【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第7回
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
2026/6/24リライト
最近、院長先生や看護部長と話していて、最も多く聞く言葉があります。
「病床はある。でも看護師がいない」
これは、もはや一部地域の話ではありません。
都市部でも地方でも、規模の大小を問わず、同じ悩みが聞こえてきます。
病床利用率は維持できても、看護配置基準を満たせず病床を閉鎖する。
患者はいるのに病棟が開けない。
私が関わる病院でも、こうした声は確実に増えています。
そんな中で行われた令和8年度診療報酬改定。
医療DXやDPC改定が注目される一方で、現場レベルで最も大きな意味を持つ改定がありました。
それが、
看護配置基準の“運用柔軟化”です。
ただし、この改定を
「看護師が少なくてもよくなった」
と理解すると、本質を完全に見誤ります。
今回の改定は、
“看護師不足を前提に病院運営を再設計する時代”の始まり
だったのではないでしょうか。
■看護師不足は“景気の波”ではなく“構造問題”
まず押さえるべき前提があります。
看護師不足は、景気が回復すれば改善するような一時的な問題ではありません。
生産年齢人口の減少
高齢患者の増加
医療需要の複雑化
働き方改革による労働時間の制約
これらが同時に進む中で、
看護師不足は“構造的な課題”になっています。
現場で感じるのは、
「看護師が足りないこと」よりも
「看護師不足を前提にした経営戦略がない病院が多い」
という現実です。
■今回の改定が示したのは「看護師中心モデルの終わり」
令和8年度改定では、配置基準そのものが大きく緩和されたわけではありません。
しかし、運用面では明確なメッセージが込められています。
それは、
「看護師だけで医療を支える時代は終わる」
ということです。
今回の見直しでは、
夜勤配置の考え方の整理
看護補助者活用を前提とした評価
多職種連携の促進
が進みました。
つまり、
「看護師中心モデル」から「チーム医療モデル」への移行が始まった
ということです。
■夜勤配置の見直しは“看護師不足への現実的な回答”
病院経営に最も影響するのは、病床数ではありません。
夜勤体制を維持できるかどうかです。
夜勤が維持できなければ、どれだけ患者がいても病棟は開けません。
今回の改定で夜勤配置の考え方が整理されたのは、
「看護師を増やすため」ではなく、
「限られた人材で夜勤体制を維持するため」です。
夜勤体制を守れない病院は、
病床閉鎖
救急受入制限
手術件数減少
といった“経営の連鎖悪化”が起きます。
今回の改定は、そこへの現実的な対応策だったと感じます。
■看護補助者の価値は“補完”から“戦略”へ
今回の改定で最も大きな変化は、
看護補助者の位置付けが根本的に変わったことです。
以前は「看護師が不足したときの補完」でした。
しかし今は違います。
看護補助者の活用は、
病院経営の中核戦略になりました。
環境整備
身体介助
物品管理
移送業務
これらを適切に分担できれば、
看護師は本来業務に集中できます。
つまり、
看護補助者活用は“コスト削減”ではなく“看護師の生産性向上策”です。
■勝ち組病院は「採用」ではなく「仕組み」で戦っている
看護師確保に成功している病院には共通点があります。
それは、
「看護師を増やす努力」だけをしていない
ということです。
業務整理
タスクシフト
看護補助者活用
多職種連携
DXによる業務削減
これらを“病院運営戦略”として進めています。
つまり、
採用戦略ではなく、組織設計で看護師不足に対応している
ということです。
■苦戦する病院に共通するのは「採用依存」
一方で、苦戦している病院には共通点があります。
人が足りない → 採用する
採用できない → 夜勤が回らない
夜勤が回らない → 病床閉鎖
病床閉鎖 → 収益悪化
収益悪化 → さらに採用できない
という悪循環です。
私は、
看護師不足そのものよりも「看護師不足への対応不足」の方が経営リスクとして大きい
と感じています。
■今回の改定が示した本当のメッセージ
今回の改定で厚労省が伝えたかったのは、
「配置基準を緩めます」ではありません。
本当のメッセージは、
「少ない人材で医療を維持できる病院を評価する」
です。
これは、
DPC改定
地域包括医療病棟
回復期リハ病棟
高齢者救急
すべてと共通しています。
国は明確に、
“人材不足時代に持続可能な病院”を評価する方向へ舵を切った
と言えます。
■院長が今すぐ確認すべき3つの指標
私なら、経営会議で次の3つを必ず確認します。
① 夜勤配置維持率
夜勤体制がどれだけ安定しているか。
② 看護補助者比率
業務分担が進んでいるか。
③ 看護師1人当たり生産性
本来業務に集中できているか。
これらは、
看護師不足時代の“病院の生命線”です。
■最後に──令和8年度改定は「看護配置緩和」ではない
今回の改定を「看護配置が楽になった」と捉えると、数年後に必ず苦しくなります。
令和8年度改定は、
看護師不足時代の病院経営モデルを示した改定
だったと私は感じています。
求められているのは、
看護師を増やすことではなく、
看護師が力を発揮できる仕組みをつくることです。
夜勤配置
看護補助者活用
多職種連携
DX活用
これらを組み合わせて初めて、病院機能を維持できます。
数年後に振り返ったとき、今回の改定は
「看護師不足時代の病院運営をどう再設計するか」
を突きつけた改定として記憶されるのではないでしょうか。
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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定
「病院選別」シリーズ
第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由
病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む
第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件
