父のnote 4話
1997年 12月
修太へ
前回このnoteを開いてから半年ぐらい経ったな。
もう年末で、お店も忙しくてもう少しで年越しだ。
この時のクリスマスプレゼント覚えているか?
父さん修太にグローブ買ってあげたんだぞ。
修太が、
「野球やりたいって!」て言ってサンタさんにお願いするって言って買ったんだ。
来月、通っている小学校の少年野球の見学に行くというのも母さんから
聞いてるぞ。
グローブはまだ渡していないが、
修太はどんどん色々な事に挑戦して行くな。
今日は修太は母さんと家にいて今は1人で、
店を閉めた後に書いている。
いつも父さんは帰りが遅くてごめんな。
寂しい思いさせて悪いと思ってるよ。
ところで、
このnoteを読んでいる修太には『親友』はいるか?
何も1人でなくても良い。
何人いたって構わないさ。
親友っていうのはな、修太がどんな状況でも助けてくれたり話を聞いてくれたり、
「今の自分があるのはお前のおかげだよ!」
って言えるような友達だ。
自分がこいつは俺の親友だ!
って自分が思えたらそれで良いんだ。
父さんは沢山いるぞ。
元乃屋の内装も父さんの親友の皆んなに手伝ってもらって作ったんだ。
もしそんな親友がいるなら、
その人達に感謝を伝えたことはあるか?
もし伝えきれていないなら、
感謝を伝えてみて欲しい。
親友に感謝を伝える。
それだけで、今の自分より更に大きな器を持った男になれるぞ。
もし親友と呼べる相手がいなかったとしても、
父さんは修太の親友だ。
何歳になっても、
親であり、親友のような存在でいたいな。
今日はこの辺にしてまた書くからな。
このnoteを書いている時の修太は、
ホントにどんどん成長していっている。
そんな姿を見ることが出来て、
父さんは心から幸せだ。
なんか困ってたら遠慮せずなんでも聞いてこいよ。
ではまた次のページで逢おう。
父さんより。
クリスマス前の、元乃屋にて。
2ページ目を読み終えた僕は、体から熱く込み上げるものを感じた。
父さんの僕に対しての思いがnoteを通して伝わった。
父さんは親友のような存在ではなかったかな。
でも本当はそんな風に関わりたかった。
そして僕は恥じらいもあってか、
考えたら誰かに心から感謝を伝えるのが苦手だ。
勿論美容師として働いている時には、
お客さんに対して心から感謝を伝えること出来ていると思う。
でも、身近な大切な人達に感謝が出来ているかというと全く出来ていない。
母さんや父さんには、いつも素っ気ない態度で
接してしまっていた。
親友に感謝か…
なんか気が乗らないな。
でももしかしたら、
父さんみたいに俺も明日急にこの世からいなくなることだってあるんだ。
今の自分があるのは誰のおかげ?
そうだ、
翔平に連絡してみようかな。
翔平は中学からの親友で俺のことなんでも知っている。毎日一緒にいて、高校に入ってバイトも一緒。美容専門学校も一緒。東京に就職した時も職場は違うがたまたま3つ隣の駅に住んでいて切っても切れない関係だ。
美容師の道に進んで、毎日何だかんだ楽しく過ごせているのも翔平が
「美容師になる!」と言って「一緒に行こう!」と誘ってくれたおかげだ。
前のページで言っていた、
今の自分の『生き方』を導いてくれたのも翔平だ。
僕はなんだか翔平と無性に話したくなって、
東京にいる翔平にすぐ電話を掛けようとした。
だが時計を見ると夜中の1時前になっていた。
結構遅くなっちゃったな。
明日掛けるか。
翔平に、
”明日話したいことあるから仕事終わったら教えて”。
とメッセージだけ残し今日は寝ることにした。
noteを父さんの鞄に仕まい、
家族が寝ている寝室で横になった。
今日は疲れたな。
とりあえず仕事は明々後日からか。
お客さんとスタッフには迷惑かけたな。
寝転がってそんなことを考えている時にふと思い出した。
noteにも書いていたが、
小学校4年生の1月から野球を始めたんだ。
noteの日付が僕が小学校4年の12月の日付だったから、
