ライン随想録 ハウスキーピングの工夫
1998/3/1 ライン随想録・スイス・バーゼルレポートより
随想録
関係者の失笑を買うかもしれないが、わたしは家事の手伝いを比較的苦にしないほうである。
それから、男性も女性も、子供も大人も、若者も老人も、それぞれにできる範囲内で家事を分担するこ とが、お互いのためになると固く信じている。
これは多分、わたしが日本のそとに長いあいだ住み、男性・子供が家事を良く手伝って いるケースを多く見てきたからであろう。
買い物、炊事、洗濯、掃除、ごみ処理、子育て、介護、これらはすべて、それぞれの家庭により実にケース・バイ・ケースで、そこの家庭の所得水準、好み、 家族構成員の体力、健康状態などにより、当然微妙に異なるだろ う。
それでも、家庭内で主婦、女性に家事の負担を多く課すのは、 主婦、女性に苦労を与えているというだけでなく、夫、男性、子供に対し貴重な「生活の知恵」を学習する機会を奪っているというマイナス点におおくの家族は気づいていない。
○○(男の子でも女の子でも)ちゃんは受験ですから、勉強をなさい、家事はわたしがしますからねと多くの家庭で母親は言っているであろう。
机にばかり、向かっていては、10代の子供は退屈し、夢想にふけり、能率が上がっていないことに気づいていない。
週に1,2度はどら息子を、どら娘をつれてスーパーなどに、買い物に行くべきである。
少ない予算で、どこで割安のものを手に入れ、鮮度をチェックし、どのような、ロットで売っているかを良く教えよう。
食事の準備、後片付けも、どのように能率的にするか、食べ残 しが「ごみ」となり、その処理にみながどれほど苦労しているかを子供に体験を通して良く教えよう。
英単語を一つ余分に覚えるよ り、その後の子供の生活にどれほど役にたつか実にはかりしれない ものがある。
それに漫然と机に向かっているより、生活に「めりはり」をつける方が、勉強自体に格段、能率があがることは間違いがない。
わたしは仕事での出張先、観光に行った先、イタリア、スペイン、 ポルトガル、フランスなどどこに行ったときも、時間があればスー パーとか市場を覗くことが大好きである。
何をいくらで売っている か、ひとは何を買っているか、そこは実に貴重な情報の宝庫であ る。
魚、肉、野菜、家庭用品の種類、価格、量、質などは国により、地方によりかなり異なり見ていて興味がつきない。
それに日本であまりよく知られていないが、東京・築地の魚市場観光がガイジ ン観光客(とくにビジネス関係)に人気があるらしい。
世界最大の 生鮮食品のマーケットで朝7時までにすべての食品に値がつきさばかれるという点が魅力らしい。
最近、「70才にして厨房に立つ」などという本が売れているという。
女房に先立たれた、または病にたおれた妻に面倒をみてもらえ ない男・夫どもが、やむなく自分で苦労しながら、炊事のしたくを 生まれて始めてしているのである。
30-50代には会社人間として精も根も企業に捧げてしまったのであろう。
妻も台所を汚されるより も、「ゴキブリ亭主」に自分の領域を侵されるよりも、無能な亭主にしておいた方が、便利と考えていたのかもしれない。
それが高齢になったときに自分で自分の始末ができない男どもを輩出させてし まった。
「男子厨房に入らず」などと虚勢を張っているうちに、大事な生活上の知恵を母親、妻からまなぶ機会を逸してしまったひと がたくさんいる。
停年になったとき以後も、妻が現役時代と同様、 家事のほとんどをしているケースが多いのではないかと思う。
夫が停年になったときには、妻も家事の停年年齢に差し掛かっていることに多くのひとは思いが及ばない。
それから、わたしは炊事、洗濯、買い物のような家事は単調で「面白味がない」、「つまらない」とこぼし、損な役回りだと嘆いてい る専業主婦がたくさんいることも承知している。
ただ、この専業主婦の夫が会社でこの主婦以上に「面白味のない」、「つまらない」 仕事をし、家族のために黙々と励んで、給料を稼いでいることにま で考えが及んでいないのである。
ちょっと視点を変えてみると、家事は単純反復作業であるがゆえに、能率を上げ、工夫する余地の極めて大きい作業であるということもできる。
それに子育ても含め、 極めて個性的、創造的な仕事であり、夫のつまらない、会社の仕事より、しかたによっては、実に奥の深い仕事であると思う。
ちょう ど、藤吉郎が「信長の殿」のため、ぞうりをふところで暖めるとい う追加サービスをしたように、同じ草履とりでも、一味違うサービ スを考えているとそうではないのとでは大きく違う。
賢明な主婦は 自分の台所における動線を考え、能率のあがるような器材の配置をしているに違いない。
こうした工夫が実は、子供の勉強や、夫の仕事の段取りを進める工夫と共通しているのである。
机に向かっているだけよりも、家事を手伝うことで、子供は多くことを学ぶ。
賢明な主婦、母親は家事の能率的な進め方を子供に体験させることで、 効率的な勉強の仕方を同時に教えていることになるのである。
そのように思って周囲を見渡すと、家事をするうえで、どこの家庭でも多くの工夫の余地があるように思えてならない。
