手のひらのイリュージョン(ミステリ小説第1話 グレート・ハンド)2025note創作大賞中間選考通過作品
(あらすじ)
都内で新興宗教の教祖が亡くなる事件が起きる。死因は転落死だが、現場の状況を見る限り、転落死はありえなかった。
警視庁捜査1課の綿引(わたびき)警部補は、この難事件に挑む。実は綿引には思い出すのも辛い過去があり、今回の転落死事件は、どうやらその過去と関係がありそうなのだが……。
(本文)
いつの世も多くの人が、何かに苦しんでいるものだ。
なのでグレート・ハンド教という新興宗教が一部の若い人中心に流行っているというのも驚くには当たらないと、綿引暖(わたびき だん)は思っていた。
が、この教えは、他の様々な宗教とちょっと違っている。この宗教を教えてくれたのは、彼の部下で27歳になる女性の刑事で、紅涼香(くれない りょうか)。
ちなみに綿引は33歳で、警視庁捜査一課の警部補だ。涼香は別に、この宗教の信者というわけじゃない。
30歳とまだ若い教祖が、スマホの画面でヒップホップ風の歌を歌いながらダンスを踊っているのを面白そうにながめながら、綿引に見せたのだ。
その歌詞は「神の手で、お前達を救ってみせる」とか「俺達と神を信じようぜ」とか「世界の秘密を暴いてみせる」とかいう語句で、散りばめられていた。
信仰宗教といっても仏教系とかキリスト教系とか色々あるんだろうが、グレート・ハンド教は特に何系でもないオリジナルの教えのようだ。
個性的とも呼べるし、色々な信仰の様々な点をツギハギして作ったような思想とも表現できる。
「この人、面白いでしょう?」
涼香は手にしたスマホの動画を綿引に見せながら、少女のような笑みを見せる。
「確かにな。ヒップホップ風の歌とダンスで信仰を語る宗教か」
「ちょっとイケメンでしょう? この教祖。元々売れないミュージシャンだったのに、今じゃすっかり有名人。蓬莱 虹羽(ほうらい こう)って名前」
確かに美男子だ。身長190センチと長身で肩幅は広く、筋肉質の体型だった。大粒の目は、人を惹きつける輝きを湛えている。
その時は、ちょっと面白いぐらいにしか感じなかったが、後になって、まさか自分の仕事に関わってくるとは思わなかったのだ。
その蓬莱が亡くなったのは、11月24日の日曜日だった。
彼は来たる12月1日に、重大な発表があるとネットで宣伝していたが、その前に亡くなったのだ。
彼の遺体が見つかったのは、東京都内の自宅だった。自宅の屋敷は5階建てで、死体は屋上で見つかったのである。
蓬莱はタバコを吸うが、彼と同じ年齢で30歳になる妻が嫌煙家だったため、いつも屋上で吸っていた。
妻の名は、蓬莱小夜(さよ)。元々は虹羽の熱狂的なファンで、売れない頃から恋人として、彼を支えてきたのだ。
虹羽が屋上でタバコを吸うのは、彼が天体観測を趣味にしていたからというのもあったそうだ。
宗教家としての彼は、星空から啓示を受けたとも、生前は再三話していたそうである。
ちなみに遺体の第一発見者は、妻の小夜だった。小夜は、前日土曜日の23時に夫婦の寝室にあるダブルベッドで眠りにつく。
彼女が夫の生きている顔を見たのはその直前で、ベッドに入った妻に向かって「屋上でタバコを吸ってくるから、先に寝てて」と言い残し、寝室を出たのだ。
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