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手のひらのイリュージョン(ミステリ小説第4話 美青年と親衛隊長)

(親衛隊か)
 まるでアイドルみたいだと綿引は感じたが、無論黙っていた。尋問が終わった後、今度は弓削田を呼び出す。
 弓削田の身長は多分180センチぐらいか。細マッチョ体型の美青年だった。年齢を聞くと25歳だ。
 イケメンという言葉よりも、美青年という表現が似合う。
「警視庁の綿引です。この度は、ご愁傷様です」
「お心遣いありがとうございます。偉大なる尊師を失い悲嘆にくれてはおりますが、こんな私でも可能であれば、何でもご協力いたします」
 2人の刑事と向かい合って腰かけた青年は、暗い眼差しでそう答える。
「そうおっしゃっていただきありがとうございます。これは大変話しづらい内容ですが、亡くなった蓬莱さんは殺された可能性もあります。仮にそうだとして、殺害した犯人に心あたりはありますか?」
「心あたりなどないと申し上げたいところですが、残念ながら奥様の小夜さんとは、普段から喧嘩が絶えませんでした。無論だからって小夜さんを殺人犯と決めつけているわけじゃないです」
 口ではそう弁明してるが、暗に犯人じゃないかと疑っているのが見え見えだ。
 良いのか悪いのかわからないが、弓削田が小夜に疑念を抱き、小夜は詩葉に疑問を持ち、詩葉は弓削田を疑うという三すくみのような構図ができた。
「喧嘩の理由は何だったんでしょうか? ご存じなら、教えてください。無論他言はいたしません」
「色々あったと思いますが、理由の1つが小夜さんが、尊師の浮気を疑っていたからです。教団幹部の鶴喰詩葉さんがその相手だと信じているようでしたが、根も葉もない噂です。尊師も鶴喰さんもまじめな方で、不倫なんてとんでもないです」
「お二人を信じたいお気持ちはわかりますが、不倫がなかったと断言できる証拠は何かお持ちでしょうか?」
「そう言われれば確実な証拠はありませんが、僕はお二人を信じています。刑事さん、あなたは我々をうさん臭いカルト教団みたいに思ってるかもしれませんが、グレート・ハンド教はそんな教えではありません。今この社会には、様々な理由で傷ついた人達が大勢います。我々は、そんなかれらを救いたいのです。グレート・ハンドという名前も、偉大なる神の大きな手で多くの民を救いたいという尊師の気持ちから来たものです」
 突然発言が、演説めいてくる。
「お気持ちは、よくわかりました。確かに私も子供の頃父を亡くした時は、何かにすがりたいと願ったものです」
「それは、お気の毒に。あなたが何かにすがりたいと感じたら、いつでも我々は刑事さんをお待ちしてますよ」
 弓削田は、警部補をじっと見る。まるで水晶のような瞳だ。
「ありがとうございます」
 笑いながら、綿引は感謝を述べる。
「幸い、今は大丈夫です」
「それはよかったです」
 透き通るような笑顔で、弓削田が答えた。弓削田への尋問が終わった後、今度は7人の親衛隊への取り調べを始める。
 蓬莱邸は1階の外にたくさんの防犯カメラが設置してあり、そのうちの1つは外側の非常階段の1階部分を映していたが、そこから上に上がった者はいなかった。
 1階の中も親衛隊が寝泊まりする寝室の出入口と2階に向かう階段、2階以上に上がるエレベーターのかご内は防犯カメラが映しているので、昨夜の23時から午前2時過ぎまでに1階から上に上がった親衛隊がいないのは映像で証明される形となる。
 7人の男性全員に尋問したが、犯人に心あたりのある者は1人もいず、怪しい者が出入りするのを見た人物もいなかった。
「尊師様をお守り出来ず、断腸の思いです」
 苦渋の表情で尋問に回答したのは、7人のうちの1人で警備隊長の君塚(きみづか)という男だ。
 身長は190センチぐらいで、筋肉質のがっちりとした体型だった。身長は『尊師』の蓬莱虹羽と同じぐらい。年齢は35歳と自称した。
 つまりは綿引の2歳上である。
「お気持ちはお察ししますが、1番悪いのは犯人です」
 警部補はそう慰めたが、少しでも君塚の苦悩を和らげる事はなさそうに見える。
「亡くなった蓬莱さんのためにも、知ってる事はなんでもお話ししてほしいです。一見犯行と無関係に思えるような要素であっても、捜査に役立った時もありますから」
「しかし本当に、何も思いつかないんです。不審者も見ませんでしたし、いつもと変わった点にも気づきませんでした。部下からも、そんな報告はありませんでしたし。常時誰かしら警備室のモニター前にいて、防犯カメラに映った映像は監視してるんですが」
「犯人だと推測される人物にも心あたりはないでしょうか?」
「ありません。尊師に限ってそんな事などありえません」
「飛行機やヘリコプターが飛ぶのを見たり、飛ぶ時に発生する音を聞いたりした事はないですか?」
「ないですね。隊員からも聞いてません。それに飛行機やヘリコプターが飛んでくるなんて、めったにないでしょう?」
「確かにおっしゃる通りです」
「尊師は温厚な方で、全ての住民の救済を願っていました。誰かに憎まれたりするなど考えられないです」
「しかし、警備は厳重でしたね」
「世の中には色々な人間がいます。万が一を考えて、護衛を厳しく固めていました。この東京に警察が存在するのと同じ理由です」


手のひらのイリュージョン(ミステリ小説第3話 舞い降りた鶴)|空川億里

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