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【病院幹部のための診療報酬改定完全解説】病院経営の未来を読む 第23回

第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営

「黒字なのに、お金がない。」

病院経営の現場で、この言葉を聞くことがあります。

決算書では黒字。 診療報酬も順調に入っている。 病床稼働率も悪くない。

それでも賞与の時期になると資金繰りが苦しくなり、 医療機器の更新を先送りし、 金融機関への相談が増えていく。

実は、こうした病院は決して珍しくありません。

私は事業再生の現場で、こうした病院を数多く見てきました。

令和8年度診療報酬改定以降、「どう収益を増やすか」という議論はさらに活発になっています。 しかし、私が気になるのは別の視点です。

利益は出ているのに、なぜ現金が残らないのか。

病院経営を本当に理解するためには、この問いを避けて通れません。

利益と現金は、まったく別のもの

利益は会計上の数字です。 一方で、キャッシュ(現金)は病院を動かす血液です。

給与。 賞与。 医薬品の仕入れ。 医療機器の購入。 借入金の返済。

これらは利益では支払えません。 すべて現金です。

どれだけ利益が出ていても、現金が不足すれば病院経営は止まります。

私はキャッシュフローを「病院の体温」だと考えています。 決算書は健康診断。 しかし体温は、今この瞬間の状態を教えてくれます。

私が最初に確認するのは「現金は何か月持つか」

病院を訪問すると、まず資金繰り表を見せていただきます。

そのとき私が最初に確認するのは、

「この病院は、今の現金で何か月運営できるのか」

ということです。

利益率より先です。 黒字か赤字かより先です。

なぜなら、経営危機は利益ではなく、資金不足から始まるからです。

設備投資が重なった年。 借入返済が集中する時期。 賞与支給月。

これらが重なると、一時的に資金繰りが厳しくなることがあります。

問題は、その状況を事前に予測できているかどうかです。

黒字なのに資金繰りが悪化する病院の特徴

事業再生の現場では、いくつか共通点があります。

① 利益と資金繰りを別々に管理している

月次試算表は見ている。 しかし資金繰り表は作っていない。

その結果、

「利益は出ているから大丈夫」

と判断してしまいます。

② 設備投資のタイミングを誤る

CT・MRI・電子カルテの更新は避けられません。

しかし、

「必要だから買う」

だけで判断すると、キャッシュフローを大きく悪化させます。

重要なのは、

「買うべきか」ではなく、「いつ買うべきか」。

③ 借入金返済とキャッシュフローが整合していない

借入そのものは悪ではありません。

問題は、

返済計画と将来のキャッシュフローが噛み合っていない状態 です。

この視点が抜けると、数年後に資金不足へつながります。

病院は「利益最大化の組織」ではない

企業経営では利益最大化という考え方があります。

しかし病院は違います。

地域医療を守る。 救急を受ける。 高度医療を提供する。

こうした公共性を担っています。

だからこそ、利益だけを追いかけても長続きしません。

一方で、利益を軽視しても病院は存続できません。

私がいつも考えるのは、

「地域医療を守るために、どうすれば健全なキャッシュフローを維持できるか」

ということです。

利益は目的ではなく、地域医療を続けるための手段です。

キャッシュフローが良い病院は、意思決定が早い

黒字病院同士でも、資金繰りには大きな差があります。

その違いは何か。

私は、

意思決定の速さ

だと思っています。

診療科の再編。 病棟機能の見直し。 人員配置の変更。 設備投資の優先順位。

こうした判断を先送りしない病院は、キャッシュフローも安定しています。

逆に、

「もう少し様子を見よう」

が続く病院ほど、資金繰りは静かに悪化します。

キャッシュフローは、経営判断の積み重ねを映す鏡です。

令和8年度改定が求める「経営体力」

今回の改定では、

医療DX。 賃上げ。 地域包括医療病棟。 高齢者救急。

さまざまな変化が求められました。

どれも重要です。

しかし、これらを実行するには経営体力が必要です。

その体力とは何か。

私は、

利益ではなく、キャッシュを生み出す力

だと考えています。

現金がある病院は未来に投資できます。 現金がない病院は目の前の対応だけで精一杯になります。

ここが数年後、大きな差になります。

「現金を残す経営」は、地域を守る経営でもある

十分な現金がある病院は、

新しい医療機器を導入できる。 職員教育に投資できる。 働きやすい環境を整えられる。 災害時にも地域医療を支えられる。

つまり、キャッシュフローを改善することは、病院のためだけではありません。

地域の未来を守ることにつながります。

最後に──病院の本当の体力は「現金」に表れる

決算書の利益は重要です。 しかし、それだけでは不十分です。

本当に見るべきなのは、

「今、この病院には未来へ投資する現金があるか。」

ということです。

私は事業再生の現場で、利益より先にキャッシュフローを見ます。

なぜなら、キャッシュフローには経営者の意思決定がそのまま表れるからです。

令和8年度診療報酬改定は、病院に多くの変化を求めています。

例えば「賃上げ」や「医療DX」への対応には「先行投資(キャッシュの流出)」が不可欠です。

その変化に対応できるかどうかは、点数の違いではありません。

未来に投資できるキャッシュを持っているかどうか。

そこに、本当の経営力の差があります。

次回予告(第24回)

「院長が知らない『管理会計』の威力──病院経営は部門別採算で変わる」
病院全体では黒字でも、利益を生み出している部門は限られていることがあります。次回は、財務会計では見えない「部門別採算」の考え方と、管理会計が病院経営をどう変えるのかを、実際の現場経験をもとに解説します。これは、院長・理事長・事務長が共通言語として持つべき経営の視点です。


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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

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第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
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病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む

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最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件


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