【病院幹部のための診療報酬改定完全解説】病院経営の未来を読む 第20回
第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
診療報酬が上がっても利益が出ない病院がある
まず冒頭にお伝えしたいのが、
利益=地域医療を継続するための原資(持続可能性)
であるということです。
病院は利益を出していかないと地域医療の継続ができません。
私はこれまで数多くの病院経営者とお会いしてきました。
その中で、よく耳にする言葉があります。
「今回の診療報酬改定はプラス改定だから、少しは経営も楽になりますかね。」
気持ちはよく分かります。
診療報酬は病院の売上そのものです。
点数が上がれば収益も増える。
そう考えるのは自然です。
しかし、事業再生の現場で私は何度も違う現実を見てきました。
点数が上がっても利益が出ない病院。 診療報酬が大きく変わらなくても利益を伸ばす病院。
この違いはどこから生まれるのか。
私は、その答えは「利益の構造」にあると考えています。
令和8年度診療報酬改定を読み終えた今、むしろ重要なのは点数ではありません。
病院がどのような利益構造を持っているか。
ここが経営の本質です。
病院経営は「売上の時代」から「利益の時代」へ
人口増加の時代、病院経営はシンプルでした。
患者数が増えれば売上が増える。 病床が埋まれば経営が安定する。 加算を取れば収益が伸びる。
しかし現在は違います。
人口減少
少子高齢化
医療人材不足
物価高騰
賃金上昇
これらが同時に進行しています。
つまり、売上だけでは病院経営を維持できない時代になりました。
これから問われるのは、
「どれだけ売り上げたか」ではなく、「どれだけ利益を残せたか」。
私が事業再生で最初に見る数字
「先生なら、病院を訪問したら最初に何を見ますか。」
そう聞かれることがあります。
診療報酬でしょうか。 病床稼働率でしょうか。
私は違います。
まず確認するのは、
利益がどこで生まれ、どこで失われているのか。
という構造です。
病院は単一事業ではありません。
急性期事業
回復期事業
外来事業
手術事業
救急事業
在宅支援事業
地域連携事業
複数事業の集合体です。
例えば、
外来で稼いだ利益が、非効率な入院部門の赤字で相殺されていないか。
高額な医療機器の維持費が、実は稼働率に見合っていないのではないか。
収入の高い手術の原価率が想定より高く、利益を圧迫していないか。
だからこそ、利益構造を見なければ経営改善は始まりません。
病院全体では黒字でも、 一部門では大きな赤字というケースは珍しくありません。
逆に、不採算だと思われていた部門が、 実は地域連携を支える重要な利益源だったということもあります。
診療報酬は「利益」を作らない──作るのは経営者の意思決定
令和8年度改定では、
物価対応料
賃上げ対応
医療DX
地域包括医療病棟
DPC制度の見直し
さまざまな制度変更がありました。
もちろん、これらへの対応は必要です。
しかし、制度は利益を保証してくれるものではありません。
同じ改定を受けても、
利益が伸びる病院。 利益が減る病院。
その両方が存在します。
なぜか。
それは、制度ではなく 経営の仕組み が違うからです。
診療報酬は「経営環境」を変えるものです。 「利益」を作るものではありません。
利益を作るのは、経営者の意思決定です。
令和8年度改定が本当に問いかけたもの
今回の改定を俯瞰すると、共通するメッセージがあります。
それは、
限られた資源で、より高い価値を生み出す病院を評価する。
ということです。
病床を持っているだけでは評価されない。 急性期を名乗るだけでは評価されない。 地域包括ケア病棟を持っているだけでは評価されない。
重要なのは、
その機能が利益と地域医療の両方に結び付いているか。
ここを読み違えると、
加算は取れているのに利益が残らない。
そんな経営に陥ります。
管理会計が病院経営を変える
私が病院経営で最も重要だと思っているのが管理会計です。
財務会計は過去を示します。 管理会計は未来を作ります。
病棟別。 診療科別。 部門別。 患者区分別。
こうした視点で数字を見るだけで、経営判断は大きく変わります。
病院経営は、経験や勘だけで判断するには複雑になりすぎました。
だからこそ、数字を経営の言葉に翻訳する仕組みが必要なのです。
これから利益を生む病院の共通点
令和8年度改定後、利益を残す病院には共通点があります。
それは、
診療報酬改定を追いかけている病院ではありません。
改定をきっかけに、
病院全体の利益構造を見直している病院です。
人員配置。 病棟機能。 地域連携。 病床回転率。 部門別採算。 投資判断。
これらを一体で考えています。
制度対応は、その結果として行われています。
順番が逆ではありません。
最後に──経営者が見るべきものは「点数」ではなく「構造」
令和8年度診療報酬改定は、多くの制度を変えました。
しかし、本当に変えようとしているのは、病院経営の考え方そのものです。
赤字病院は診療報酬が低いから赤字なのではありません。
利益が生まれる構造になっていない。
そこに本質があります。
診療報酬改定は毎回やってきます。 制度は変わります。 点数も変わります。
しかし、利益を生み出す仕組みは、一度作れば病院の大きな財産になります。
これからの病院経営で必要なのは、
「今回の改定で何点上がったか」を追い続けることではありません。
「自院は何で利益を生み出す病院なのか」を明確にすること。
それこそが、令和8年度改定後の病院経営者に求められる最も重要な仕事ではないでしょうか。
次回予告(第21回)
「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
制度では見えない病院経営の危険信号はどこに表れるのか。 実際の事業再生で最初に確認する指標をもとに、利益構造の見極め方を解説します。
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