父のnote 2話
翌日のお通夜は自宅で行うことになり、
改めて自分の不甲斐なさを痛感した。
本当に、
何も親孝行出来なかった自分を責めた。
お通夜が始まる前、
いざ棺桶に入った父を実家で目の前にして僕は父さんを見つめたまま1歩も動くことが出来ず、父を見つめながら膝をついてずっと涙を流すことしかできなかった。
父さんとはたまに顔を合わすことがあっても、
話すことはほとんど無い。
たまに実家に顔を出すと、
「元気か?」
と言われ、
「元気だよ」
この程度の会話しか無いし、
最後に話した会話もほとんど覚えていない。
お互いお酒も好きなのに男同士恥ずかしがってか、
一度も一緒にお酒を飲んだことも無かった。
後悔で胸がいっぱいになり、とても苦しくなった。
翌日葬儀も終わり、夕方実家に戻り少し落ち着いた頃に、
父さんの鞄を持って父さんの部屋に入った。
急死だった父さんの部屋はまだそのまま散らかったまま。
書類や本で散らかっている。
本当に、父さんはいなくなったんだ。
いなくなった父さんの部屋を見渡していると千秋が入ってきた。
千秋も寂しそうな顔をしていた。
ふと手紙とnoteのことを思い出し、
「そういえば父さんのnoteと手紙見つけたんだ、めっちゃ昔から使ってそうなボロいやつ。父さんの鞄に入ってた」
と千秋に言い、持ってきていた父さんの鞄からnoteと手紙を取り出した。
「なんか手紙は俺宛なんだよね。まだ中は見てないけど。noteは落ち着いたら千秋も一緒に見ようって母さんと話して俺持ってるんだよね」
「えっ?何それ笑 なんか緊張するねー」
そしてリビングへ戻り、
母さんと千秋と一緒に手紙とnoteを見ることにした。
僕は手紙の封を開けた。
手紙には僕宛のメッセージが書かれていた。
手紙を読み終えた僕達は色々な気持ちが蘇ったり、
少し安心した気持ちにもなったんだと思う。
母さんと千秋は健やかな表情をしていた。
「いつ書いたんだろうね。でも、多分誰にも見られないようにいつも持ち歩いてたんだろうね。母さんすぐ父さんの部屋片付けようとして部屋の中漁るから。ところでnoteは?」
と千秋が言ったので、noteの最初のページを開いた。
そこには確かに父の字で、たくさんの文字が刻まれており、僕の手は少し手に力が入る感覚がした。
noteはかなり昔から使用されている跡もあり、
かなり古びていたので文字が掠れている。
ただ読めないことは無さそうだ。
日記のように綴っていることには気づいた。
ふと書いている文字の冒頭を見ると、
『修太へ』と書いていた。
えっ..
思わずちょっと見始めたnoteを閉じてしまった。
そしてもう一度見て、またすぐに閉じた。
少しだけ僕達は勘づいた。
自分宛のnote?
そう思った瞬間にもしかしたら母さんと千秋の前で涙が止まらなくなるかもしれないと思い、noteの内容に目を通すことが出来ないと思った。
「これお兄ちゃんに宛てたnoteなんじゃない?凄く読みにくいけど笑」
「……」
「とりあえずお兄ちゃん持ってたら?見終わって私も見て良さそうだったら貸してよ」
千秋は笑顔でそう言った。
と同時に、
「てかなんで私に宛てた手紙とかノートはないのー?」
と不満そうに千秋が言っている。
母さんも
「修太が持ってたら?」
と一言。
母さんは笑ってた。
「わかったじゃあとりあえず俺が持って帰るね。ゆっくりみて後から渡すわ」
そう言うと2人ともニコッと笑い、
その場で急いでnoteを鞄にしまい、急いで玄関に向かった。
父さんの鞄にnoteを仕舞い実家の玄関を出た僕は、
夕方の少しどんよりとした空気の中、
少しだけ駆け足で実家から離れた。
玄関から出ると、
結局涙が止まらなかった。
実家で手紙の中身を3人で見ている途中、
父さんから貰ったことのない言葉を受け取り、
涙が溢れそうだったがグッと堪えたものが溢れ出てきた。
嬉しい気持ちと、悲しい気持ちの両方が入り混じった感覚になった。
また少し雨が降ってきた。
小雨で体に当たる雨の感覚が、
少し優しく感じた。
「おかえり、少し休んだら?ご飯もあるよ」
自宅に着くと妻がそう言って声をかけてくれた。
「パパおかえりー!」
「パパちゃんと手洗ってよ!」
「ただいまー、2人とも良い子にしてた?」
5歳の息子の柊と3歳の娘の桃が声をかけてくれて、
帰ってくるなり桃には早速一丁前に説教される。
子ども達は本当に大人のことをよく見ている。
柊はとても繊細で僕が元気が無いのを察してか、
「今日はパパと一緒に寝てあげるんだ」
と言って寄り添ってくれた。
気を使わせちゃったかな。
子ども達の顔を見て安心したのか、
クタクタになっていたことに気づき、
ソファに倒れ込んだ。
そんな僕を見て優しく声をかけてくれる妻は、
本当に支えになる存在だ。
食事を済ませ、寝る支度をし、
柊と桃が寄り添って寝てくれたおかげで眠りに落ちそうになったが、
ふとnoteのことを思い出し目が覚めた。
横を見ると妻は子ども達と一緒に寝ている。
僕は1人でそっと自分の部屋に入り、
父さんの鞄からnoteを取り出して自分の机の上に置き、
noteを見つめ、深呼吸をして椅子に座った。
何が書いているんだろう、やっと確かめられる。
noteの表紙は古びていて何も書かれていない。
少し見つめて、
もう一回深呼吸をして、
僕は、
noteを開いた。
1996年 3月
修太へ。
このnoteを見ている修太は何歳になってみているのだろう?
