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父のnote 1話


『修太へ』

修太には本当に迷惑をかけた。
俺は自分で作った店を病気で潰してしまい、
どう生きれば良いか分からなくなった時もあった。
それでも毎日希望を持てたのは、
修太が居てくれたからだ。

心から感謝している。


普段は恥ずかしくて何も言葉に出来なかったが、
少しだけ言葉にして書いてみようと思う。

小さい時からあまり一緒にいられなくてごめんな。
父さんはお前のおかげで沢山の経験をさせてもらった。
男同士で恥ずかしくていつもどう声をかけたらいいのかわからなかったが、
お前が東京に行った日から修太のことずっと応援してたぞ。

これからも優しさを持って自分らしく生きろよ。

生まれてきてくれて本当にありがとう。

修太のことは父さんがいつでも見守っているからな。 

今度一緒に酒でも飲もうな。       

父さんより


父のnote


数日前、父さんは倒れた。
急死だった。

叔母から「父さんが倒れた!」と連絡をもらい、働いている美容院から急いで病院に向かった。

少し、小雨が降っていた。

向かっている最中は、

まさかな・・笑

という思い。

だが、そのまさかは現実だった。

僕が病院に到着した時にはもう父は息をしていなかった。

先に駆けつけた叔母さんや周りの身内は皆泣いていて、
母さんだけが寝ている父さんの横でボッーっと佇んでいた。

お医者さんから、
「心不全です。病院に到着した時にはもう息を引き取っていて、手の施しようが無い状態でした。ご冥福をお祈りいたします。」


父さんは本当に死んでしまったんだ。

僕は、ベッドに横になっている父を見て呆然としていた。


父は趣味で少年野球の審判員をやっていて、
試合が終わり自宅に帰る支度をしていた時に急に倒れ、
グラウンドでそのまま心肺が停止。
倒れてすぐに病院に運ばれたが、病院に到着した頃にはもう命を引き取っていた。

急死だったので、当の本人も死んだことに気づいていないんじゃないかな。

もう息がない、父の手を握った。
冷たかった。
父の手を握ったのは久しぶりだ。
手を握ったのは小学校ぶりか。
料理人だった父の手は職人の手だった。
こんなに大きくゴツゴツしていて、立派な手だったんだ。

握った父の手を離した瞬間に急に悲しみと寂しさが襲ってきた。
もう、言葉を交わすことはできない。

涙は、
流れなかった。

僕は、何も親孝行して上げることが出来なかった後悔の気持ちの方が強く、
自分の弱さや虚しさを感じることしか出来なかった。

手を離した僕は、
少し距離をとって只々横になっている父の姿を見ることしか出来なかった。

気付けば夕暮れになっていた。


病室の外の椅子で1人でしばらくぼーっとしていてどれぐらい時間が経っていたのかわからなかったが、気付けば少し離れた病室の外で身内同士で話合いをしていた。

なんとなく今は誰とも話したく無い。

ふと、鞄が目に入った。
父さんの鞄か…
横になっている父さんの少し離れたの棚の上に、
父さんの鞄があることに気づいた。
僕は父さんの鞄を手に取り、
元いた椅子に腰をおろした。
そこへ、
「バックも何年も使ってるんだよねーこれを。」
と言い、母さんが隣に座って来た。

いつも通りの笑顔だった。
母さんも泣いていなかった。
本当は辛いはずなのに。

「この鞄ボロボロだね」
と僕がいうと、

「覚えてる?あんたが少年野球始めてお父さんが審判員始めた時からこの鞄持ち歩いてるよ、もう15年以上使ってるんじゃ無いかな?」

そう母さんに言われ、僕が少年野球をやっている時からこの鞄を父さんが持っているのを思い出した。

野球の道具がたくさん入る大きな黒い布製のボストンバッグ。

チャックを開け中を覗くと、何処か懐かしい匂いがした。
中には、審判の時に使う道具や着替えの他に、
趣味の本、沢山の書類など父はいろいろなものをカバンに詰め込んでいる。

昔から小さいレトロな人形や、気に入った本などを古本屋で買い漁り自分の机の上に並べていて机や部屋が散らかっていたのを思い出した。

父さん、物持ち過ぎなんだよ、父さんらしいっちゃらしいけど..

そして僕は、その中から1冊の”note”を見つけた。


「ボロボロのnoteだなー、何に使ってんの?」

「父さんそういうの何冊も持って大事そうにしてるからねー、いつも母さんが家で散らかってるのを片付けようとすると、触るなよ!って怒られてたわよ。」
と母さんが言った。

母さんはどこか寂しそうな表情をしていた。

何年も前からある古いnoteなのだろう。
封をした手紙が最初のページに挟まっていた。
挟まっていた手紙をよくみると『修太へ』と書かれている。
思わずバッと勢いよくnoteを閉じ、手紙も一緒に仕舞い込んだ。

えっ..

