見出し画像

【病院幹部のための令和8年度診療報酬改定「病院選別」シリーズ】第11回


第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される

2026/6/24リライト

ここ1〜2年、病院経営者と話していて強く感じることがあります。

それは、

救急医療の中心が完全に高齢者へ移った

という現実です。

かつて救急といえば、
交通外傷、急性心筋梗塞、脳卒中──
いわゆる“クラシック救急”が中心でした。

しかし今、救急車で運ばれてくる患者の多くは高齢者です。

  • 誤嚥性肺炎

  • 心不全

  • 尿路感染症

  • 脱水

  • 転倒・骨折

  • 軽度意識障害

医師も看護師も口を揃えて言います。

「昔の救急とは全く違う」

そして令和8年度診療報酬改定を見ると、
国はこの変化を前提に制度設計を始めています。

今回の改定は、

“高齢者救急を地域で受け止められる病院”を急性期として残す改定

だったのではないでしょうか。


■高齢者救急は“割に合わない”──それでも避けられない理由

本音を言えば、高齢者救急は効率の良い医療ではありません。

  • 在院日数が延びる

  • 退院調整に時間がかかる

  • 家族調整が必要

  • 介護連携が必須

  • 再入院リスクが高い

ある中規模病院では、

  • 救急搬送受入件数:コロナ前比 130%

  • 高齢者比率:70%超

  • 在院日数:約1日延伸

という状況になっています。

救急受入は増えているのに、
収益は思ったほど増えない──
そう感じる病院は少なくありません。

それでも国が高齢者救急を重視するのは、
地域包括ケアの入口だからです。

高齢者救急は、
「救急 → 急性期 → 地域包括 → 在宅」
という地域完結型医療の最初の接点です。


■令和8年度改定は“高齢者救急を受けられる病院”を急性期として残す設計

ここからが最も重要なポイントです。

今回の改定では、
高齢者救急そのものの点数が大きく上がったわけではありません。

しかし、制度全体を見ると、

高齢者救急を受けられる病院だけが急性期評価を維持できる構造

が明確に組み込まれています。

具体的には、

●① DPC標準病院群1

→ 救急搬送実績・全身麻酔手術実績が必須
→ 高齢者救急を受けないと実績が積み上がらない

●② 地域包括医療病棟

→ 高齢者救急の“出口”として評価
→ 救急→包括の導線がある病院が有利

●③ 地域医療係数

→ 救急受入・地域連携・地域完結型医療が評価対象
→ 高齢者救急を断る病院は係数が伸びない

●④ 急性期総合体制加算

→ 救急・手術・急性期医療の総合力を評価
→ 高齢者救急を受けない病院は取得が難しい

つまり、

高齢者救急を受けられない病院は、
将来的に急性期評価そのものを維持できなくなる可能性が高い

ということです。

これは令和8年度改定の“隠れた本質”です。


■最も厳しくなるのは「役割が曖昧な急性期病院」

私は、すべての病院が救急をやるべきだとは思いません。

地域事情も、医師体制も、病院の歴史もあります。

しかし今後最も厳しくなるのは、

  • 救急を少しだけやる

  • 手術を少しだけやる

  • 地域包括も少しだけやる

という“中途半端な急性期病院”です。

今回の改定は、
病院機能の明確化
を強く求めています。

急性期を名乗るなら、
高齢者救急を含めた救急を受け止める力
が必要です。


■高齢者救急は“病院ブランド”を決める

高齢者救急は収益だけの問題ではありません。

現場を見ていて感じるのは、
高齢者救急を受ける病院ほど地域からの信頼が強いということです。

  • 紹介率が上がる

  • 行政との連携が強くなる

  • 介護事業者からの相談が増える

  • 在宅医療との接続がスムーズになる

結果として、
病院の存在感そのものが高まるのです。


■そして院長が最も気にする“経営インパクト”はここにある

高齢者救急を受けるかどうかは、
単なる医療提供の話ではありません。

経営に直結します。

●① DPC基礎係数

→ 救急・手術が減ると標準病院群2へ
→ 年間数千万円〜1億円規模の差

●② 地域医療係数

→ 救急受入が弱い病院は係数が伸びない
→ 収益差が年々拡大

●③ 地域包括医療病棟の稼働

→ 高齢者救急を受けないと包括の入口が減る
→ 稼働率が安定しない

●④ 急性期総合体制加算

→ 救急・手術・急性期の総合力が必要
→ 高齢者救急を断る病院は取得困難

つまり、

高齢者救急を断る病院は、
急性期評価・包括評価・地域評価のすべてで不利になる

ということです。

これは“点数の話”ではなく、
病院の将来ポジションの話です。


■2040年に向けて避けられない現実

85歳以上人口は2030年代まで増え続けます。

つまり、

高齢者救急は減りません。
むしろ増えます。

その中で、

地域で誰が受け止めるのか。

今回の改定は、その問いへの回答を
“病院自身が選ばなければならない”
というメッセージでもあります。


■最後に──令和8年度改定は「高齢者救急を受け止める病院を残す改定」

令和8年度改定は、高齢者救急の点数を大きく上げたわけではありません。

しかし改定全体を俯瞰すると、

高齢者救急を受け止める病院だけが
急性期評価を維持できる制度構造

が明確に組み込まれています。

  • DPC標準病院群1

  • 地域包括医療病棟

  • 急性期総合体制加算

  • 地域医療係数

  • 救急搬送実績

すべてがつながっています。

これからの病院経営で問われるのは、
病床数でも、患者数でもありません。

「地域で最も困っている患者を断らずに受け止められるか」

その一点です。

私は令和8年度改定を、
“高齢者救急を受け止める病院が生き残る時代の始まり”
として捉えています。


医療・介護の経営支援やM&A支援について発信しています。 フォローいただけると新着記事が届きます。

病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由

病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む

第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営 
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件


いいなと思ったら応援しよう!