ライン随想録 内なる国際化
1997/7/18 ライン随想録 スイス・バーゼルレポートより
随想録
井浦さんは国際機関の勤務が長く、国外に長く住んでいるので、もう「国際人」になっていますね、と良く言われる。
これをいわれると、いつも戸惑 う。
IMF(国際通貨基金)など、ワシントンが7年、BIS(国際決済銀行)のスイスがもう8年、国外で働いているが、いつも自分のことを平均的な日本人 と思っている。
仕事では英語を話さなければならないし、パーティーなどで、フランス語・ドイツ語が必要になることも多い。
しかし、日本についての知識、日 本人との絆が当然私の国際機関における強みであるといつも思う。
周りを見渡しても、イギリス人、フランス人、ドイツ 人、はいても、国際人はあまりいない。
強いていえば、国籍の異なる両親(たとえば英・仏人)のもとで、スイスで育ち、教育を受けた子供たちは、英語、フラ ンス語、ドイツ語、スイス・ドイツ語、がほぼネイティブと同様に話せ、どこにでも住めるので、いわゆる国際人に近いかなと思うが、いわばローカルのヨー ロッパ人ということだけかもしれない。
ただ、日本にだけ長くいた人にくらべ、外国での生活が気楽で、楽しみ方もうまいのではないかなと少し自負している。
同じくスイス・バーゼルに住 んでいても、あまり国外に行きたがらない、ローカルのスイス人が多いことにも気づき始めた。
同じ欧州共同体になっても、国境を越えて働いたり、結婚したり することもそれほど多くないことも分かってきた。
日本だけでなく、多くの国・地域で、実は国際化がそれほど、進んでいないことも事実のようである。
一つの 国、都市、会社、家庭でどれほど、異質のものを受け入れるようになってきたか、いわば「内なる国際化」が大切なもののようである。
内なる国際化とは、日本 にいる日本人同士が、他地域の日本人とどう接するか、ということに集約的にあらわれる。
たとえば、東京ないし、関東の人が、秋田の言葉、鹿児島の言葉に接 したときに、標準語で話すことを要求したり、あなどったりすることはないだろうか。
異なった文化を暖かく受け入れる許容度はどうなのであろうか。
同一の郷里、卒業した学校、会社ごとのグループで排他的な行動をとることはないだろうか。
どこの国でも多かれ少なかれ、同一のグループが寄り集 まるということはあるが、日本の場合この傾向がやや強いように思う。
最近では変わってきたのかもしれないが、官庁記者クラブなどで、一定の資格を持ったも のだけが、記者会見の席に出席でき、他のものは排除されるということがあったように聞いているが、希望者はすべて参加できるというのが、フェアーな扱いで あろう。
同一の学校の同窓会、会社のOB会で子弟の結婚を斡旋するようなことが、昔はあったようであるが、これも民 間の仲人クラブのように希望者がだれでも参加できるようなもののほうが、フェアーであろう。
実は、このアクセスの不平等ということが、情報の流れも含め、日本の社会、企業、組織が不透明、アンフェアーと呼ばれることの最大の理由になっ ているようである。
ある国際空港の建設工事入札にアメリカとか外国の業者を入れさせろ、と要求してきたので、これを認めたが、結局韓国の業者が入札してき ただけで、アメリカの業者は一社たりとも来なかった、という不満を聞くことがあるが、これはそれで良いのであって、その気になれば参加できるということで 皆満足する。
これは日本だけでなく、中国も含めたアジアの国に共通するのかもしれないが、人治主義を好み、法治主義を好まないという傾向がある。
日本には、 法体系を精緻なものにしたり、紛争の決着を裁判によるという傾向を好まない風潮がある。
こと細かく法律にせず、裁量権を行政に与えることにより、事態の変 化に柔軟に対応しようという考えである。
これは、行政に対する一般人の信頼が厚く、非日本人の参加が少ないときにはうまく機能してきた。
しかし、この二つ の前提が崩れてきた現在、選択の余地は狭いように思う。
アングロ・サクソン的な、精緻な法体系が日本にも必要になる ときがすぐそこまで来ているように思う。
人が信頼し会い、裁判などには軽軽に訴えないという古きよき時代は国際化・グローバリゼーションの荒波の前に押し 流されてしまったように思う。
