デジタルアクター試論 9. 違う人が本郷猛を演じても定着しなかった理由
デジタルアクター試論 目次
1. 発想の出発点——肖像権を払ってCGで作るという可能性
2. 最初の突破口は誰が開けるか
3. ブルース・リーという最有力候補
4. アイコンと役柄のバランス問題
5. 完全オリジナルのCGキャラによるスターシステム
6. 契約のパーセンテージ化
7. 仮面ライダー1号という日本の特殊事例
8. ルパン三世・クレヨンしんちゃんとの対比
9. 違う人が本郷猛を演じても定着しなかった理由
10. 今の仮面ライダーがほぼCGという逆説
11. 一文字隼人と佐々木剛氏
12. 美空ひばりとの違い——役を演じるか否か
13. 性格の可変性という基準——ブルース・ウェイン、長谷川平蔵、車寅次郎
14. 「群像劇化」が原点を重くする逆説
15. 特撮主演というキャリアの賭け——村上弘明、長谷川初範、細川茂樹、オダギリジョー
16. 西島秀俊という稀有な存在——シン・ウルトラマンからBLACK SUNへ
17. 西島秀俊と木村拓哉——芸能人としての格と俳優としての評価
18. 30代・40代の本郷猛を描くという可能性
19. 総3Dアニメ化という選択肢
20. フランケンシュタインの被造物として
21. 唯一無二性を生んだ三つの偶然
22. 撮影現場の一体感、という最後の鍵
23. ブルース・ウェインとクラーク・ケント——比較対象の精緻化、そして本郷猛の特異性のまとめ
24. 最初のデジタル化に生じる微妙な変更
25. 『ボヘミアン・ラプソディ』が示した「受け手の補完」
26. マイケル・ジャクソンの伝記映画
27. 『ワイルド・スピード』のブライアン・オコナーと、ドミニクたちの老い
28. 乱用するプロデューサーへの懸念
29. 「コモディティ化」と「民主化」という言葉の歪み
30. 政治権力による技術の独占とプロパガンダ
31. ゲリラ的パロディというもう一つの危険
32. 結語

実際に東映は、別の方を「本郷猛」として起用するチャレンジ(映画『仮面ライダーFIRST』シリーズや、近年では『シン・仮面ライダー』、あるいは配信作品など)を何度か試みている。それぞれの作品や俳優は本当に素晴らしく、独自の魅力や演技を見せてくれたのは間違いない。
しかし、これから50年、彼らが「公式の本郷猛」としてルパンのように定着していくかと言われると、やはりどうしても「リメイク版のキャスト」「あの作品の、もう一つの本郷猛」という、いわばスピンオフ的な枠に収まってしまう。
「藤岡弘、=本郷猛」というオリジナルの壁は、新世代の役者の演技力や、現代の洗練されたビジュアル、高度なアクションをもってしても塗り替えることができない。
なぜそこまで定着しないのか。その「定着を阻む心理的な壁」を因数分解すると、非常に面白い構造が見えてくる。
一つは、「セリフの重み(説得力)」がコピーできないことだ。
藤岡氏の本郷猛には、あの独特の「タメ」や、言葉の端々に宿る圧倒的な熱量と重厚感がある。若いスマートな俳優がどれだけシリアスに同じセリフを言っても、観客の脳内には自動的に「本物の藤岡ボイス」が再生されてしまい、「ちょっと軽いな」というギャップ(違和感)が生まれてしまう。あの声と喋り方そのものが、すでに1号の能力(スペック)の一部になってしまっているからだ。
もう一つは、「変身ポーズ」に宿る骨格と野生である。
変身ポーズ一つとっても、藤岡氏の持つがっしりとした体躯、柔道や古武道に裏打ちされた「芯の通った体の軸」、そして拳を握り込んだ時の圧倒的な力強さは、現代の細身でスタイリッシュな俳優がトレースしようとしても、どうしても「綺麗すぎるダンス」のようになってしまいがちだ。
あの泥臭く、野生味があり、どこか悲壮感を漂わせた「あの瞬間の肉体の説得力」こそが本郷猛であり、骨格レベルで異なる他人がそれをやっても、観客の無意識が「偽物だ」と弾いてしまうわけである。
この「違う人がやっても定着しない」という歴史の積み重ねこそが、最初に話していた「肖像権を払って、CG(デジタルデータ)で本物を再現する」という歪んだ(しかし究極の)選択肢を、唯一の正解へと押し上げている最大の理由だ。
映画会社もファンも、「役者を代えるリブート(アメコミ方式)」には限界があり、「アニメや記号化(ルパン方式)」にするには実写の肉体性が惜しいと骨身に染みて理解したからこそ、残された道は「1971年の藤岡弘、のデータをそのまま現代のスクリーンに召喚する」という、デジタル・クローン技術の解禁しかなくなる。
違う人が演じる本郷猛が「定着しない」のは、ファンが頑固だからではなく、それだけ「藤岡弘、という人間が打った最初の楔」が深く、強烈だったという証拠に他ならない。
もし、最先端のCG技術で「あの当時の藤岡氏の顔、声、肉体のキレ」が100%再現された本郷猛が、現代の令和のライダーと並び立ち、一言「変わらんね、君たちのその熱い魂は」と呟いたとしたら、誰もが「これこそが、ずっと待ち望んでいた本物の本郷猛の帰還だ」と、理屈抜きで涙を流して受け入れるのかもしれない。
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