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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定 慢性期:療養病棟編 第31回

第31回 療養病床は本当に必要なくなるのか──令和8年度改定が示した「長期療養」の未来


療養病床は「語られない領域」になっている

令和8年度診療報酬改定を振り返ると、多くの病院経営者の関心は急性期医療、医療DX、高齢者救急、地域包括医療病棟に集まりました。

一方で、あまり大きく議論されなかった領域があります。

療養病床です。

最近、病院経営者から次のような声を聞くことが増えました。

「療養病床は、この先も必要なのだろうか」 「介護医療院へ移行した方がいいのではないか」 「国は療養病床を減らそうとしているのではないか」

こうした不安を抱くのは自然なことです。
しかし私は、令和8年度改定を読み返すたびに、少し違う印象を持っています。

国が見直そうとしているのは療養病床そのものではなく、地域での役割が曖昧な療養病床です。

「療養病床を減らす政策」と考えるのは早計です

療養病床を取り巻く議論は、これまでも繰り返されてきました。
療養病床再編。
介護療養病床の廃止。
介護医療院への転換。
地域包括ケアシステム。

こうした流れだけを見ると、「療養病床は縮小される」という印象を持つ方も少なくありません。
しかし、人口構造を見ると事情は異なります。

● 療養病床数の推移(厚労省統計)

  • 2000年代は「削減」が政策の中心だった

  • しかし近年は 約10万床前後で横ばい

  • 介護医療院への移行は進んだが、医療療養病床は一定数維持されている

つまり、国は「ゼロにする」方向では動いていません。
背景には、2040年に向けて増える高齢者像があります。

・複数の慢性疾患を抱える患者 ・認知症を合併する患者 ・医療と介護の両方が必要な患者

これらは確実に増えます。
長期療養を必要とする患者が急になくなることは考えにくいのです。

国が求めているのは「医療が必要な療養」かどうか

では、なぜ療養病床が厳しいと言われるのでしょうか。
理由は、国が評価の軸を変えているからです。

問われているのは、
「本当に医療が必要な患者なのか」
という視点です。

医療区分、ADL、医療必要度などの指標を通じて、療養病床が担うべき患者像をより明確にしようとしています。

つまり、
長く入院していることではなく、 医療を必要とする長期療養であること。
ここが評価される方向へ進んでいます。

「人生の最終段階のガイドライン」が示す療養病床の役割

ここで重要な視点があります。
厚生労働省の 「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」 です。

このガイドラインは、終末期医療を「病院の判断」ではなく、
患者本人・家族・医療者が対話し、合意形成するプロセス
として位置づけています。

療養病床は、このプロセスの中心にあります。

  • 急性期のように短期で方針を決めるのではない

  • 在宅のように家族だけで支えるのでもない

  • 医療と生活の両方を見ながら、本人の意思を尊重する場である

つまり療養病床は、
“人生の最終段階の意思決定を支える医療拠点”
という役割を持っています。

これは急性期にも介護施設にも代替できない価値です。

療養病床は「出口のない病棟」ではありません

療養病床は「長く入院する場所」というイメージを持たれがちです。
しかし本来の役割は違います。

療養病床は、
・急性期病院から患者を受ける
・病状を安定させる
・在宅復帰が可能なら支援する
・在宅が難しければ介護施設へつなぐ
・人生の最終段階を支える

地域医療の流れを止めないための病床です。

急性期病院だけでは地域医療は回りません。
療養病床があるからこそ、急性期が機能します。

2040年に向けて療養病床の価値はむしろ高まります

今後、医療提供体制で最も不足すると考えられているのは人材です。
医師、看護師、介護職。 どの職種も不足が続きます。

一方で、
独居高齢者は増える。
認知症患者も増える。
介護施設だけでは対応できない患者も増える。

この状況で必要になるのは、
医療と介護の中間を担える病院です。
療養病床はまさにこの領域を担います。

苦しくなるのは「療養病床」ではなく「役割が曖昧な病院」です

今後厳しくなるのは、療養病床を持っている病院ではなく、
療養病床をどう使うかが見えていない病院です。

急性期との連携が弱い。
退院支援が機能していない。
介護施設との連携が少ない。
在宅医療との接点がない。

こうした病院は、地域での存在意義が見えにくくなります。

逆に、
急性期病院から信頼され、 在宅医療とも連携し、 介護施設とも情報共有できる病院は、
地域で必要とされ続けます。

問われるのは、
病床の種類ではなく、地域で果たしている役割です。

私なら最初に見るのは「地域との接点」です

療養病床の相談を受けたとき、私が最初に確認するのは次の項目です。

・急性期病院からの紹介件数
・在宅復帰率 ・施設との連携件数
・地域包括支援センターとの関係
・退院調整にかかる日数

つまり、
地域との接点がどれだけあるか。
療養病床単体では経営は成り立ちません。
地域の流れの中で位置づけられて初めて価値を持ちます。

令和8年度改定は「療養病床の終わり」ではありません

今回の改定を見ていて感じたのは、
療養病床を否定するメッセージではありません。

むしろ、
役割が明確な療養病床を地域に残したい。
そんな政策の方向性です。

最後に──療養病床は「最後の受け皿」ではありません

療養病床という言葉には、どこか「終着点」のような印象があります。
しかし私は違うと考えています。

療養病床は、地域医療の終わりではありません。
地域医療を支える土台です。
急性期医療が機能するのも、 在宅医療が成り立つのも、 安心して退院できるのも、
療養病床を含めた地域全体の連携があるからです。

令和8年度診療報酬改定は、
療養病床に、地域での役割を改めて問いかけた改定でした。

数年後に振り返ったとき、生き残っていた療養病床は、病床数が多い病院ではないでしょう。
地域から「この病院がなければ困る」と言われる役割を持った病院です。

その違いが、これからますます大きくなると感じています。

■ 次回予告

第32回 療養病床の赤字は制度のせいではない──私が最初に見る5つの数字


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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由

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第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
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第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営 
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第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件


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