ライン随想録 イギリス人とフランス人
ライン随想録 1997年2月2日、井浦幸雄 (スイス・バーゼル在住)
随想録
「あらゆる知識の世界の中で、 おそらく国と国を比較することほど楽しい作業はほかにないだろう」(オリヴァー・ゴールドスミス、 1760年)
そのひとの国籍よりも、そのひとの個人・個性により多く注目しているのはわたしだけではあるまい。
海外経験の永い人ほど、 そのひとの国籍よりも、ピエール、ジョン、ハンス、ミシェールという、個人に関心をもつに違いない。
しかしながら、 国の背景というのも個性に微妙に影響しているもののようである。
ひとの考えは、その国の教育、言語、文化、 さらに新聞・TVなどのようなマス・メディアによっても、色濃く影響されるもののようだ。
一例を挙げよう。 同じ職場のイギリス人・ジョンと、フランス人・ピエールが一緒に、 スイスからニューヨークに業務出張にいくことがあった。
帰ってきたので、 出張はどうだったとジョンにきくと、ピエールはランチのためのレストラン探しに30分も40分もかける、 ガイドブックをひっくりかえしたり、友人に電話したり、大騒ぎだった、というのである。
ランチなどハンバーグだけでよいのに、あれほど凝ることもないのに、といったっぷりである。
食に関するフランスの人の思い入れは、かなりのもので、これはピエールだけのことではあるまい。
それだから、ミシュランのレストランガイドブックがベストセラーになったり トリュフなどグルメの素材に生産者が凝るのも、 お客のニーズがかなり高いところにあるためだろう。
ワシントンの国際通貨基金に勤めていたジョンクロードは、フランスからアメリカに赴任するとき、 10ダースものお気に入りのワインを船便ではこんで来たという。
アメリカでは、口に合うワインはないためだという。
考えてみると、イギリス、ドイツからは、イタリアでも、オーストリアでも、ヨーロッパ全域、 全世界に観光客が行っているのに、フランスの観光客は国外にそれほど出かけたがらない。
イギリス、ドイツには、スキーのできるような高い山はないため、スキーのためにはスイスやオーストリアに行かなければならないし、 また、 海水浴のできるような海岸はイギリス、ドイツにはほとんどない。
それに比べて、フランスには、シャモニー、アルベールビルのような、フレンチ・アルプスのスキーリゾートがたくさんあるし、 また、 国内南部には、ニース、カンヌのような、 地中海に面した有数の海浜リゾートがある。
国外に出なくても、国内でかなり満ち足りた余暇がすごせるもののようである。
それに、フランス人からすると、おいしいものもあまりなく、ワインも飲むべきもののない、 イギリスやドイツに、なぜいかなければならないのか、というわけであろう。
外国に行って、なれない英語やドイツ語をはなさなければならないのも、片腹いたいということのようだ。
北アメリカにヨーロッパから移住者が増えていったときにも、イギリス、ドイツからはカナダ・アメリカ合衆国に大量に移住していったのに、フランスからは、ケベックに若干定着したものの、あまり広がりをみせなかった。
カナダ・ケベックからも、 逆にフランスに帰りたがるひとが後をたたなかったとも聞いている。
オーストラリア、ニュージーランドにイギリス人が大挙して移住したときも、フランス人は二の足を踏んだに違いない事は、容易に想像が付く。
イギリス人が国外に移住して、 我慢強いのは、 「イギリスの天候の悪さと おいしくない食事」にあるためではないか、と言っていた人がいたが、 あたらずとも遠からずだとおもう。
東京日本で活躍しているイギリス人 為替ディーラーは、なぜ、 イギリスから日本に仕事に来ているかと聞かれて、 ただひとこと、 “WEATHER" (天候) と言っていた。
過去7年ほど、レッスンをとっているフランス語の先生、 マダム・ベライシュに、一般のフランス人はイギリス人のことを、どのように思っているのか聞いた事がある。
表面的には、フットボールの英仏試合で、 乱闘さわぎになったり、ライバルの隣国同士であるので、 いがみあったりする事はあるが、一般のひとどうしはきわめて親密だと言っていた。
ただ、英国を征服しようとした、 ボナパルト・ナポレオンのお墓には、今でも、本当に死んでいるのかどうか確認をしに、多数の英国人観光客が訪れている、と聞いている。
最後に、わたしは国際機関で、多くのイギリス人、フランス人と一緒に仕事をしてきた。
G-5、 G-7とか言って、経済面では、 先進国の仲間入りをしている(はずの)我が日本国も、日本人も、米、英、独、仏(人) には若干の、 遠慮、気後れがやや付きまとう。
最近の若い人には、この気後れが、ほとんどなくなったのかもしれないが、わたしたち以上の年齢のものには、残墓のようなものが見え隠れする。
しかし、当然のことながら、フランス人には、英米人、ドイツ人に対する気後れがないし、英米人側からも、フランス人に対する敬意と愛着が見え隠れする。
「やはり、ワインとシャンペンの国だし、 まず、 最初にフランス革命を起こして、世界に強い衝撃を起こした国だから、しかたがないか」、とまわりの人々が思っているのだろうか。
「ウォークマンとカラオケ、柔道を考え出した国だし、良い小型自動車を作ってくれるし、最近では、アニメにセガサターンのゲームを作って世界中を楽しませてくれるので、日本はすばらしい国だ」、と皆が思ってくれるのは、いつの日であろうか。
老齢プログラマの所感
この文を読んで『イギリス人が国外に移住して 我慢強いのは 「イギリスの天候の悪さと おいしくない食事」にあるため』と井浦さんは言いたいのではないかというのが初印象です。
私にも親しい中国人がいます。
中国人についての感想や批評を他人から聞いた時、「そのような人はいるかも知れないが、彼や彼女は違うぞ」と思ってしまいます。
その点、「そのひとの国籍よりも、そのひとの個人・個性により多く注目する」に同感です。
「新しくできた店に行ってみようよ」とよく誘われます。
彼らの食への拘りはフランス人に近い気がします。
全く別の国に対する印象ですが、井浦さんと似た感覚になってるようです。
補足(訂正あり)
この記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さった。
この記事は住職の息子によって今も公開されています。
しかし、井浦さんの「ライン随想録」が以下に見つかりました。
当時お世話になったことを思い出し、復刻していましたが、やっていたことはnoteへの転写に過ぎないのかもしれません。
しかし、ここから記事へのリンクは途切れています。
(今まではこの理由で検索しても表示されなかったのかもしれません)
当時の記事を読めるようにしているという意味はあるのかもしれません。
しばらくはライン随想録の復刻を続けることにします。
htttp://www.interq.or.jp/tokyo/yiura/rhein/

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