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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定 人工透析編 第34回

第34回 人工透析は「安定収益」ではなくなった──令和8年度改定で問われる透析医療の経営戦略

人工透析は長い間、病院経営を支える「安定した診療」と言われてきました。定期的に通院する患者がいる。 診療計画が立てやすい。 一定の収益が見込める。
こうした理由から、多くの病院が透析部門を経営の柱として位置付けてきました。

しかし、最近の病院経営者との対話では、次のような声が増えています。
「患者数が思ったように増えない」
「看護師や臨床工学技士の確保が難しい」
「透析装置の更新費用が重い」
「物価や電気代が上がって利益が残らない」

つまり、以前のように 「透析があるから安心」 と言える時代ではなくなってきたのです。

令和8年度診療報酬改定も、この流れと無関係ではありません。

今回の改定を読み解くほどに感じるのは、国が評価しようとしているのは、
「透析を実施している病院」ではなく、 質・効率・地域連携を備えた透析医療であること。

「患者数」だけでは透析経営は見えません

透析経営で最も危険なのは、患者数だけを見て安心してしまうことです。
例えば透析患者が200人いても、
・送迎コストが膨らんでいる
・人件費率が上昇している
・装置更新が先送りになっている
・ベッド稼働に偏りがある

こうした状態なら、利益は確実に圧迫されます。

私が最初に確認するのは患者数ではありません。
患者一人当たりがどれだけ病院へ利益を残しているか。
その構造です。

人材不足は透析部門ほど深刻になります

透析医療は設備だけでは成り立ちません。
看護師、臨床工学技士、管理栄養士、薬剤師、医師。 多職種が連携して初めて安全な透析が実現します。

しかし2040年に向けて、人材不足はさらに深刻になります。
設備はお金で買えます。 人材は簡単には買えません。

だからこそ、透析部門では、
「少ない人員で安全に運営できる仕組み」
が病院経営の競争力になります。

透析室にも管理会計の視点が必要です

私は透析部門を見るとき、次の数字を必ず確認します。
・ベッド稼働率
・時間帯別稼働率
・患者一人当たり収益
・人件費率
・消耗品比率
・機器更新計画
・キャッシュフロー

透析室は収益部門である一方、設備産業でもあります。
利益が出ているように見えても、更新投資を考慮すると実際の体力は大きく違うことがあります。
そのため、月次損益だけでは判断できません。

■ 令和8年度改定が示した方向性

今回の改定全体を俯瞰すると、一貫したテーマがあります。
それは、
「効率だけではなく、地域で必要な医療を持続可能な形で提供すること」
です。
透析医療も例外ではありません。
そのひとつが、在宅自己腹膜灌流指導管理料2(1,500点)の新設です。
(例:通院困難な高齢者の受け皿、あるいは維持血液透析から在宅への移行促進など)

病院だけで完結するのではなく、
・地域医療機関 ・在宅医療 ・介護 ・救急医療
との連携が重要になります。

高齢透析患者が増えるこれからは、 「透析だけを行う部門」では地域のニーズに応えきれません。

本当に問われるのは「透析を続けるか」ではありません

経営相談で、「透析部門を続けるべきでしょうか」
という質問を受けることがあります。

しかし、本当に考えるべきなのはそこではありません。

問われるのは、
・地域でどの役割を担うのか
・投資を継続できるのか
・人材を維持できるのか
・他部門との相乗効果を生み出せるのか
・自院で完結できない合併症管理をどうするか
という経営戦略です。

透析部門単独ではなく、 病院全体の将来像の中で位置付ける必要があります。

最後に──透析医療は「安定収益」から「戦略事業」へ

人工透析は、今後も地域医療に欠かせない医療です。
一方で、人口構造、人材不足、設備投資、物価高という環境変化の中で、 以前のような「安定収益」という発想だけでは持続できません。

令和8年度診療報酬改定が示したのは、透析医療を縮小することではありません。

地域で必要な透析医療を、持続可能な形で残していくこと。

そのためには、診療報酬だけを見るのではなく、
・収益構造 ・投資計画 ・人材戦略 ・地域連携
これらを一体で考える経営が求められます。

病院経営で重要なのは、「今、利益が出ているか」だけではありません。
5年後、10年後も地域から必要とされる透析医療を維持できるか。
その視点で考えることが、これからの透析経営には欠かせないと私は考えています。



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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由

病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む

第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営 
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件

病院幹部のための令和8年度診療報酬改定追記 慢性期:療養病棟編

第31回 療養病床は本当に必要なくなるのか──令和8年度改定が示した「長期療養」の未来
第32回 療養病床の赤字は制度のせいではない──私が最初に見る5つの数字
第33回 2040年、療養病床は地域インフラになる──生き残る病院が選ぶ経営戦略



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