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【病院幹部のための診療報酬改定完全解説】病院経営の未来を読む 第27回

第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由


数字は揃っているのに、病院が変わらない理由

病院の経営会議に出席すると、時々、不思議な光景に出会います。

事務長が月次実績を読み上げます。
「今月の医業収益は前年同月比98%です」 「病床稼働率は87.2%でした」 「外来患者数は3.5%減少しています」 「人件費は予算を上回りました」

院長が尋ねます。
「なぜ患者が減ったのですか」

担当者が答えます。
「地域全体の患者数が減っていると思われます」

そして最後は、
「引き続き注視していきましょう」
で終わります。

翌月も、ほぼ同じ話を繰り返します。
資料は立派です。 数字も揃っています。 幹部も出席しています。
それでも病院は変わりません。

理由はとても単純です。
数字を報告しているだけで、何も決めていないからです。

■ 経営会議が「月次報告会」になっていませんか

多くの病院では、毎月の経営会議で数字を確認します。
医業収益 入院・外来収益 病床稼働率 患者数 人件費 材料費

数字を見ること自体は正しいです。
しかし問題は、その後です。

例えば、
「病床稼働率が90%から84%に下がった」
とします。

報告だけの会議では、
「下がりました」 「患者数が減っています」 「来月も注視します」
で終わります。

しかし、本当に議論すべきなのはその先です。
なぜ下がったのか。

新入院が減ったのか。 救急受入が減ったのか。 紹介患者が減ったのか。 退院が詰まったのか。 病床閉鎖があったのか。

原因によって、打ち手はまったく違います。
数字は答えではありません。

数字は「次に何を問うべきか」を示す入口です。

私が経営会議で最初に見るのは「差」です

私は経営会議で、単月の数字だけを見ることはしません。

見るのは、
「何と比べて、どれだけズレたのか」
です。

前年との比較 予算との比較 前月との比較 計画との比較

医業収益が10億円でも、それだけでは評価できません。
予算が9.5億円なら上振れです。 予算が10.5億円なら未達です。

そして最も重要なのは、
「なぜ5,000万円ズレたのか」です。

患者数なのか。 単価なのか。 病床回転なのか。 手術件数なのか。 診療科構成なのか。

ここまで分解して初めて、経営判断ができます。
数字を見るのではなく、 数字のズレと、その理由を見るのです。

原因が曖昧な会議では、対策も曖昧になります

病院経営でよく聞く言葉があります。
「患者が減った」 「人件費が上がった」 「材料費が増えた」
一見、原因のように聞こえますが、ほとんどが“現象”です。

患者が減ったなら、なぜ減ったのか。

紹介が減ったのか。 救急を断ったのか。 医師退職なのか。 診療日が減ったのか。 地域人口なのか。

人件費が上がったなら、なぜ上がったのか。

採用増なのか。 残業増なのか。 派遣依存なのか。 夜勤体制なのか。 賃上げなのか。

原因を曖昧にしたまま、
「患者を増やしましょう」 「人件費を抑えましょう」
と言っても、現場は動けません。

経営会議の役割は、
問題を“動ける大きさ”まで分解することです。

■ 誰も反対しない経営会議は危険です

院長が言います。
「救急をもっと受けましょう」
全員がうなずきます。

しかし、本当に受けられるのでしょうか。

夜勤看護師は足りるのか。 当直医は確保できるのか。 病床は空いているのか。 退院支援は回るのか。 現場が壊れないか。

本来の経営会議では、
「その方針は今の人員では難しいです」
「先に退院支援を改善すべきです」
「この投資では回収できません」

という反対意見が出てよいのです。
むしろ、出ない方が危険です。

「あえて反対の立場から発言する役割(デビルズ・アドボケイト)を置く」といった、会議運営の手法もあります。

経営会議は、院長の方針を確認する儀式ではありません。
経営判断の質を上げるために、異なる視点をぶつける場です。

会議で最も重要なのは「誰が・いつまでに・何をするか」

私は経営会議の最後に必ず3つを確認します。
誰がやるのか いつまでにやるのか 何をもって完了とするのか

「紹介患者を増やす」では弱いです。

そうではなく、
「地域連携室長が、今月末までに紹介減少上位10医療機関を分析する」
ここまで決めます。

さらに、
「翌月の会議で、減少理由と対策を報告する」
まで置きます。

経営会議は、 “決める場”であって、“報告する場”ではありません。

90分の会議より、30分の意思決定が価値を生みます

私は経営会議を4つに分けることを提案します。

  1. 前回決定事項の確認

  2. 重要差異の確認

  3. 原因の特定

  4. 意思決定

(例えば報告に5分、議論に20分、決定に5分)

重要なのは、すべての数字を読むことではありません。
経営判断が必要な数字に時間を使うことです。

■ 院長がすべて決める病院も危険です

院長が優秀すぎる病院は、短期的には速く動けます。

しかし、
院長が疲弊する。
幹部が育たない。
現場が判断しなくなる。
院長不在で経営が止まる。

こうしたリスクがあります。

経営会議は、院長の負担を増やす場ではありません。
組織として判断する力をつくる場です。

管理会計も予算も、会議で使われなければ意味がありません

第25回:管理会計 第26回:予算管理
どちらも重要ですが、作っただけでは病院は変わりません。

数字を会議で使う。
差を見つける。
原因を問う。
対策を決める。
翌月に検証する。

この循環があって初めて、数字が経営になります。

最後に──その経営会議、本当に必要ですか

もし毎月、
立派な資料を作り、 多くの幹部が集まり、 同じ数字を報告し、 最後に、
「引き続き注視しましょう」
で終わっているなら。

一度問い直してみてもよいかもしれません。
その経営会議、本当に必要ですか。

数字は報告するためにあるのではありません。
決めるためにあります。

病院が変わるのは、数字が変わった時ではありません。
数字を見て、経営者が“決め方”を変えた時です。

■ 次回予告(第28回)

次回は、「数字はあるのに決められない病院──意思決定が遅い組織の構造」
を取り上げます。
病院は一般企業より複雑です。 医師、看護部、医局、理事会、地域──複数の力学が絡みます。だからこそ、 優秀な人がいても決められない構造 が生まれます。
第28回では、その構造を解き明かします。


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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由

病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む

第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営 
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件


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