もうひとつ大切なことは、血統の国籍主義と居住地による国籍主義のふたつの流れがあるように思う。
私は専門家でないので、詳しいことは分からな いが、たとえば米国とフランスでは、それぞれの国で生まれた人は自動的または容易に当該国国籍を取得できる。
それに対し、日本、ドイツでは両親、または片 親が日本人、またはドイツ人でないとたとえ、それぞれの国で生まれたとしてもその国の国籍が取り難いことのようである。
日本でも、明治以前には先進地域と しての、アジア大陸、朝鮮半島からの渡来人を暖かく、迎えてきた経緯があったように思う。
国民のコンセンサスを得 ながら、希望者に新・日本人としての国籍をジェネラスに、柔軟に与えることが、日本を活性化することになり、また日本人を暖かく迎えてくれる多くの国の人 々に、応えることになるように思うのであるが、いかがなものだろうか。
それから、もう一つ興味あることに、国外で活躍・居住する日本人に対する日本人の見方が微妙なことである。
たとえば、岸恵子がフランス人のチャ ンピ監督と結婚したときに、面白くなく感じた日本人が多かったように思う。
岸恵子がチャンピ監督と別れて日本に帰ってきたときに大喜びをした日本人が多 かったように感じた。
野茂が米・メージャー・リーグに移籍したときも、日本のマスコミの反応も意地が悪かったように思う。
日本に規制が多く、仕事がしにく いことから、優秀な個人、企業が続々脱・日本を図ってしましい、日本が空洞化しまうのではないか、大変だという話を良 く聞く。
この視点で欠けているのは、岸恵子が、野茂が、ハッピーか、生きがいを持って活躍しているか、ということに対する共感、同情であろう。
個人がハッ ピーであれば、グループ、この場合には日本の芸能界、野球界に対する貢献など、さほど重要でない、といった考えが欠落している。
脱・日本をはかった人、企 業はきっと、その国で、地域で貢献しているに違いない、日本だけの視点でなく、グローバルの視点からすれば、本人がハッピーでそこで活躍すれば、結局は皆 のためになるような気がする。
8年ほど前、わたしが国際決済銀行に来たとき、「これで日本も国際機関にいろいろ貢献ができるようになってうれしく思う。」と、ある幹部のひと に言ったら、「幸雄、そんなことより、自分の幸せをここで求めなさいよ」、と逆にさとされた。
目から鱗が落ちたように感じたことを今でも、鮮明に覚えてい る。
老齢プログラマの所感
工場の海外進出などにより、海外で生活している日本人が増えてきている。
井浦さんによれば『 海外に行ったり、住んでいるだけでは国際人ではない。 国籍の異なる両親(たとえば英・仏人)のもとで、スイスで育ち、教育を受けた子供たちは、英語、フラ ンス語、ドイツ語、スイス・ドイツ語、がほぼネイティブと同様に話せ、どこにでも住めるの人が国際人に近い。
一つの 国、都市、会社、家庭でどれほど、異質のものを受け入れるようになってきたかが大切であり、これが「内なる国際化」である。』とのことです。
日本でも海外旅行客が増え、学校の教室に外国人の子供が増えています。
これは、外国人が増えたのであり、国際化している訳ではないようです。
ここまでは納得いかない面もあります。
しかし、「岸恵子が、野茂が、ハッピーか、生きがいを持って活躍しているか、ということに対する共感、同情」が大切と言う考え方には共感します。
補足
上の記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の住職の遺作「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さり、今は住職の息子によって公開されています。
当時、このようにお世話になったことを思い出し、復刻していました。
ある日突然、「ライン随想録」の目次が検索で見つかるようになりました。
しかし、ここから記事へのリンクが途切れています。
これが理由で、今まで検索しても表示されなかったのかもしれません。
そのため、復刻作業は今までどおり続けることにします。

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