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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定 人工透析編 第35回

第35回 人工透析部門は本当に利益を生んでいるのか──管理会計で初めて見える「儲かる透析」と「苦しい透析」


前回は「人工透析は『安定収益』ではなくなった」というテーマで、令和8年度診療報酬改定以降の透析医療を取り巻く環境についてお話ししました。

物価上昇。
人件費の高騰。
臨床工学技士や看護師の不足。
透析装置の更新投資。
こうした状況を踏まえると、「透析があるから病院経営は安心」という時代ではなくなっています。

しかし、透析部門が赤字かと言えば、必ずしもそうではありません。
実際には利益を出している病院もあります。 一方で、患者数は多いのに利益が残らない病院もあります。

この違いは何でしょうか。

私は事業再生の現場で透析部門を見るとき、診療報酬点数からは入りません。

最初に見るのは、
「透析部門が病院全体に、どれだけ利益とキャッシュを生み出しているか」
です。

ここを見誤ると、経営判断を誤ります。

「透析は儲かる」は本当なのか

病院経営では、「透析は利益部門」という言葉を聞くことがあります。
確かに以前は、その考え方でも大きな間違いではありませんでした。
患者数が安定していた。
設備稼働率も高かった。
診療報酬も一定水準を維持していた。

しかし現在は状況が違います。
診療報酬だけで利益が決まる時代ではありません。

人件費。 薬剤費。 材料費。 光熱費。 送迎費。 設備更新費。
これらを考慮すると、同じ透析患者数でも利益は病院ごとに大きく変わります。

だから私は、「透析患者が何人いるか」 よりも、
「患者一人当たりで、いくら利益を残しているか」
を重視します。

私が最初に見る7つの数字

透析部門の相談を受けると、私は必ず次の数字を確認します。

① 患者一人当たり収益

患者数が多くても、高コスト体質であれば利益は残りません。
まずは、患者一人が年間どれだけ収益を生み出しているか
を確認します。

② ベッド稼働率ではなく「時間帯別稼働率」

午前は満床。 午後は空いている。 夜間は稼働していない。
こうした病院は少なくありません。
透析室は設備産業です。 設備を十分活用できているかが利益に直結します。

③ 人件費率(=生産性)

透析医療は人が支える医療です。 人件費は必要です。
しかし、残業。 配置。 夜勤体制。 委託。
これらを分析すると、改善余地が見つかることがあります。
人件費を減らすことではありません。
同じ人数でより高い成果を出す「生産性」を高めることが重要です。

④ 材料費率

透析では消耗品の影響が大きくなります。
ダイアライザー。 回路。 薬剤。 メーカーとの契約。 購買方法。
病院全体で見ると小さな差でも、年間では大きな利益差になります。

⑤ 設備更新計画

透析装置は永遠には使えません。
更新を先送りすると、数年後に大きな投資が必要になります。
私は、利益だけではなく、設備更新後のキャッシュまで確認します。

⑥ キャッシュフロー

ここは最も重要です。
決算書では黒字。
しかし資金がない。
更新投資ができない。
借入返済が重い。
こうした病院は少なくありません。

利益より先に、資金が続くかを見ます。

⑦ 地域シェア

最後に見るのは、地域でどれだけ選ばれているかです。
新規患者は増えているか。
紹介元はどこか。
病診連携は強いか。
送迎体制は地域ニーズに合っているか。

透析医療も、患者から選ばれる時代です。

利益部門ほど「見えない赤字」があります

透析部門は利益部門と言われます。
だからこそ危険です。
利益が出ているように見える。 しかし、
・設備更新を考えていない
・送迎コストを配賦していない
・共通経費を計算していない

管理会計を導入すると、「思っていた利益」と「実際の利益」が違うことがあります。

私はこれを何度も見てきました。

とはいえ、必要な経費まで削ってしまうと収入自体が減少する可能性がありますので、ただ経費削減で利益を出せばいいということではありません。

■ 部門別採算を見ない病院は判断を誤ります

透析部門だけではありません。
外来。 病棟。 健診。 リハビリ。
すべて同じです。

病院全体が黒字でも、部門別に見ると、
・利益を生んでいる部門
・利益を失っている部門
・将来投資が必要な部門
それぞれ違います。

だから私は、病院経営では管理会計が不可欠だと考えています。

■ 2040年を見据えると「利益構造」が競争力になります

2040年には、透析患者の高齢化はさらに進みます。
送迎ニーズも増えます。
合併症患者も増えます。
人材不足も続きます。

つまり、
同じ診療報酬でも、 利益を出せる病院と出せない病院の差は広がります。
その差を生むのは制度ではありません。

経営です。

■ 最後に──数字は透析部門の未来を映します

透析医療は、これからも地域に欠かせない医療です。
だからこそ、
「透析部門は利益が出ているはず」
という思い込みは危険です。
本当に見るべきなのは、患者数でも、 診療報酬でもありません。
利益構造です。

