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『星ヨミ樹の世界』 第1話 ゴミの妖精

#創作大賞2026  #ファンタジー小説部門

【あらすじ】
星の記憶を宿す聖樹・星ヨミ樹を観測する
青年ナビエルは、樹の根元で
「消えたい」とつぶやく、
妖精のような少女フィオナと出会う。

星ヨミ樹を見守る美しい兄弟、
ナビエルと、兄のユキが暮らす観測舎で、
フィオナは手作り料理や贈り物、
星獣たちのぬくもりにふれながら、
少しずつ生きる力を取り戻す。

やがて、フィオナに応えるように
星ヨミ樹は歓迎の葉を授ける。
それは、彼女がこの世界に迎えられた
“しるし”なのかもしれない。

孤独だった少女がもう一度、
自分の居場所と生きる意味を見つけていく、
星のめぐりと再生の幻想ファンタジー。

美しい青年ナビエルがふいに見せる
“ゾクデレ”な一面と、兄のユキの
心あたたまる読み聞かせも見どころ。


第1話 ゴミの妖精

夜の森は、深い静けさに包まれていた。
空から降ってくるのは、雪ではない。
小さな光。
星のような粒が、
ゆっくりと森へ降りている。
森の中心には、
一本の巨大な樹が立っていた。
星ヨミ樹(ほしよみじゅ)。

幹はセコイアのように太く、
枝は高く広がり、
白銀の葉が幾重にも重なっている。
その枝は、遠くから見れば、
翼のようにも見えた。
葉のあいだからこぼれる光が、
夜の森を青白く照らしている。

そして、その根元に、小さな影があった。
小さな少女だった。

薄い水色の髪。
灰緑がかった、薄い若葉色の瞳。
その瞳は、半分だけ開いたまま、
どこも見ていないように虚ろだった。
光を受けると、
ほんの少し金色を含んで見える。
星の胞子がその髪に落ちて、淡く光る。

名前は、フィオナ。

星ヨミ樹の根元で、
白銀の羽根のような葉に
半ば埋もれるようにして、
ひとり小さくうずくまっていた。

静寂。

風が白い葉をやさしく揺らし、
星の粒が、音もなく夜にほどけていく。

やがて、森の奥から気配がした。
誰かが、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

白いフード付きのマント。
その裏地には、
夜空のような青い模様がひろがり、
細かな星の粒が散っている。

銀白色の髪。
夜空に星屑を散りばめたような、
深い青の瞳。
片耳に揺れる、青い雫の飾り。

その姿は、暗い森のなかでも、
不思議なほど白く際立っていた。

名前は、ナビエル。

彼は、まず星ヨミ樹を見上げた。
それから、その根元にいる
小さな少女に気づいた。
わずかな沈黙。

フィオナは、かすれた声で言った。

「……消えたい」

その声は、
風にまぎれて消えてしまいそうなほど
小さかった。
ナビエルは答えない。
ただ、深い青の瞳で
フィオナを見下ろしている。

星の胞子が、
ふたりのあいだを
ゆっくりと落ちていく。

ナビエルが、一歩近づいた。
その動きは、驚くほどしなやかだった。
ほとんど足音もなく、
近づいてくる。
それはまるで、
夜の森へ差しこむ
冷たい月の光のようだった。

フィオナは、思わず見上げた。
こんなに美しい人を、見たことがない。

ナビエルは少し身をかがめ、
フィオナの様子を
観察するように眺めていた。
まっすぐに少女の顔を覗き込む。

その声は、耳の奥深くに響いた。

「君は、なぜここにいる」

フィオナは重いまぶたを、
ほんの少しだけ開いた。
ナビエルはそのまま、
しばらく彼女を見つめていた。

「星ヨミ樹が揺らいでいる。なぜだ」

フィオナは答えられない。
唇が、かすかに震える。
その瞬間、
ナビエルの眉がほんのわずかに動いた。

ナビエルの頭の奥に、
ちくりと違和感が残った。
今までにない、
底深く何かが渦巻くような感覚だった。

星ヨミ樹の観測を、
気が遠くなるほど長い時間つづけてきた。
揺らぎも、変化も、記録してきた。

それなのに、
この少女を目の前にして、
いつもの観測では理解することのできない
何かが胸の奥にひっかかっている。

ナビエルは目を細めた。
星ヨミ樹の根元にうずくまる少女と、
かすかに揺らぐ白銀の葉を、
青い瞳が見比べる。

彼は手を伸ばした。

そして、何の前触れもなく、
フィオナの体をひょいと抱き上げる。

「……え?」

フィオナの体が宙に浮いた。

「ゴミはここに置けない」

その言い方は冷たかった。
けれど抱き上げた腕は驚くほど優しく、
少しも乱暴ではない。
その声は、フィオナに言ったというより、
彼自身に言い聞かせるようだった。

フィオナは、その腕のなかで固まった。
思わず、ナビエルの胸元へ触れる。

――ドクン

鼓動。

フィオナは少しだけ顔を上げる。
ナビエルは、もう前を向いていた。
そのまま、森の奥へ歩き出す。

星の胞子が、ふたりのまわりを舞う。

そのとき。
星ヨミ樹の葉が、かすかに揺れた。

ふわり、
さらさら、
ふわり。

白銀の葉が、ゆっくりと光る。
降りつづけていた星の胞子が、
その一瞬だけ、強く明るさを増した。

まるで、巨大な樹が
何かを感じ取ったかのように。

ナビエルは振り返らない。
フィオナはその腕のなかで、
星ヨミ樹を見上げていた。

巨大な樹は、光りながら、
ふたりを見送っている。

森の闇の奥へ、
小さな少女と、
銀髪の青年の姿は、
ゆっくりと消えていった。

第2話.「星ヨミの残骸場」に続きます。

♪おまけ♪
星ヨミ樹の世界 メインビジュアル

すべてのはじまりは、星ヨミ樹の根元から。

イラスト:minamiayako(南アヤコ)
物語・世界観・設定:Lunavi


全話目次はこちら
【もくじ】

第1話.ゴミの妖精
第2話.星ヨミの残骸場
第3話.二杯のスープ
第4話.観測舎の朝
第5話.時告げ草
第6話.樹が舞った日
第7話.月光と金の瞳
第8話.白銀のしるし
第9話.観測舎の食卓
第10話.歓迎の葉
第11話.薬草庭
第12話.朝の光と白い靴
第13話.眠るまえの物語
第14話.小さな芽吹き
第15話.倉庫の鏡
第16話.星露守り
第17話.推し活、地球
第18話.真夜中のふたり
第19話.星ヨミ樹の世界
第20話.【番外編】吾輩はミロである~水の星からの贈りもの~


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