デジタルアクター試論 32.結語
肖像権料を払い、CGで本物を再現するという、最初は素朴な思いつきから始まったこの一連の思考は、最終的に表現の自由・倫理・国際政治まで貫通していった。
ハリウッドのギャラ・組合問題から始まり、仮面ライダーという「肉体に魂が宿りすぎたキャラクター」の特殊事情、美空ひばりとの対比で見えた「役を演じる」というクッションの重要性、『ボヘミアン・ラプソディ』『ワイルド・スピード』が示した「あえての不完全さ」という演出技術、「コモディティ化=民主化」という言葉の欺瞞、そして政治権力による技術の独占とプロパガンダ、さらにそのカウンターとしてのゲリラ的パロディ動画のリスク——これらはすべて、一つの技術が辿りうる、まったく異なる運命の枝分かれである。
「顔」というものが技術的なパーツであると同時に、個人の尊厳・文化的記憶・国家の権威という、全く違うレイヤーの価値を同時に背負っているからこそ、同じ技術が、ある場では「最高の愛の表現」になり、別の場では「最悪の凶器」にもなる。
もしいつか、本郷猛や一文字隼人が、あの全盛期の姿で令和の街に現れる日が来るとしたら、それはこの技術が「愛」によって使われた証拠になるだろう。そして、その最初の引き金を引く者が、誰よりも彼らを愛し、その呪縛の重さを理解している人間であってほしいと、切に願う。
デジタルアクター試論 目次
1. 発想の出発点——肖像権を払ってCGで作るという可能性
2. 最初の突破口は誰が開けるか
3. ブルース・リーという最有力候補
4. アイコンと役柄のバランス問題
5. 完全オリジナルのCGキャラによるスターシステム
6. 契約のパーセンテージ化
7. 仮面ライダー1号という日本の特殊事例
8. ルパン三世・クレヨンしんちゃんとの対比
9. 違う人が本郷猛を演じても定着しなかった理由
10. 今の仮面ライダーがほぼCGという逆説
11. 一文字隼人と佐々木剛氏
12. 美空ひばりとの違い——役を演じるか否か
13. 性格の可変性という基準——ブルース・ウェイン、長谷川平蔵、車寅次郎
14. 「群像劇化」が原点を重くする逆説
15. 特撮主演というキャリアの賭け——村上弘明、長谷川初範、細川茂樹、オダギリジョー
16. 西島秀俊という稀有な存在——シン・ウルトラマンからBLACK SUNへ
17. 西島秀俊と木村拓哉——芸能人としての格と俳優としての評価
18. 30代・40代の本郷猛を描くという可能性
19. 総3Dアニメ化という選択肢
20. フランケンシュタインの被造物として
21. 唯一無二性を生んだ三つの偶然
22. 撮影現場の一体感、という最後の鍵
23. ブルース・ウェインとクラーク・ケント——比較対象の精緻化、そして本郷猛の特異性のまとめ
24. 最初のデジタル化に生じる微妙な変更
25. 『ボヘミアン・ラプソディ』が示した「受け手の補完」
26. マイケル・ジャクソンの伝記映画
27. 『ワイルド・スピード』のブライアン・オコナーと、ドミニクたちの老い
28. 乱用するプロデューサーへの懸念
29. 「コモディティ化」と「民主化」という言葉の歪み
30. 政治権力による技術の独占とプロパガンダ
31. ゲリラ的パロディというもう一つの危険
32. 結語
