手のひらのイリュージョン(ミステリ小説第16話 最終話 光の向こうに)
「その件なんですが」
本山は、苦い顔をした。
「今回の話は、内密にしてほしいのです」
「どうしてですか!?」
思わず綿引は席を立った。
「グレートノイドとしては過去の悲劇を繰り返さないため、今までのやり方を続けていきたいのです」
「それはかれらの意思でしょう? あなたはどう考えてるんです? これからもミニ東京の都民に、嘘をつき続けるんですか?」
本山は渋柿でも食ったように黙り込む。
「本山さん。あなたグレートノイドの言い分を全部信じてるんですか? 事実だとしても、奴らはまた同じ過ちを繰り返すかもしれませんよ」
知事は黙ったままである。苦渋の判断なのはわかるが、あまりに情けなさすぎる。
「少し、時間をくれないか」
「何日ですか?」
「24時間あればいい」
「承知しました。その間に、あなたの言葉を裏づける証拠がほしいです。知事のおっしゃるように、ミニ東京自体が屋内にあるのなら、外の世界を見せてください」
「いいだろう」
綿引は、知事と共に室外に出た。外の通路にいた2人の護衛が、こちらを振り向く。そこには編集長と、涼香の姿もある。
「ちょっと外出してきます。1時間以内に戻らなければ、プラン通りに動いてください」
綿引は、編集長に声をかける。
「そんな心配は無用だよ」
知事が横から割り込んだ。
「1時間もかからないから」
「そうあってほしいですね。知事選では、あなたに投票したんです」
「ありがとう。次回も1票をお願いするよ」
ずっと真顔だった本山が、初めて笑顔になる。
「綿引さんに何がしたら、絶対に許さない」
涼香が彼女には珍しく、鋭い目つきで知事を睨んだ。まるで目から、レーザーが撃ちこまれたかのようだ。
その後綿引は知事と2人の護衛と共に、本山が乗ってきた黒塗りのセダンに乗りこんだ。発進した車はやがて、都庁に向かう。
都庁の敷地内に入ると、車は地下駐車場に走った。都庁の地下駐車場は地下3階で終わりだったはずである。
が、地下3階の壁の一角の普段は閉じてる扉が開いて、セダンはそこから中に入った。後ろを振り返ると、やがて扉は閉じられる。
車はしばらく下り坂を降りてゆくと、やがてどこまでも続くまっすぐな二車線の地下の道路を走りだす。
(いつまでこの道は続くんだろう?)
だんだん不安になってきたがそれを気取られまいと、平静を装った。やがて前方に光が見える。
光の世界へ抜け出ると、周囲は身長が綿引達の10倍もある巨人達が闊歩する都市だった。
まるでおとぎ話の世界に迷いこんだようである。巨人達は一様に、ガスマスクのような物をかぶり、全身を覆う服を着ていた。
「なんであんなのをかぶってるんですか?」
「大気汚染が深刻化してるんです。核兵器を使った戦争も起きたため、放射能汚染も深刻です。幸い人類は絶滅まではいきませんでしたが。オールドノイドの4割が戦争で亡くなって、生き残った者達も放射能汚染に苦しむ状況を幸いと呼べるならですが」
知事が答える。よくよく見ると建ち並ぶビル群はところどころ外壁にヒビが入り、割れた窓ガラスも散見された。
核兵器というのが何かわからなかったので、綿引は質問する。
ミニ東京で武器と呼べるのは警官の所有するピストルだけだが、オールドノイドの世界では、地球上の各国がピストルよりも破壊力のある兵器を大量に持ち、国家間で時に戦争していたというのが回答だった。
「この悲惨な状況を、私はミニ東京のマイクロノイドに知らせたくないのだ」
知事が話した。
「それは、民主主義の精神に逆行しますよ」
綿引は、答えた。
「もう、僕は決断しました。すでに動画配信で、ミニ東京中にこの世界の真実が流されてます。ミニ東京の未来を決めるのはグレートノイドじゃない。我々でしょう」
