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デジタルアクター試論 31. ゲリラ的パロディというもう一つの危険

デジタルアクター試論 目次

1. 発想の出発点——肖像権を払ってCGで作るという可能性
2. 最初の突破口は誰が開けるか
3. ブルース・リーという最有力候補
4. アイコンと役柄のバランス問題
5. 完全オリジナルのCGキャラによるスターシステム
6. 契約のパーセンテージ化
7. 仮面ライダー1号という日本の特殊事例
8. ルパン三世・クレヨンしんちゃんとの対比
9. 違う人が本郷猛を演じても定着しなかった理由
10. 今の仮面ライダーがほぼCGという逆説
11. 一文字隼人と佐々木剛氏
12. 美空ひばりとの違い——役を演じるか否か
13. 性格の可変性という基準——ブルース・ウェイン、長谷川平蔵、車寅次郎
14. 「群像劇化」が原点を重くする逆説
15. 特撮主演というキャリアの賭け——村上弘明、長谷川初範、細川茂樹、オダギリジョー
16. 西島秀俊という稀有な存在——シン・ウルトラマンからBLACK SUNへ
17. 西島秀俊と木村拓哉——芸能人としての格と俳優としての評価
18. 30代・40代の本郷猛を描くという可能性
19. 総3Dアニメ化という選択肢
20. フランケンシュタインの被造物として
21. 唯一無二性を生んだ三つの偶然
22. 撮影現場の一体感、という最後の鍵
23. ブルース・ウェインとクラーク・ケント——比較対象の精緻化、そして本郷猛の特異性のまとめ
24. 最初のデジタル化に生じる微妙な変更
25. 『ボヘミアン・ラプソディ』が示した「受け手の補完」
26. マイケル・ジャクソンの伝記映画
27. 『ワイルド・スピード』のブライアン・オコナーと、ドミニクたちの老い
28. 乱用するプロデューサーへの懸念
29. 「コモディティ化」と「民主化」という言葉の歪み
30. 政治権力による技術の独占とプロパガンダ
31. ゲリラ的パロディというもう一つの危険
32. 結語

大阪と言えば、環状シビック。一時期駆逐されていたそうだが、また戻ってきてるとか来てないとか。ほどほど、どうかむちゃなされないように、どうか。


 日本のユーチューバーが、大阪のおっちゃん夫婦という設定で、金日成と金正日の顔をした老夫婦に、街角インタビューという体で、北朝鮮批判を言わせる。ご丁寧に、黒電話頭ではない、後ろで髪を括った、ラッパースタイルの金正恩顔の息子が迎えにくる——そんな動画を流したら、国際的に大問題になるだろうな。

 それは国家レベルのサイバーテロ、あるいは「宣戦布告」と受け取られかねない超ド級の爆弾だ。前章で書いた「国家が技術を独占し、権威のために使う」という話の真逆、つまり「ディープフェイクのゲリラ戦・テロリズム」の最高峰がまさにそれだ。

 もしそんな動画が本当に流出したら、単なる炎上系ユーチューバーの悪ノリでは済まされず、数々の国際法や外交ルートを巻き込んだ文字通りの「国際大問題」に発展する。

 なぜそこまで致命的な事態になるのか。北朝鮮という体制において、金日成・金正日・金正恩の三代は「最高尊厳」であり、不可侵の神聖な存在である。

 彼らを、よりによって「大阪のコテコテの一般市民の老夫婦」という、世界で最も泥臭く親しみやすい(そして最高尊厳から最も遠い)記号に貶め、なおかつ「北朝鮮批判」という絶対のタブーを自らの口で喋らせる。さらに、あの独特の髪型を否定された息子が「ラッパースタイルで後ろで髪を括っている」という描写は、記号のパロディとして相当なもので、それだけに彼らが最も恐れる「権威の徹底的な脱色(お笑い化)」そのものになる。

 北朝鮮側からすれば、これは核ミサイルの批判をされるよりも、体制の根幹を揺るがす「実質的なテロ行為」とみなされるだろう。

 過去にハリウッド映画『ザ・インタビュー』(金正恩暗殺を描いたコメディ)の公開を巡って、ソニー・ピクチャーズが凄まじい大規模サイバー攻撃を受けた歴史を見れば、彼らがどれだけ「パロディ」に激昂するかは証明されている。


 もし日本の個人がこれを投稿したとしても、相手国(あるいは国際社会)は「日本の一般市民がやったこと」とは受け止めない。「日本政府が裏で糸を引いているのではないか」という外交問題に即座に直結する。国連レベルで抗議声明が出るのは間違いないし、最悪の場合、日本国内のサーバーやインフラへの大規模な報復サイバーテロ、あるいは拉致問題や安全保障における緊張感が一気にマックスまで跳ね上がる。プラットフォーム側も、秒速でアカウントを永久BANし、動画を世界中で閲覧禁止にする超厳戒態勢をとるはずだ。

 この妄想の恐ろしいところは、先述した「コモディティ化(技術の低価格化)」のせいで、技術的には「個人がワンオペで、今すぐ作れてしまう」という点である。

 かつて国家レベルのプロパガンダ映画を作るには莫大な予算とスタジオが必要だった。しかし今や、一人のユーチューバーが、数万円のAIツールを使って、国際社会を文字通り震撼させる「非対称戦争」を仕掛けられる時代になってしまった。


 しかも、金正日氏は冷静に見れば見るほど、あの独特のパーマ、サングラス、小柄な体型に、どこか丸みを帯びたシルエット——「ヒョウ柄の服を着て自転車に乗っている、大阪の元気なおばちゃん」そのものに見えてしまう。旦那の方(金日成顔)は白シャツにスラックスで「頑固な職人気質のおっちゃん」、嫁の方(金正日顔)はチリチリパーマにサングラスで、買い物袋をぶら下げた「マシンガントークのおばちゃん」という配役にしたら、絵面としての説得力が凄まじすぎて、ディープフェイクだと分かっていても脳の処理が追いつかない。歴史的な事実として、金正恩氏の実母である高容姫(コ・ヨンヒ)氏は大阪(生野区鶴橋)で生まれ育った在日コリアンであり、血統のグラデーション的にも「大阪」というキーワードは、笑えないレベルで彼らのリアルな地脈に触れてしまう。

 独裁国家がどれだけ「偉大なる将軍様」として神格化し、核ミサイルで世界を威嚇しようとも、日本のコテコテのユーモアにかけられれば、ただの「近所の世話焼きなおばちゃん」の記号へと一瞬で解体されてしまう。

 「権威を笑いで無効化する」という意味では、人類が開発したどんなサイバー兵器よりも破壊力がある、究極の風刺動画になってしまう。

 これまで映画や特撮の未来として話していた「死者や若き日のレジェンドを蘇らせる魔法」は、一歩使い方を間違えて政治のダイナマイトとして投げ込まれた瞬間、世界をパニックに陥れる最凶の武器に化けてしまう。

 テクノロジーの進化が、エンタメの浪漫だけでなく、私たちがすぐ隣り合わせに生きている現実の世界をも、どれほど薄氷の上の危険な場所に変えてしまっているかを痛烈に思い知らされる。


前章 30. 政治権力による技術の独占とプロパガンダ

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