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110.メリュジーヌ

画像は以下のサイトから転載。

https://www.ancientpages.com/2019/01/02/melusine-charming-water-fairy-in-european-legend-about-taboo-and-broken-promise/


竜の子孫

前回出てきたウェールズの詩人ウォルター・マップ(一一四〇年ごろ~)は、ニューバーグのウィリアムとともにイギリス最古の吸血鬼伝説を記録した人です。

ウォルター・マップ

このマップは、有名なメリュジーヌ伝説の発展にも貢献しました。

https://www.ancientpages.com/2019/01/02/melusine-charming-water-fairy-in-european-legend-about-taboo-and-broken-promise/より転載。新しめのメリュジーヌ。

メリュジーヌはヨーロッパの民間伝承に登場する女の精霊で、通常は人魚のように腰から下がヘビまたは魚になっている姿で描かれます。

このメリュジーヌは、スターバックスのロゴに描かれていることでよく知られています。

https://www.rupertwilloughby.co.uk/wp-content/uploads/Original-Starbucks-logo.jpegより転載

二〇二六年現在はこうです。

https://www.rupertwilloughby.co.uk/wp-content/uploads/Original-Starbucks-logo.jpegより転載

スキタイの地は、かつてドラカイナが支配していました。

このドラカイナも上半身が女で下半身がヘビで、大地の女神でした。

https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/32233より転載

つまりスキタイ人の祖先はドラカイナ、という設定です。

おさらいになりますが、スキタイ人は古代東イラン騎馬遊牧民で、おもに現在のウクライナと南ロシアに相当する地域に住んでいました。いわゆる東ヨーロッパです。

紀元前5世紀頃の黒海周辺諸国

画像左は黒海、右はカスピ海です。この海たちに挟まれたところが、地理的歴史的に超重要なコーカサス山脈です。

アレクサンドロス大王が鉄の門を築いたという伝説があるように、コーカサス山脈は自然の要害で、戦略上の拠点です。実際山脈の北と南ではまったく文化が異なるほどでした。

スキタイ人は、王族スキタイ人と呼ばれる戦士貴族に率いられていました。騎馬戦に最もはやく取り組んだ部族で、戦術が有能だったのでローマも取り上げたほどでした。

古代から紀元後のヨーロッパ地域といえば、白人の蛮族です。ローマ衰退後に主役となりますが、それまでは奴隷として農業をさせられていました。

八世紀ごろに勢力を振るったハザール人は、南ロシアとウクライナに帝国を築きました。

ハザール人は赤毛の白人で、帝国をあげてユダヤ教に改宗した人たちです。

帝国の衰退、滅亡ののち、ハザール人たちは東に逃れました。そしてその後、東欧ユダヤ人、アシュケナージ・ユダヤ人と呼ばれるようになります。

中世ヨーロッパは白人が主役で、かつての白人スキタイ人にも当然、文化や伝説などがありました。

ウィキペディアのビシゴートの項にはこうあります。

スキタイは「ケルト」で、もっと正確にいうとゲールであった。このゲールという言葉は「純粋」や「白さ」を暗示した。ゴートという言葉にはよく似た意味がある。ゴートの一集団はビシゴートとして知られ、その意味は「白い」或いは「賢い」ゴートである。

http://en.wikipedia.org/wiki/Visigoths

ケルト、ゲール、ゴート、白、白、白です。色が白いのは見ればわかる話なのですが、パーシヴァルの息子ローエングリンが白鳥の騎士の異名を取るなど、白さは連中にとって重要なようです。

ドラカイナについては以下で触れています。

話を戻しますが、とりあえず「民族の祖先がドラカイナ(竜)」などという伝説は、わたしたち素人でも「嘘に決まっている」と即断できます。竜や吸血鬼などこの世に存在しないからです。

ですが長く受け継がれてきたからには、なにかしらの意味があるはずです。

一番シンプルな答えは、「かつては竜や吸血鬼が存在した」です。

https://www.independent.co.uk/news/science/scientists-asia-stony-brook-university-new-york-natural-history-museum-b2301329.htmlより転載。あり得ない首の長さ。太ければ支えられるというものではない。
https://www.henspark.com/animals/10-most-famous-dinosaur-fossils-discovered-20130508.htmlより転載。てきとうに組み合わされた骨たち。

