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【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第10回

第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる

2026/6/24リライト


令和8年度診療報酬改定が公表された当初、多くの病院が注目したのは賃上げ対応、医療DX、地域包括医療病棟の見直しでした。

もちろん、それらは重要です。

しかし、改定後のデータや現場の声を聞いていると、私は別の変化を強く感じています。

それは、
「手術ができる病院」と「手術ができなくなった病院」の差が、制度上も現場上も広がり始めた
ということです。

誤解してほしくないのは、
今回の改定で外科点数が大幅に増えたわけではない、という点です。

外科だけを優遇したわけでもありません。

しかし、

  • DPC標準病院群1の創設

  • 高齢者救急の重視

  • 急性期総合体制加算

  • 地域医療係数の見直し

  • 救急搬送実績の評価強化

これらを総合して読むと、
外科機能を維持できる病院が結果的に最も有利になる制度設計
が進んでいることが分かります。

これは偶然ではありません。


■DPC改定が“外科機能の重要性”を可視化した

DPC改定で、旧III群は

  • 標準病院群1

  • 標準病院群2

に分かれました。

基礎係数は次の通りです。

区分基礎係数 標準病院群11.0583 標準病院群21.0283

差は 0.03

包括評価対象収入30億円規模の病院なら、
理論上約9,000万円の差になります。

では、標準病院群1に残るには何が必要か。

  • 救急搬送受入

  • 全身麻酔手術

  • 急性期一般A・B相当の実績

つまり、
外科機能なしで標準病院群1に残るのは極めて難しい
ということです。

DPC改定は、外科を優遇したのではなく、
急性期医療の“実績”を評価した結果として外科機能が不可欠になった
という構造です。


■高齢者救急の増加が外科機能を求めている

改定後、全国で高齢者救急が増えています。
消防庁の統計でも、高齢者救急搬送は右肩上がりです。

現場で増えているのは、

  • 消化管穿孔

  • 腸閉塞

  • 胆嚢炎

  • 大腿骨近位部骨折

など、手術を伴う高齢患者です。

つまり、
高齢者救急を受ける
→ 外科対応が必要
→ 急性期評価につながる
→ DPC係数が上がる

という流れが制度的にも現場的にも強まっています。

今回の改定で高齢者救急が重視された結果、
外科機能の重要性が相対的に上がった
と言えます。


■外科医不足は“医局の問題”ではなく“経営課題”になった

外科医不足は、もはや医局の調整で解決できる問題ではありません。

  • 若手外科医の減少

  • 働き方改革

  • 当直負担

  • 訴訟リスク

これらが重なり、外科医確保は病院経営の最重要テーマになりました。

外科医が減ると、

  • 手術件数が減る

  • 救急受入が減る

  • DPC係数が下がる

  • 研修医が来ない

  • 看護師採用が難しくなる

という“負の連鎖”が起きます。

私はこのスパイラルを全国で見ています。


■最も厳しくなるのは「中途半端な急性期病院」

個人的に、今後最も厳しくなるのは小規模病院ではありません。

危険なのは、

  • 救急を少しやる

  • 手術を少しやる

  • 急性期を少しやる

という“中途半端な急性期病院”です。

今回の改定は、
病院機能の明確化
を強く求めています。

急性期をやるなら急性期らしく。
包括期をやるなら包括期らしく。
在宅を支えるなら在宅を中心に。

その中で、
外科機能を持たない急性期病院は制度的に不利になる
という構造が明確になりました。


■外科は“診療科”ではなく“病院機能”である

ここが最も重要です。

外科は単なる一診療科ではありません。

外科機能を持つ病院は、

  • 救急搬送が増える

  • 紹介患者が増える

  • 研修医が集まる

  • 看護師が集まる

  • DPC係数が上がる

という“病院全体の好循環”を生みます。

逆に外科機能が弱くなると、
病院の存在感そのものが低下します。

だから今回の改定は、

外科優遇ではなく、急性期機能優遇
と理解すべきです。

その結果として、
外科機能を持つ病院が最も有利になる
という構造が生まれています。


■最後に──令和8年度改定は「急性期病院の生き残り条件」を示した

今回の改定で国が評価したのは外科そのものではありません。

地域で急性期医療を支える“機能”です。

  • 救急を受ける

  • 手術を行う

  • 高齢者医療を支える

  • 地域連携を担う

こうした役割を果たす病院が評価される方向は、今後さらに強まるでしょう。

だから今回の改定を
「外科の点数がどう変わったか」
だけで見るのは不十分です。

本当に問われているのは、

自院は5年後も“手術ができる急性期病院”として地域に残れるのか。

令和8年度改定は、
「外科優遇の改定」ではなく
「急性期病院の生き残り条件が明確になった改定」

として捉えるべきだと思います。



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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由

病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む

第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営 
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件


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