父さんがあのページを書いた後から少年野球を始め中学校3年生まで続けたんだ。
そして父さんもこの時ぐらいから野球の審判員を始めた。
何処かのページで父さんが審判員を始めたこと書いているかもな。
そんなことを思いながら僕は疲れて寝てしまった。
雨音が優しく聞こえる夜だった。
次の日の朝はどんよりした曇り空だった。
少し寝坊してしまい、
いつもなら一緒にご飯を食べて僕が柊と桃を幼稚園にへ連れていく。
でも今日はいつもの朝の慌ただしいい感じも全く感じないぐらい熟睡してて、
子ども達は2人とも妻が学校に連れて行ってくれていた。
妻も仕事に行く準備をして、もう家を出るところだ。
「ごめん寝坊して」
「大丈夫だよ、今日はゆっくりしててね」
「行ってらっしゃい」
本当に妻の優しさには救われる。
妻にもちゃんと言葉にして感謝、
伝えたこと無いな。
妻を玄関で見送った後、
僕はすぐ翔平からのメッセージを確認した。
案の定、寝てる間に電話もかかってきてて、
「えっ、大丈夫?なんかあった?」
と返信が来てた。
返信しようとしていたところに、ちょうど翔平からまた電話が掛かってきた。
「おはよう、どうしたシュウ?なんかあった?てか久しぶり笑」
「おー久しぶり!いや別に対した用でもないんだけど笑」
「何それ?笑 夜中に深刻そうな連絡入っていたからびっくりしたんだけど」
「いや別に深刻な話では無いから仕事終わったら連絡してよ!」
「今日仕事休みなんだよね!何?!今話せる?」
「あっそうなんだ!予定ない?」
「今日は昼間だけかな!その後は予定無いよ!」
「じゃあ今から行くわ!夜飲もう!」
「はっ!!シュウ、今地元だろ!?」
つい勢いで言ってしまった。
僕の地元から東京までは片道、電車で4時間はかかる。
でもどうしても直接会って話したくて勢いで言ってしまった。
ちょうど仕事も明後日からだ。
時間はある。
僕は妻にすぐ連絡して、
「翔平に会いに東京に行ってくる」
と連絡だけ入れてすぐさま準備を始めた。
いてもたってもいられなかった。
実家の片付けや母さんの心配もあるけど、
今は早くnoteの続きを見るために親友に『感謝』を伝えたかった。
父さんのnoteが1ページごとに自分に何かを気づかせてくれたり、
何か与えようとしてる様に感じたせいか、
簡単に次のページを捲るのも気が引けた。
そして翔平に会いにいこうと体が勝手に動いた。
僕は1泊分の準備をし、
父さんの鞄からnoteを取り出して家を飛び出し、
東京行きの電車に乗った。
懐かしい駅で電車を降りた。
ここは僕が東京に出てきて最初に住んだ街。
数年振りに来て駅前は大分風変わりしていたが昔の面影は残ったままだった。
ここに住んでいた頃はたまに駅前の時計台の下で翔平と待ち合わとせをして、仕事が終わった後に飲みに行っていたものだ。
「シュウ!」
遠くから翔平の声が聞こえた。
「久しぶり!元気だった?」
「元気だけど急すぎるな!マジでどうしたの急に?笑 とりあえず俺の行きつけ行こう!」
翔平と会うのは3年振りだ。
僕達2人は社会人になってから頻繁に会うという事は無いし、
連絡もまめに取る訳でも無い。
でもどんなに会わない時間があったとしてもお互いに親友だと理解している。
そんな関係だ。
翔平は昔から洋服のセンスや髪型などは群を抜いておしゃれで、美容師になってからも数々のコンテストで入賞したり見た目も中身もまさに美容師そのもの。
今は新卒で入った会社で最年少で役員にまでなった美容師エリートだ。
お店に着くまでたわいも無い話をしていた。
地元にいる友達は元気?とか、翔平はまだ結婚していないとか、そんな話をしているうちに翔平行きつけのお店に到着した。
「生2つ!」
と翔平が勝手に注文を終えると、
「で何?急にどうしたの?まさか離婚した?笑」
「違う違う笑。いや、なんか翔平と飲みたくなってさ笑」
「えっ、どーいうこと?笑 どうした急に?笑」
「いやどうしたと言われても笑。今日飲みたかったから来たんだよ笑」
何か恥ずかしくて上手く切り出せない。
翔平に伝えたい事があったんじゃないか?