陰謀論者はレプティリアン(トカゲ人間)が大好きですが、英国王室(白人)の連中はトカゲ人間だ、いう説はこのあたりから来ています。

トカゲはつまりドラゴンです。竜が祖先だったとしたら、たしかに誇るべきです。

また、トカゲ人間が存在した(する)とすれば、怖いので民衆は従ったはずです。ごく自然な構図です。

貴族と民、王族スキタイ人とふつうのスキタイ人という区別も、トカゲがいたとしたらすんなり納得できます。文字どおりの特別な血族です。

ドラゴンはよくヘビと同一視されます。

ヘビといえば、いうまでもなくあのヘビです。イエスはパリサイ人を「蝮の子孫」と非難しましたが、文字どおりの意味だったのかもしれない、ということです。

リュジニャン家

リュジーヌは、十世紀初頭、フランス西部リュジニャン近郊のポワトゥー地方に起源を持つ名門リュジニャン家の祖先とされています。

リュジニャン家は十一世紀末までには、リュジニャン城を拠点に地域ナンバーワンの小領主として台頭しました。

リュジニャン家は時代を経て、ヨーロッパや「聖地」の複数の公国を支配しました。これにはエルサレム王国、キプロス王国、アルメニア王国が含まれます。

かつてユリウス・クラウディウス家は、有名なラテン語叙事詩『アエネーイス』の執筆をウェルギリウスに依頼しました。

理由は、ユリウス・クラウディウス家を、ローマとトロイの始祖、英雄、神々の子孫として正統化するためです。

お家の箔づけのためにメリュジーヌなどを持ち出すのは、「名家としてのたしなみ」という可能性も考えられます。ユリウス・クラウディウスたちがやっていたのであれば、自分たちもやるべきです。

ただ、トロイの始祖や神々の子孫という設定は理解できますが、メリュジーヌなどの精霊を持ち出すのはいい大人としてどうかという感じです。

ですが先のスキタイ人は、ドラカイナを自分たちの始祖としていました。繰り返しになりますがスキタイ人はケルト(白)、ゲール(白)、ゴート(白)です。

https://www.nbcnews.com/science/science-news/seized-dinosaur-bones-return-mongolia-home-n153291より転載

「恐竜」については、もっと不思議に思うべきです。単にスキタイ人リスペクト、というだけではないかもしれないのです。

もう一つ付け加えると、このような箔づけはほかの貴族たちに向けられたメッセージです。民衆は家畜のようなものなので数に入っていません。

社長に「うちの祖先は竜だった」などといわれたら、とりあえずは「へえーそうなんですか!」と反応するはずです。

陰で「頭おかしくない?」などといくらいっても、民衆は家畜のようなものなので数に入っていません。

リュジニャン家は、イングランドとフランスにおいても大きな影響力を持っていました。

ポワトゥー地方の古都ポワティエは、アリエノール・ダキテーヌの宮廷が置かれた地でもあります。

フレデリック・サンズ画のアリエノール・ダキテーヌ。しっかりと「杯」を持っている。

このアリエノールは、フランス王ルイ七世とイングランド王ヘンリー二世の妻、つまりフランス王妃&イングランド王妃のダブル王妃でもありました。

ダキテーヌは「アキテーヌの」という意味です。有名なクリュニー修道院をこしらえたのは祖先のアキテーヌ公ギヨーム一世でした。

このNoteではおなじみの、ダビデの血統です。

ベリー公のいとも豪華なる時祷書

一部の評論家は、アリエノールがジャン・ダラスのメリュジーヌのモデルだ、と主張しています。

このジャン・ダラスは、『メリュジーヌ物語』を書いた人です。

メリュジーヌ伝説のさまざまな要素は、さまざまな著書たちによって再構築されました。

十二世紀にはウォルター・マップの著書『宮廷人の閑話』、十三世紀には神聖ローマ皇帝オットー四世に献呈されたティルベリーのゲルウァシウスの『Otia imperialia(皇帝の閑暇)』、そしてジャン・ダラスが一三九三年、フランス王シャルル五世の弟ジャン・ド・ベリーに贈った『La Noble Histoire de Lusignan(リュジニャン家の高貴な歴史)』などによってです。

ジャン・ダラスは、ジャン・ド・ベリーの求めに応じ、一三九二年から一三九四年にかけて、『リュジニャン家の高貴な歴史』の一部である『Roman de Melusine』または『Chronique de Melusine』と呼ばれる長い散文ロマンスを書きました。

