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ライン随想録 スイス・ドイツ語

ライン随想録 1996年 井浦幸雄 スイス・バーゼル

随想録

スイス国内では四つの言語が使用されている。
スイス・ドイツ語 (人口の約74パーセント) 、フランス語 (20パーセント)、 イタリア語 (5パーセント)、それにロマンシュ語(1パーセント) である。
フランス語とイタリア語は、それぞれの国で話されている言語とかなり似ている。
しかしスイス・ドイツ語は、ドイツの標準語としての高地ドイツ語とはかなり異なっている。
ドイツ人、特に北部から来た人は、スイスにきて、スイス・ドイツ語を聞いてもほとんどわからないという。

スイス・ドイツ語圏のひとは学校でもならうし、高地ドイツ語はかなり理解している。
スイス・ドイツ語ははなし言葉としての性格が強く、スイス・ドイツ語圏で発行される新聞は高地ドイツ語で書かれている。
公式文書もすべて高地ドイツ語でかかれている。
それではスイスドイツ語で書かれたものはないかというと、じつはあって、ときどきカーニバル(ファスナックト)のグループ参加者を募集するチラシなどにみられる。
音声 (フォネティックス)をそのまま書き記した様なもので、これを北部ドイツ人がよんでも理解できないといわれている。
それだけでなく、スイス・ドイツ語はその話されている地域によって方言にかなり違いがあるといわれている。
現地のひとはその人の出身の村、町までその話す言葉により特定できるという。

また、スイス・ドイツ語圏のひとびとの中にもドイツ語のグループに入れられること自体にやや戸惑いや抵抗感を感ずるひともおおくいる。
こういうひとは、ことさらスイス・ドイツ語と高地ドイツ語との違いを強くいい、文法がそもそもかなり異なっていることを強調している。
さらに複雑なことに、ドイツ国内自体フランスなどとくらべて地域ごとの言語の違いが際立っているといわれている。
ミュンヘン、フライブルグなどの南ドイツのドイツ語はむしろ、フランスのアルザス地方、スイス・ドイツ語と同じアルメニシュ語に近く、北のハンブルグの高地ドイツ語とかなりことなるという。
ようするにスイスではスイス・ドイツ語のグループ内だけでもそうとうな複雑な様相をていしているうえ、さらに他の言語グループとの接触、調整が必要になっている。

フランス語圏のひとびとはまずスイス ドイツ語を学ぼうとしない。
高地ドイツ語もまなぶことに熱心ではない。
フランス語圏ではフランス自体がそうであるようにむしろ英語を熱心にまなんでいる。
スイス・ドイツ語圏のひとびとは高地ドイツ語をドイツ人とはなし、フランス語をフランス語圏の人とはなし英米人、日本人とは英語をはなすということをしている。
スイス人同志でも英語では話している場面によくでくわすことがある。

ルガノ、ロカルノのようなイタリア語圏ではドイツおよびスイス・ドイツ語圏から観光客、滞在客が沢山くるのでむしろフランス語とならんで高地ドイツ語がかなりつうずる。
サンモリッツ、ダボスのあるエンガデイン地方はロマンシュ語圏となっているが、このことばはイタリア語に近いラテン語グループのひとつである。

スイス航空乗務員の語学の要件は母親から学んだ言葉以外に最低二つの言葉が自由に話せなければならないという。
たとえば、スイス・ドイツ語圏の人々は英語、フランス語、イタリア語の内二つが流暢に話せなければならない。
フランス語圏の人々は、英語、ドイツ語、イタリア語のうちから二つが必要となる。
若い人や教育をうけたひとは英語をかなり話すが、英語を話さない人たちもスイスにはかなりいる。

スイス・ドイツ語圏の学校では高地ドイツ語、フランス語、英語を順に学習することになっており、外国語の学習が教課のなかでおおきなウェイトをしめている。
あまり外国語学習に時間をさかれて数学とか物理とかほかの教課の勉強ができないのではないですか、と質問したことがあるが、いくつかの外国語をしっかり学習するとあたまが柔軟になり、ものを多角的にみられて数学などの勉強にも役立つという話であった。