私は事業再生の現場で、数字を見てから病院を見ます。
数字の先にある経営課題を見つけます。

透析部門も同じです。
数字は病院を責めるためにあるのではありません。
病院の未来を守るためにあります。

令和8年度診療報酬改定以降、透析医療も「続けること」が目的ではなくなりました。

持続可能な形で地域に残すこと。

そのためには、診療報酬だけではなく、管理会計という視点がこれまで以上に重要になると私は考えています。


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病院幹部のための令和8年度診療報酬改定

「病院選別」シリーズ

第1回 令和8年度改定で始まった「病院の選別」──勝ち残る病院と苦しくなる病院の違い
第2回 初診料は上がった。それでも病院経営が苦しくなる本当の理由
第3回 物価対応料では足りない──病院経営が迎えた静かな限界
第4回 賃上げできない病院から人が消える──令和8年度改定が突き付けた現実
第5回 地域包括医療病棟で病院格差が広がる──伸びる病院、苦しくなる病院
第6回 医療DX加算に目を奪われる病院が見落としていること
第7回 看護師が採れない時代に病院はどう生き残るのか
第8回 AIを使う病院と使わない病院──5年後に開く経営格差
第9回 紙文化が病院を苦しめる──令和8年度改定が求める病院運営
第10回 「手術ができる病院」が生き残る時代へ──外科機能が分岐点になる
第11回 高齢者救急を受けられない病院は取り残される
第12回 地域包括ケア病棟の経営が突然苦しくなる理由
第13回 2040年まで残る病院、消える病院──「特に中小病院の院長に読んでほしい」今回改定はその予告編だった
第14回 急性期病院であり続けることが最大のリスクになる日
第15回 病床は満床なのに利益が出ない──犯人は“出口渋滞”だった
第16回 回復期リハ病棟は「成果」で選ばれる時代へ
第17回 DPC標準病院群1・2で何が変わったのか──係数差が収益格差を生む
第18回 介護連携できない病院は選ばれなくなる──退院先を持つ病院の強さ
第19回 病院完結型医療の終焉──令和8年度改定が在宅へ舵を切った理由

病院幹部のための診療報酬改定完全解説 病院経営の未来を読む

第20回 病院は何で稼ぐ時代になったのか──診療報酬改定より重要な「利益の構造改革」
第21回 「利益が出ない病院」には共通点がある──私が事業再生で最初に見る数字
第22回 病院再生は「赤字になってから」では遅い──危険信号は数字に出ている
第23回「黒字なのに危ない病院」がある理由──キャッシュフローで見る病院経営 
第24回決算書が読めない院長ほど病院は危ない──黒字でも潰れる理由
第25回 院長が知らない「管理会計」の威力──病院経営は部門別採算で変わる
第26回 病院経営に「予算」がないのはなぜか──毎年同じ失敗を繰り返す本当の理由
第27回 その経営会議、本当に必要ですか──数字を報告するだけの病院が変われない理由
第28回 「数字はあるのに決められない病院」──意思決定が遅い組織の共通点
第29回 病院再生で最初に変えるべきもの──削減より「構造」を見る
最終回(第30回) 令和8年度改定後、病院経営はどこへ向かうのか──30回書いて見えた「生き残る病院」の条件

病院幹部のための令和8年度診療報酬改定追記 慢性期:療養病棟編

第31回 療養病床は本当に必要なくなるのか──令和8年度改定が示した「長期療養」の未来
第32回 療養病床の赤字は制度のせいではない──私が最初に見る5つの数字
第33回 2040年、療養病床は地域インフラになる──生き残る病院が選ぶ経営戦略

病院幹部のための令和8年度診療報酬改定 人工透析編

第34回 人工透析は「安定収益」ではなくなった──令和8年度改定で問われる透析医療の経営戦略


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