ダラスはこの作品を、ジャン・ド・ベリーの妹でバル公ロベールの妻マリー・ド・ヴァロワに献呈し、マリーの子供たちの政治教育の一助になることを願っていました。

このジャン・ド・ベリーは、ポワティエの伯爵でした。

ポワティエ伯領は、名前のとおりポワトゥー地方の古都ポワティエを領地としていました。

この伯領は、七七八年にカール大帝によって創設され、アボンという人物が統治を任されました。

カロリング朝時代、ポワトゥー伯という称号を巡って二つのフランク部族が争いました。

「フランク人」は有名ですが、起源がよくわかっていません。フランクという言葉がはじめて史料に登場したのは紀元後三世紀半ばです。

フランクのギレム家は九〇二年、フランクのラヌルフ家に敗れました。ラヌルフ家はポワティエ家の別名でもあります。

負けたギレム家については、重要なので以下をお読みください。

この新たな王朝は有名なポワティエ家になり、最終的な継承者、称号と土地財産を合わせた継承者が、先のアリエノール・ダキテーヌです。

ポワティエ家は、ポワトゥー伯およびアキテーヌ公としてポワトゥー地方を支配していました。繰り返しになりますがダキテーヌは「アキテーヌの」という意味です。

とりあえずアリエノールと結婚すれば、フランスの半分近くを手に入れることができます。ダブル王妃も納得です(ちなみにイングランド王ヘンリー二世はフランス人です)。

ジャン・ド・ベリーは、西洋美術の最初の偉大な収集家、と見なされています。

また一部の歴史家からはゲイだったとも評されています。

https://academic.oup.com/arthistory/article-abstract/24/2/169/7278595?login=false

ジャン・ド・ベリーは著名なパトロンでもあり、最も有名な時祷書『Les Tres Riches Heures du Duc de Berry(ベリー公のいとも豪華なる時祷書)』の作成を依頼したことで知られています。

ベリー公時祷書(1月)

時祷書というのは、キリスト教徒が使う日課書のことです。書には祈祷文や賛歌、暦などの聖務が記されています。

時祷書は数多くありますが、公的なものではなく私的なもので、おのおの趣向を凝らして作成することもありました。

『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』は、中でも傑作として名高く、最も豪華な装飾写本として高い評価を得ている本です。

この書には、ジャン・フラメルなる人物による献辞が記されています。

ジャン・フラメルは、有名な錬金術師ニコラ・フラメルの弟といわれています。

ニコラ・フラメルは賢者の石を製造したといわれている人で、ハリー・ポッターにも登場したようです(未読なので未確認)。

そんなわけで『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』には、もろにアストラルの要素が盛り込まれています。

黄道十二宮と解剖図

また『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』には、ポワトゥーの有名なリュジニャン家の城が描かれています。

この城はジャン・フラメルのお気に入りで、一四一六年に死ぬまで住んでいました。

そして『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』の三月には、城の上を飛ぶ竜メリュジーヌが描かれています。

3月。見つけにくいが右上でさりげなく舞っている。

繰り返しますが時祷書はキリスト教徒が使う日課書のことです。竜を描く必要はないと思われます。

オールバニー

中世の民間伝承によると、ルクセンブルク家とアンジュー家、その子孫のプランタジネット家、フランスのリュジニャン家は、竜の精霊メリュジーヌを祖先としています。

メリュジーヌの伝説は、スコットランドのオールバニーからはじまります。

ブリテン島の元々の住民たち

オールバニー(Albany)、そしてその元となったスコットランド・ゲール語のアルバ(Alba)は、イギリス・スコットランドの雅称です。

ブリテン島の最古の雅称はアルビオン(Albion)です。

これらはラテン語のalbus(白い)を語源とし、みんな大好きアルビノの語源でもあります。

https://daslikes.wordpress.com/2020/03/24/psbattle-a-girl-with-albinism-and-heterochromia-via-r-photoshopbattles/より転載。ついでにオッドアイ。

スキタイ人は伝説的には、ヤペテにルーツを持つ白人です。リュジニャン家が支配していたアルメニアも白人たちの国でした。

ブロワのヘンリーかもしれない「モンマスのジェフリー」による年代記『Historia Regum Britanniae(ブリタニア列王史)』によると、スコットランドの創始者はアルバナクトゥスです。

アルバナクトゥスはブルターニュのブルータスの息子で、トロイの英雄アエネーアスの子孫です。

伝説によると、オールバニーのエリナス王は森で狩りをしているとき、泉のほとりでプレシーヌ(ペルシャ)という名前の美しい妖精に出会いました。

プレシーヌはエリナス王の妻になりたかったので誘いを受けましたが、代わりに眠っているところを絶対に見ないようにと誓いを求めました。

プレシーヌはエリナス王と結婚し、三人の娘をもうけました。長女はメリュジーヌ、次女はメリオール(アルメニア)、末娘はパラティーン(パレスチナ)で、どれも美しいのはいうまでもありません。

