、AIという言葉が出ると多くの方がまず思い浮かべるのは画像診断です。
あるいは電子カルテの音声入力。
確かにそれもAIです。
しかし、令和8年度診療報酬改定後の病院経営を見ていると、
本当に大きなインパクトを持つのは診療現場ではなく、経営そのもの
だと感じます。
今回の改定には「AI加算」は存在しません。
にもかかわらず、AIを活用している病院と、そうでない病院の差は確実に広がり始めています。
なぜか。
今回の改定が、
「実績評価」と「データ活用」を前提にした制度へ転換したから
です。
■AI加算はない。でも“AI病院”は確実に有利になる
ここが今回の最大のポイントです。
令和8年度改定で評価されるのは、
AIを導入したかどうかではありません。
評価されるのは、
救急受入実績
DPC係数
地域連携
在宅復帰率
入退院支援
病床運営効率
つまり、
「実績を出せる病院」だけが評価される仕組み
に変わりました。
そして実績を出すためには、
データを扱える病院であることが必須です。
AIはそのための“道具”です。
■AIは診療より先に「事務部門」を変える
現場を歩いていて強く感じるのは、
AIの効果が最も大きいのは診療現場ではなく事務部門
だということです。
例えば、
会議資料作成
DPC分析
診療報酬改定の要点整理
行政通知の要約
議事録作成
マニュアル整備
こうした業務はAIとの相性が非常に良い。
以前なら事務長や医事課長が半日かけていた作業が、
AIを使えば30分で終わることも珍しくありません。
ある事務長が診療報酬改定のたびに嘆いていた
「読み込みだけで数日かかる」
ことが改善されるのです。
これは単なる効率化ではなく、
人材不足への最も現実的な対策です。
■DPC分析はAIで“別物”になる
今回の改定で最も重要になったのがDPCです。
標準病院群1・2への再編
機能評価係数Ⅱの重要性向上
地域医療係数の見直し
これらに対応するには、膨大なデータ分析が必要です。
しかし実際には、
診療情報管理士や事務部門が忙しく、十分な分析ができていない病院も多い。
AIはここで圧倒的な力を発揮します。
診療科別比較
在院日数分析
救急受入分析
地域シェア分析
こうした“下準備”をAIが担うことで、
人間は意思決定に集中できるようになります。
私は今後、
DPC分析にAIを使う病院と使わない病院の差は確実に広がる
と感じています。
■AIは“人材不足時代のインフラ”になる
今回の改定を通して感じるのは、
ほぼすべての制度改定が「人材不足」を前提にしていることです。
看護配置
医療DX
地域包括医療病棟
回復期リハ病棟
どれも根底にあるのは、
「人が足りなくなる」という前提です。
その中でAIは、
新たな人材を採用する方法ではありません。
今いる人材の生産性を高める方法です。
これは非常に大きな違いです。
■院長の仕事も変わる──“勘と経験”から“データと判断”へ
個人的には、ここが最も大きな変化だと思っています。
これまで院長の意思決定は、
経験と勘に依存する部分が少なくありませんでした。
もちろんその価値は今後も変わりません。
しかし今は、
データに基づく判断が求められる時代です。
DPC係数改善
救急受入戦略
病床再編
地域包括医療病棟の運営
こうした判断をするとき、
AIは情報整理を大幅に支援します。
院長が“考える時間”を増やしてくれるのです。
■すでに差は始まっている
私が病院を見ていて感じるのは、
AI導入の差ではありません。
AI活用の差です。
ChatGPTのような生成AIを使い、
会議資料
改定分析
マーケティング
採用広報
まで行っている病院があります。
一方で、
「AIはまだ早い」
と考える病院もあります。
この差は今は小さいかもしれません。
しかし5年後には、
病院の競争力そのものを左右する差になるでしょう。
■2040年問題とAI──避けられない未来
2040年に向けて、
医師不足
看護師不足
事務職不足
が同時に進みます。
従来と同じ人数で同じ仕事を続けることは不可能です。
だからこそAIは、
便利なツールではなく、
病院経営を維持するためのインフラ
になる可能性があります。
今回の改定は、その未来を示唆しています。
■院長が今すぐ始めるべき3つのAI活用
私なら、まず次の3つから始めます。
① 改定分析へのAI活用
通知・疑義解釈の要点整理。
② DPC分析の下準備
係数改善ポイントの抽出。
③ 会議資料作成
事務部門の負担を大幅に削減。
この3つだけでも、
病院の“意思決定スピード”が劇的に変わるはずです。
まずはChatGPT(無料版でも可)に厚労省のPDFを読み込ませることから始めてみてください。
■最後に──令和8年度改定は「AI加算」ではなく「AI格差」の始まり
令和8年度改定にはAI加算はありません。
しかし改定全体を見ると、
AIを活用する病院ほど有利になる制度設計が進んでいます。
実績評価
データ活用
DPC分析
地域連携
人材不足対策
そのすべてにAIが関わります。
AIは診療報酬を直接増やしてくれるわけではありません。
しかし、
病院が評価されるための行動を加速してくれる
という点で、今回の改定の“隠れた主役”です。
数年後に振り返ったとき、令和8年度改定は
「医療DX改定」ではなく
「AI活用病院と非活用病院の差が広がり始めた改定」
として語られるのではないでしょうか。
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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定
「病院選別」シリーズ
第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由
病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む
第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件