なんか素直に言えないな。
心の中でそう呟いていた。
「まぁいいや!楽しく飲もうよ!」
と翔平が言い、今の仕事の話や昔の話で盛り上がり話が弾む。
翔平とは本当に気が合う。
何でも話せる唯一の仲だ。
気づけば話が盛り上がって1時間ぐらい経っていた。
最近父さんのことばかり考えていたが、
少しだけ父さんの事を忘れ、心から楽しんでいた。
「で、なんで今日来たの?」
と急に翔平が唐突に切り出した。
「えっ..」
僕は黙り込んでしまった。
「もーなんだよ、やっぱり離婚だろ!?笑」
少し酔いながら翔平が言った。
「違うよ!俺高校の頃、翔平が美容師なるって言って誘ってくれて今本当に仕事も楽しくて充実してるから翔平に感謝を伝えに来たんだよ!」
「えっ!何それ、どーいうこと?!笑」
笑いながら翔平が言葉を返した。
「だって、もしかしたら明日死ぬかもしれないし..」
「何言ってるんだよ急に笑」
「実は父さんがこの前倒れて死んだんだ。人って意外とあっけなく終わるんだなって身に沁みて感じたというか。そう考えた時になんか翔平に合わないとって思っただけ」
そして鞄からnoteを取り出し閉じたままテーブルに置き、
父さんが急死した経緯を話し、noteを見てここまで来たということを話した。
「俺ってさ、翔平がいてくれたから今の美容師も楽しく続けられてて、今自分のお店も出したいと思うしさ、高校生の時、美容学校に翔平が誘ってくれなかったら俺何してたのかなって凄く考えたんだ。
俺にとって今の生き方を導いてくれたのって翔平なんだよね。
だから今更だけど”ありがとう”って伝えようと思って今日来てみた」
僕は急に心が熱くなった。
今まで面と向かって翔平にこんなことを言った事が無い。
一番仲の良い友達なのに、
こんなに勇気がいるんだ。
そして、
俺何言ってるんだろう。
と恥ずかしくなった。
「親父さん残念だったな。とりあえずそのnoteは大事にしまっときなよ。
俺が見るものでも無いし」
翔平が話を始めた。
「てかさ、それ言ったら俺が美容師なる道を決意したのもシュウのおかげだよ。
シュウは覚えてるかわかならないけど、なんとなく美容学校行こうかなって言ったら、”翔平なら手先器用だし絶対良い美容師なれるよ!”って言ってくれたんだよね。俺あんまり友達いないタイプだからさ、シュウがいたら安心するし、一緒なら楽しそうって思ってシュウのことも誘ったんだよね。
俺何気にその言葉ずっと覚えててさ、それで美容師になる決意したっていうか。シュウがここに住んでる時にたまに会って飲んで仕事の愚痴話してた時も、”翔平なら絶対大丈夫だよ”っていつも励ましてくれてたじゃん。
俺はシュウの言葉に救われてたけどね。
こちらこそホントにありがとうって感じだよ笑」
胸が少しだけ締め付けられるような感覚になった。
翔平がそんなことを思っていてくれてたなんて知らなかった。
こっちが感謝を伝えにきたつもりなのに、
翔平の人生にとっても僕自身がほんの少しかもしれないけど
影響を与えていて、まさか自分が感謝されるなんて思ってもいなかった。
ほんの少しだけでも、
自分が誰かに貢献する事が出来ていたんだなと感じて嬉しかった。
そこからまた昔の話になり閉店までお互いの過去の話を永遠と話して楽しい時間を過ごした。
盛り上がったままお店を出て帰り道、
少し小雨の交差点で別れ際に翔平が、
「明日また帰るんだろ?気持ち的には大丈夫?」
と気を使って話かけてくれた。
「いや全然大丈夫!このタイミングで会えてよかったよ!」
「そっか!よかった!なんかあったらまた連絡しろよ。なんか今日楽しかったな!」
「そうだね!また連絡するよ!」
そう言って軽くハイタッチをし、解散した。
歩きながら振り向いたら、翔平もこっちを見ながら振り向いて歩いていたので
大きく手を振った。
話出来てよかったな。
この街は僕の社会人生活の原点の街だ。
そう思いながらホテルに向かう前に懐かしい街並を小雨の中歩きながら、
急に思い立って上京した時に初めて住んだマンションの前を通った。
懐かしい感じがした。
マンションの近くの河原を歩きながら、
ここに住んでいた時から6年以上経っているのに、俺ってあの時から何も変わってないな。此処に住んでいる間に、父さんも一回ぐらい招待すればよかったな。
と考え、また父さんに何もして上げられなかった自分の後悔が襲ってきた。
それと同時に父さんのnoteに書いてあった
『自分の生き方は自分で決めるんだ』
と言われたことについて考えていた。
今までただ何となく自分が楽しいと思って美容師やって来たけど、
もっとお客さんに喜んでもらって、”感謝を受け取れる美容師”になりたい。
関わってくれるお客さんや周りの人達に、前向きになるきっかけを創れる人間になろう。言葉で伝えるのは勇気が必要な場面もあるけど、自分が心から思っている感謝や愛を伝えれるようにならないとな。
それぐらの気持ちを持ってもっと真剣に生きないとな。
それが今の自分の『生き方』ってことだ。
正しいかわからないけど、
少し自分の『生き方』が決まったかもしれないと思った瞬間だった。
そして父さんが言うように、
ほんの少しだけ自分という器が大きくなったようにも感じた。
そう感じた時点で僕は早くnoteの次のページが見たくなり、
早く戻ってnoteの続きを見てみよう!
そう思い、
懐かしい場所から雨が強くなってきそうなのを感じて、
少し駆け足でホテルに戻った。
ホテルに到着してスマホを確認すると妻から、
”ゆっくりしてきてね”
と一言連絡が入っていた。
”明日帰るよ、いつもありがとう”
と返信した。
雨で少し濡れた体を温める為にシャワーを浴び、
着替えてすぐさま父さんのnoteを鞄から取り出し、
ベッドの上でnoteを開いた。
