【病院幹部のための診療報酬改定完全解説】病院経営の未来を読む 第25回
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
「この病院の赤字は、どこから生まれていますか。」
病院の経営改善をご支援するとき、私が院長先生や理事長に必ずお聞きする質問があります。
「この病院は、どの部門で利益を生み、どの部門で利益を失っていると思われますか。」
返ってくる答えは本当にさまざまです。
「外来でしょう。」
「病棟じゃないですか。」
「全部苦しいですよ。」
しかし、その後に部門別の収支をお見せすると、多くの方が驚かれます。
「こんな結果だったのか。」
病院全体では黒字でも、赤字を生み続けている部門がある。
逆に、不採算だと思われていた部門が、実は病院経営を支えている。
私はこれを何度も見てきました。
だから断言できます。
病院経営は、財務会計だけでは改善しません。 本当に経営を変えるのは「管理会計」です。
決算書は病院全体の通信簿に過ぎない
前回の記事では、決算書を読む重要性についてお話ししました。
しかし決算書には、一つ大きな弱点があります。
病院全体の結果しか分からないことです。
例えば、
年間売上50億円
医業利益5,000万円
一見すると経営状況は把握できます。
しかし、
どの診療科が利益を生み
どの病棟が利益を失い
どの部門が病院全体を支えているのか
ここまでは見えません。
経営改善とは「病院全体を良くすること」ではありません。
改善すべき場所を特定し、そこへ経営資源を集中することです。
そのために必要なのが管理会計です。
私が病院へ入ると、最初に作るのは「部門別採算表」
病院の支援に入ると、私が最初にお願いする資料があります。
それが 部門別採算表 です。
診療科別
病棟別
外来部門
手術室
リハビリ部門
検査部門
薬剤部門
病院によって分け方は異なりますが、目的は一つ。
「どこで利益が生まれ、どこで赤字が発生しているのか」を可視化すること。
すると、多くの場合、経営者が想像していた結果とは違う数字が現れます。
例えば、
患者数が多い診療科だから利益が出ていると思っていたら、材料費や人件費で利益率は低かった
患者数は少なくても、紹介が多く安定した収益を生み出している診療科があった
こうした事実は、病院全体の決算書だけでは絶対に見えてきません。
「利益の出る部門」と「病院に必要な部門」は違う
ここで誤解していただきたくないことがあります。
管理会計は、「赤字部門をなくす」ためのものではありません。
病院には、利益だけでは評価できない部門があります。
救急医療
感染対策
栄養管理
地域連携
これらは地域医療に不可欠です。 採算だけで判断すれば、維持できなくなるかもしれません。
だからこそ管理会計が必要なのです。
ただ、部門別採算を出す際、院長が最も悩むのは
「事務部門や光熱費などの共通経費をどう分けるか」と
いうルール作りです。
「配賦(はいふ)のルールを明確にすることが納得感の鍵である」
数字を通して病院全体を見る。 これが管理会計の本質です。
「この部門は赤字だが、病院全体にどれだけ貢献しているのか。」
「この診療科があることで、他部門にどのような患者が流れているのか。」
「手術室の稼働を支えているのはどの科か」
「検査収益に貢献しているのはどこか」
「全部頑張る病院」は、経営改善できない
経営改善が進まない病院には共通点があります。
すべての診療科を同じように伸ばそうとする
すべての病棟に同じように投資する
すべての部門へ均等に人員を配置する
しかし、経営資源には限りがあります。
医師も。 看護師も。 投資資金も。
限られています。
だから重要なのは 「選択と集中」 です。
管理会計は、その判断材料になります。
令和8年度改定は「病院全体」ではなく「機能」を評価している
令和8年度診療報酬改定を見ても、その方向性は明らかです。
評価されているのは、病院という箱ではありません。
高齢者救急
地域包括医療
DPC
回復期リハビリ
在宅支援
つまり、病院経営も「病院全体」で考える時代から、 「機能単位」で考える時代へ変わっています。
だからこそ、部門別に数字を見る管理会計が重要になります。
制度の方向性と経営管理の方向性は、一致しているのです。
管理会計は「犯人探し」ではない
管理会計を導入すると、現場から不安の声が上がることがあります。
「赤字部門を責めるためですか。」
違います。
私はいつも職員の皆さんにお伝えしています。
管理会計は、責任を追及するためのものではありません。 改善するためのものです。
数字は、人を評価するためではなく、 経営を良くするためにあります。
この考え方が共有されると、現場は数字を前向きに受け止めるようになります。
病院経営は「感覚」から「根拠」へ
以前は、経験豊富な院長の勘が経営を支えていました。 それで成り立つ時代もありました。
しかし現在は、
人材不足
物価高
診療報酬改定
医療DX
2040年問題
経営環境が複雑になり、勘だけでは判断できない時代になっています。
もちろん経験は重要です。 しかし、その経験を数字で裏付けることが必要です。
管理会計とは、経験を否定するものではありません。
経験を経営力へ変える仕組みなのです。
最後に──数字が変われば、病院は変わる
病院経営では、「数字を見る」と聞くと、利益だけを思い浮かべる方が少なくありません。
しかし、本当に見るべき数字はもっと現場にあります。
診療科別利益
病棟別利益
一人当たり付加価値
病床回転率
職員一人当たり生産性
部門別採算
こうした数字を見始めると、病院経営は大きく変わります。
私はこれまで、多くの病院再生に携わってきました。
そこで実感したのは、 経営が改善した病院は例外なく、「数字を現場の共通言語」にしていたということです。
令和8年度改定は、病院に機能の明確化を求めています。
その時代に必要なのは、病院全体を見る財務会計だけではありません。
部門ごとの役割と価値を見える化する管理会計です。
病院経営の未来を変えるのは、新しい加算ではありません。
自院の数字を、自院の武器に変えられるかどうか。
その違いが、これからの病院の競争力を大きく左右すると、私は考えています。
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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定
「病院選別」シリーズ
第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由
病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む
第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
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第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件