バーゼルをふくむドイツ語、フランス語の混在地域はザール地方、 ロレーヌ、アルザス地方、 からはじまりビール・ビエンヌ、からローザンヌ、ジュネーブへとつながっている。
この地域では、かなりのひとびとがバイリンガル (二か国語)またはトライリンガル (三か国語)とならざるをえない。
スイスではすべての商品の表示が独、仏、伊の三か国語表記である。
言語の混在地域は混乱するようにも思われるが、そんなことはあまりない。
だれがどのことばをどれくらい話すかということを、くらしを通じて皆が良く知っているからである。

駅の切符売り場、 銀行、レストランなどではおおくの言葉を話せるひとが配置されている。
レストランの注文ききなどでは、お客をみてひとがやってくる。
汽車、電車のなか、通行人、など不特定のひとにはなしかけるときには、会話が成立しないことはままおこってくる。
だれもが、 ひとの話すことばに大きな関心をはらっていて、そこからおおくの情報を得ようとする感覚が、 単一言語圏の国以上にとぎすまされている。
町の名前も Basel(独)、Basle (英) Bale (仏) Baselea (伊) 4か国語でことなっている。

国際結婚しているひとの家でどのような言葉が話されていることも、大いに興味のあるてんである。
もとよりどの国同士の出身者がいっしょになるかによって大いに異なろう。
独、仏、伊、オーストリアの4か国にかこまれ、それぞれの国境線から20キロ以内に人口の80パーセントがすんでいるスイスは自国民以外と結婚する人は約30パーセントに達するといわれる。
私たちのまわりにも日本人女性でスイス人男性と結婚している人が多くいる。
このばあい、英国、米国で留学中に知り合って結婚し、のちにスイスに戻ってきたというケースが少なくない。

この場合、最初は英語を話していて、しだいに地元のことばを覚えるにつれて、高地ドイツ語ないしスイス・ドイツ語に変わっていくようだ。
子供がいるばあいは子供はスイス・ドイツ語を話さないとなかまにいれてもらえないので、家庭もスイス・ドイツ語にかわっていくようだ。
英国人、とフランス人が結婚し、 スイスに長く住んでいるケースでは夫婦の間では英語ないしフランス語、こどもとはスイス・ドイツ語はなしているとのことであった。
なにか複雑なようなきもするがだれもが多かれ少なかれ、同じようなことになっているので、国際結婚しているかどうかはあまりめだたないし、関心ももたれない。
同じスイス人とはいえ、ジュネーブのフランス語圏スイス人、チューリッヒのスイス・ドイツ語圏のひと、またはルガーノのイタリア語圏スイス人の結婚のほうがまだ国際結婚のような感じがつよいかもしれない。

スイスの国会ではスイス・ドイツ語、フランス語、イタリア語のいずれを使ってはなしてもただちに同時通訳がなされる。
また、スイス国内テレビもドイツ語版、フランス語版、 イタリア語版の3つがそれぞれ独立の番組を放送しており、ナショナルチームがでるサッカーのとき、日曜日のミサ、 大統領の声明等は同じ映像をちがった言葉の解説でながしている。
ニュースはそれぞれの違った言語グループで独立した番組を作って放映している。
スイス中どこでも周辺の国々の放送が見られる、サテライト放送網ないしケーブル・テレビ網をつかうと30から40のヨーロッパ各国のテレビを受信できる。

老齢プログラマの所感

私は外国語が苦手です。
しかし、入社した後も英語の学習を続け、英検2級を取得したことがある。
現在は60歳になって、中国語を学び始めた。
もともと語学は苦手であり、未だに聞き取りがさっぱりできない。

スイスでは陸続きの国境に接した国であり、外国語がわからないと日常生活にも支障があるという。
こんな環境で、外国語が苦手な人はどうするんだと思う。
しかし、子供のころから外国語に接していると違うのだろうか?
随想録中の「いくつかの外国語をしっかり学習するとあたまが柔軟になり、ものを多角的にみられて数学などの勉強にも役立つ」意見に、そんな人もいるのかもしれないと思う。


補足

この記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さった。
この記事は住職の息子によって今も公開されています。
しかし、井浦さんの「ライン随想録」は今やどこにも見当たりません。
それで、当時お世話になったことを思い出し、復刻することにしました。


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