悲しさと切なさ、そして変な期待が混じった感じ。
感じたことの無い不思議な感覚だった。

「母さん見て、なんか手紙挟まっているnoteあったよ、『修太へ』って書かれている手紙がある。」

「そんなのあったの?気になるねー。開けてみたら?」
母さんがそう言うと、
「なんか開けたく無いんだけど..」
と咄嗟に答えてしまった。

中に書かれていることを見てしまうともしかしたら涙が止まらなくなる。
よく分からなかったがそんな気がしたんだと思う。

すると母さんが、
「じゃあ、自分が見たい時に開けたらいいんじゃない?」
と母さんは笑顔で言った。

「そうだね。noteも千秋が来たら見てみよっかな」

落ち着いたら見よう。
その時は大事に父さんの鞄に再度仕舞い込み、持ち帰ることにした。

そうは言ったものの、しばらく病院にいる間に一刻も早く中を見たい気持ちが抑えられず、何回も手紙を開けようとした。
結局手紙とノートの中を見る勇気が出ず、父さんのカバンを両手で強く握り締めているだけだった。

気づけばもう日は暮れ、お通夜やお葬式の準備をするために葬儀屋さんが到着し叔母や母さんと話をしていて、僕も話に参加しないとと思いながらもどうしても話し合いに参加する気分にならず、僕は1人で病院の外に出てnoteと手紙の入った自分の鞄を抱えながら、空を見上げていた。

まだ少し雨が降っている。

ただボーっとしていただけで特に何も考えてはいない。

するとそこへ、
千秋が病院に到着した。

3つ歳下の妹の千秋は地元とは離れている場所で働いていて、
父さんが倒れた事を聞き急いで駆けつけていた。
父さんが病院で息を引き取ったことを確認していた僕だったが、千秋が病院に向かっている途中に、

「父さん大丈夫?」と電話で聞かれたが、
「多分大丈夫だよ」と答えてしまった。

人間というのは不思議な生き物だ。

嘘をつくことでも無いのに、無意識で少しでも自分の気持ちを和らげたかったのか、千秋に悲しい思いをさせたくなかったのかわからないが
咄嗟とっさの嘘”とはまさにこのことだろう。

タクシーで到着するなり、
「父さん大丈夫?」
とまた聞かれたが、
「こっちだよ。」
と病室を案内するだけで何も答えることは出来なかった。

病室に到着した千秋は、
息を引き取った父さんの姿を見て泣き崩れていた。

千秋は父さんと仲が良かった。
少し人見知りで寂しがりだった千秋は、小さい時からいつも父さんの足元にくっついて、優しく抱き上げてくれる父さんが大好きだった。

千秋は偶然にも父さんの誕生日の日に生まれ、父さんにとって千秋が産まれたということは正に父さんにとって奇跡に近い誕生日プレゼントだったのだろう。

そんな千秋に僕は、声を掛けることも出来ずただその様子を少し離れた所から見ていることしかできなかった。

またぼっーっとしていた。
すると、
「とりあえず先に帰っていいよ」
叔母が今日初めて話かけてくれて僕にそう言ってくれた。

「大丈夫だよ、お通夜とか葬儀の話とか色々あるでしょ?手伝うよ。」

「あんたは今日はゆっくり休んで明日からまた手伝ってちょうだい。今日はおばさん達で話しとくからまた明日連絡するね」

昔からしっかりしていて、頼りになる叔母だ。
そんな言葉を受け僕は何も言えず、父さんの鞄を握り締めタクシーで家に帰ることにした。

千秋に声かけられなかったな..

千秋が気がかりだった。

手紙とnoteのことは明日話そう
そう思い、タクシーに1人で乗り込み自宅に帰った。

父さんからの手紙とnoteのことをずっと頭の中に考えながら帰路でタクシーから窓の外を見ると昼間降っていた小雨は止み、星が雲の隙間からほんのり見えるのををただ眺めていた。

家に到着すると妻が、
「今日は大変だったね」
と声をかけてくれた。

「そうだね、明日からまた少しバタバタするかな」

「子ども達ももう寝てるから今日はゆっくり休んでね。」
そう言われ安心した僕は、
そのままベッドに倒れ込んだ。

横で子ども達がスヤスヤと寝ている。
幸せそうな顔だ。

窓を見ると、また少し小雨が降り始めていた。

明日は晴れるかな..手紙なんて書いてるのかな..
と考えながら、
僕は静かに眠りについた。


1.父のnote -1話-

2.父のnote -2話-

3.父のnote -3話-

4.父のnote -4話-

5.父のnote -5話-

6.父のnote -6話-

7.父のnote -7話-

8.父のnote -8話-

9.父のnote -9話-

10.父のnote -10話-

11.父のnote -11話-

12.父のnote -12話-

13.父のnote -終わりに-


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