家事についての夫・子供の協力はどこでも良く相談し、教え、徐々に協力の輪を広げるのが望ましいと思う。
工夫のうちの一つは食料品、洗剤など 家庭用品の購入を効率化することである。
それぞれのところで異な るだろうが拙宅では、最近一週間分をまとめて、木曜の昼休み1 2:30-50分ごろ、勤務先から昼食に帰る道筋で小生が車で近所のスーパーに行き家内が作成しておいたリストですべての買い物を済ませる。
足りないものをすこしだけ買いに走ることは極力避け次週の買い物のときまで待つ。
土曜にはレジが混むので食料品の買い物はしない。
夫婦ふたりという小世帯ということもあるが、一週 間分のすべての買い物をこの20-30分で済ませる。
能率的に買い物を済ませるように買い物リストはスーパーでの売り場の順序に 従い配列しておく。
リストは過去3週分を冷蔵庫のとびらに貼っておき次週分の参考に供する。
食事の支度も単身者・共稼ぎ世帯の効率化がどこの家庭でも参考に なるのではないだろうか。
当然、時間をたっぷりかけて、好みのも のを作るときと、時間をかけずに、簡単に済ませるときの、差をは っきりとつけるのが良いと思う。
単身者・共稼ぎ世帯では土日に一 週間分の献立を考え、準備できるものは土日に調理・冷凍し、週日 は電子レンジで解凍し食べるところが多いと聞く。
好みももちろん あるだろうが、高齢の世帯もこうした工夫が必要になっていくこと と思う。
最近、日本ではかなり味の良い冷凍食品が豊富にでまわっていると聞くが、これも忙しいときに便利と思う。
スイスのわたしどものところでは、スーパーで冷凍のほうれん草が豊富に出回って おり、4cm立方くらいの大きさにわけて袋つめしてある。
朝、冷 凍庫から冷蔵庫に移しておけば、昼、夜には和風、洋風のほうれん 草が食べられ便利である。
いまの時期には、グリーン・アスパラガ ス、ブロッコリーが豊富に出回っており、和風・洋風にも使え重宝する。
また、好みの問題もあるだろうが、わたしのところではご飯 を時折、通常の2倍ほど炊き、一膳分づつ、サランラップで包み、 冷えてから冷凍しておくと、のちに解凍して食べられるので重宝し ている。
日本では、かなり味の良い冷凍ごはんパックが売られてい るらしい。
買い物、炊事だけでなく、洗濯、掃除などもどこの家庭でも工夫の余地が多くあると思う。
家族で分担して能率的に家事をすすめ、生み出された時間、余暇で主婦、妻および家族の構成員の生活の質を さらにたかめるよう考えていく。
このような工夫を重ねることでわ れわれはこれまで暮しを豊かにしてきたように思うのだがみなさま はいかがお考えでしょうか。
老齢プログラマの所感
井浦幸雄さんは「勉強しっかりしなさい、ご飯は私が作るから」ではなく、教育のために子供達にも積極的に家事をやらせるべきという考えのようです。
家事論というより、夫や子供たちに対する教育論ですね。
前世紀末と現在のいくつかの家事に対する主要な変化を挙げてみます。
性別役割分担の変化
家事は主に女性の役割とされていましたが、現在では男女共同参画の意識が高まり、男性も積極的に家事を分担するようになっています。
内閣府の調査によれば、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に反対する人が増えています。
共働き家庭の増加
共働き家庭が増加し、家事の分担が必要となっています。
家事を効率的にこなすためのツールやサービスも普及しています。
家事の価値の再評価
家事は「無償労働」として過小評価されてきましたが、現在ではその重要性が再評価されています。
特に育児や介護など、家事の一部が社会的に認められるようになりました。
テクノロジーの進化
家事を効率化するためのテクノロジーが進化し、ロボット掃除機やスマート家電などが普及しています。
これにより、家事の負担が軽減されています。
教育の一環としての家事
家事を教育の一環として捉える考え方が広がっています。
子供たちに家事を経験させることで、責任感や協力の精神を育むことが期待されています。
井浦さんの随想録によって、家事だけでなく多くの、前世紀末の当時と現在で変わったことを気が付かされています。
補足
上の記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の住職の遺作「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さり、今は住職の息子によって公開されています。
当時、このようにお世話になったことを思い出し、復刻していました。
ある日突然、「ライン随想録」の目次が検索で見つかるようになりました。
しかし、ここから記事へのリンクが途切れています。
これが理由で、今まで検索しても表示されなかったのかもしれません。
そのため、復刻作業は今までどおり続けることにします。

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