エリナスの別の妻とのあいだに生まれた息子マタカスは、継母の幸せに嫉妬し、プレシーヌが娘たちを入浴させていた部屋に父親を押し込みました。

プレシーヌは三人の娘を連れ、南の魔法の島アヴァロンに逃げていきました。

アヴァロンについては以下をお読みください。

ユダヤ教との関連

悲惨な境遇に陥ったメリュジーヌは、父親を「ブルンブリオ」と呼ばれるノーサンバランドの山に閉じ込め、二度と出られないようにしようと考えました。

妹二人に計画を話したところ、母プレシーヌは激怒しました。そして娘たちにそれぞれ異なる運命を宣告しました。

次女のメリオールは、アルメニアの城ですばらしい鷹を飼いつづける罰を受けました。

末娘のパラティーン(パレスチナ)はピレネー山脈のカニグー山でレプラコーンとともに閉じ込められ、勇敢な騎士が救い出すまで父の財宝を守るよう命じられました。

そして長女のメリュジーヌは、毎週土曜日になると腰から下がヘビになるようになりました。

運命の宣告、土曜日、などの要素は、あの人たちを想起させます。

ニューヨークの教授ベッティーナ・ナップほかは、メリュジーヌの土曜の変身は魔女のサバトやユダヤ教の安息日を連想させる、と指摘しています。

ナップはメリュジーヌの沐浴を、ユダヤ教のミクワーと結びつけています。

https://oneclimbs.com/2015/08/07/mikveh-jewish-ritual-immersion-in-water/より転載

このミクワーは、ユダヤ教への改宗時や、月経後の女性に対する清めの儀式として行われます。

また土曜日に変身するということで、土星(サターン)とも関連すると考える学者もいます。

母プレシーヌの呪いによると、メリュジーヌが土曜日に姿を見せないという条件で結婚できる男性を見つければ、偉大な功績を成し遂げる高貴な血筋を産むことになります。

ですが夫と別れた場合、メリュジーヌは永遠に以前の苦しみに戻ることになります。

ダビデの血統、そしてアリエノール・ダキテーヌその人が物語の陰にちらついてきます。

ポワティエにほど近い土地に住むフォレ伯は、子沢山でした。子供の一人レーモンは、伯父のポワティエ伯エムリに見込まれ、館に仕えることになりました。

ある日コロンビエの森で狩りが行われ、エムリとレーモンは大イノシシを追ううちにほかの人たちとはぐれてしまいました。

そしてエムリが星の運行から預言したとおり、レーモンは大イノシシとの格闘中に誤って伯父を殺してしまいます。

茫然自失の状態で森をさまよううち、夜の泉のほとりに立つ美しい貴婦人と出会いました。

https://altema.jp/ff5/meryuzirnuより転載。ヘビが巻きついたファイナルファンタジーVのメリュジーヌ。

美しいので結婚を申し込むと、メリュジーヌは例によって、毎週土曜日には決してプライバシーを侵害しない、という条件で承諾しました。

メリュジーヌは魔法の力を用い、フランス最大の城リュジニャン城を一晩で築きました。

結局レーモンはお約束どおり約束を破ってしまうのですが、そのときメリュジーヌはこういいました。

「ああ、夫よ! わたしは二人の幼子を揺り籠に残します。母を失ったこの子たちを慈しんで見守ってください。さあ、永遠の別れです! ですが知っておいて、あなたもあなたの後継者たちも、新たな領主があらわれるたび、リュジニャンのこの美しい城の上にわたしが舞い降りるのを見ることになるでしょう」

リュジニャン城と竜。

メリュジーヌは竜に変身し、悲鳴を上げて去っていきました。そして二度と姿を見せることはありませんでした。

傷ついたアーサー王も、アヴァロン島に向かったまま姿をくらましました。

イスラエルの失われた十氏族も、やはり行方がわからなくなりました。

いまもどこかにいるかもしれない、という設定は、映画やドラマでも用いられます。想像力を刺激しますし、なにより「やっぱりいた」ということで続編をつくれます。

この手の伝説はただ読んでもおもしろくないのですが、さまざまな要素と合わせて読むとそれなりにおもしろく読めます。

次回は白鳥の騎士です。

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謎の賢人 この記事はリサーチにかなりの時間を費やしています。有料にはしたくないので無料で公開していますが、チップをいただけましたら精神的にも励みになります。