今父さんは、
仕事始まる前にお店でこのnoteを書いているんだ。
そして今、小学校2年生の修太が横にいて、このnoteに興味津々で
「見せて見せて!」
と言っているのを、
「大人になったら見せて上げるよ」
と伝えたところだ。
お気に入りの手のひらサイズの木彫りのカエルを持って父さんの仕事が始まる前にいつも遊ぼうと言ってくるんだ。
修太はよく父さんがレシピノートを書いてる横で、
「見せて見せて!」
といつも言ってたんだぞ。
覚えてるか?
実はそんな修太の姿を見て、
大人になった修太に渡すことの出来るnoteを書こうと思いついて
今書いているんだ。
このnoteを書いている父さんの横で修太は、
父さんに構ってもらえなくて本を読んでいる。
修太は本を読むのが好きだな。
父さんもインドア派だったからな
少し父さんにも似ているのか?
このnoteを見ている修太は今何歳だ?
立派な大人になっているか?
父さんは34歳でこの店を始めた。
もしかしたらお前もそれぐらいの歳か?
修太がこのnoteを見る頃にはこのnoteは1冊に収まっているか、10冊ぐらいになっているか解らないが、修太が成長して大人になっていく姿をこのnoteに書いてこうかなと思う。
そしていつか自分の手で渡そうかな。
修太がどんな風に大人になっていくかも感じられると思う。
じゃあ次のページでまた会おう。
父さんより
信じられなかった。
僕が小学校2年生の頃、学校が終わって父さんが営んでいた元乃屋という居酒屋で仕事が始まる前に一緒に遊んでいた頃に書いていたnoteだった。
半分信じられなかった。
でも確かに日付を見ると僕が小学生の頃の日付だ。
優しくて、寂しい気持ちになった。
そして、何か書いている父さんの横でよく喋っていた自分の記憶も蘇ってきた。
育児日記みたいな感じかな?
父さんから直接渡してもらったわけじゃないよ。
そう思っていると、
急に部屋のドアが開いたので反射的にnoteを急いで隠した。
「ごめん寝てたー。まだ洗濯物畳んでないや」
妻がそう言って起きてきた。
「大丈夫だよ寝てて。やっとくから」
「ありがとー。でも疲れてると思うし、私明日の朝やるからおいといていいよ。まだ起きてるの?」
時刻は23時半過ぎになっていた。
「俺、洗濯物畳んで寝るよ」
「ありがとう。じゃあ先におやすみー」
妻はドアを閉めて寝室に戻って行った。
何故かnoteのことを知られたくない気持ちになってついnoteを隠してしまった自分に少し戸惑いながら、
とりあえず洗濯物畳もうと思い、洗濯物を取り込んだカゴから洗濯物を取り出して広げ、畳み始めた。
畳んでいる合間に、色々な考えがよぎった。
てかあのnote毎日持ち歩いてたの?
父さんは俺のために残したって言っているけど、何が書いているんだよ。
父さんは僕が4歳、千秋が2歳の頃に『元乃屋』という居酒屋を始めた。
順調に営んでいたがある時、癌を患い入院や手術を繰り返していてて、癌は治ったが、体は弱い方でよく病気になって入院を繰り返し、結局店を畳んでしまった。
何か複雑な気持ちも色々と蘇ってきた。
小学校高学年ぐらいから父さんとまともに話した記憶は無い。
無いというより思い出せない感覚に近い。
記憶を掘り起こそうとしている最中に、洗濯物が畳終わった。
早く次のページが見た。
そんな思いを抑えられなくなって、
僕はすぐさま自分の部屋の机に戻り、
noteを手に取り次のページを捲った。
