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1520ルーメンの暗い常盤 ①(全⑭話)

あらすじ 


人の頭上に見える【電球】で、性格の明るさが分かる。
そんな力を持つ中学2年生の羽村 優太はねむら ゆうた
しかし本人は、その能力を「なんの役にも立たない」と思っている。

クラス替えの日、明るい電球を持ちながら、暗い雰囲気をまとった少年、常盤 光希ときわ みつきと出会う。
読書をきっかけに距離を縮めていくなかで、常盤が抱える家庭の事情と、それを隠そうとする想いを知っていく。

ある日、優太は常盤の電球の異変に気づく。
点滅。それは、かつて入院中の祖母が、亡くなる直前に見せた「危うい兆し」だった。 

夜の森に入り行方をくらませてしまった常盤。
「なんの役にも立たない」と思っていたその能力で、優太は常盤を救うことになる。
 



 チカ、チカ、チカ……。
 常盤の頭上の電球が、点滅していた。放課後、誰もいない教室。

 目の前には青白い顔の常盤がいる。
 机の横にかかった紙袋を、常盤がぎゅっと握ったせいで、カサッ、という音がした。

 見間違いじゃない。もう一回確認しても、やっぱりそうだ。不規則に明滅するその光を見た瞬間、昔、一度だけ見たことがある光景が頭をよぎった。

 ——どうしよう。
 一体、どうすればいいんだ。

 僕は途方にくれて、常盤の電球をただ見つめていた。
 


羽村優太の能力

 
 今日から通う、新しい教室の前に立って「2ーA」と書いてあるプレートを見上げる。ここが僕のクラスだ。
 中に入ると、すでにクラスメイトが集まってざわついていた。みんな、少しでも知った顔を探して、そわそわした気持ちを落ち着かせようと話しかけている。

 僕は、教室を見渡した。知っている顔と、知らない顔が半々くらい。
 そして、その全員の頭の上に。
 電球。

 色も明るさも、ばらばらの電球。ひと通り見て、僕は小さく息を吐いた。
 ……大丈夫そう。

 そのとき。視界の端に引っかかるものがあった。
 ひとりで真面目な顔をして読書をしている男子。頭上には、オレンジ寄りの明るい光を放つ電球。長めの前髪が顔に影をつくっている。見たことないやつだな。

 そのやけに明るい電球が、なんとなく、気になるやつだった。
  
  

 
 

 僕は、人の頭上に電球が見える。

 物心ついた頃から見えていた。
 最初は、誰にでも見えていると思っていた。だから親にも友達にも、普通に話していた。でも、困った顔をされるか、笑われるだけだった。
「また変なこと言ってる」そんなふうに流されるうちに気づいた。

 これは、僕にしか見えていない。だから今はもう、人前で電球の話はしない。

 この能力について説明してくれる人なんていなかったから、代わりに観察した。人の言動と、電球の明るさを、ずっと見比べてきた。その結果、ひとつの結論に落ち着いた。
 電球の明るさは、「その人の性格を表しているっぽい」と。

 明るい電球の人は、よく笑うしよく喋る。
 暗い電球の人は、静かで落ち着いている。
 もちろん、善悪じゃない。いわゆる、陽キャと陰キャ。そんな感じ。

 でも、結局この能力にたいした意味はない。「本当は暗めの性格なのに、無理して明るく振る舞ってるな」とか。他人のそういうのが、ちょっと分かるだけだ。
 だけど、そんなのは友達の仁だって「佐藤って無理して陽キャぶってるよなー」なんて普通に言っている。電球が見えなくても、誰でもなんとなく分かるみたいだ。

 そう、つまり。
 僕のこの能力、びっくりするくらい役に立たない。

 
 

   
 

 だいたい、こういう“頭の上に何かが見える能力”って、普通は数字とかじゃないのか?
 例えば「これまでにした犯罪の回数」とか。SNSで見たことがある。バレたら困るやつ。あとは、寿命とか。そういうのだったら、人の秘密を握れたり、弱みにつけ込めたりして、もう少し何かの役に立った気がするのに。

 ……なんて、くだらないことを考えていると、声をかけられた。
「優太ー!同じクラスになれてよかったな~」
 聞き慣れた声の方を振り向くと、仁が手を振っている。
「仁!おー、やったなぁー」
 と僕も手を振り返し、仁が座る席の方に歩く。小学校から一緒の仁がいるだけで、少し安心する。それに……

 さっき、自分で「役に立たない」なんて言ったけど。この電球、ひとつだけ役に立つことがある。
 電球の明るさと、その人の振る舞いにズレがないかどうかが分かること。ズレがなければ、その人が無理をしていないということだ。自然体で生きているというか。
 そして、自然体な人が多い空間は、たいてい変な緊張感がない。ピンと張りつめた空気がなくて、なんとなく息がしやすい。

 だから僕は、新しい場所ではいつも電球を確認する。
 白い昼光色。オレンジがかった電球色。明るいもの。少し暗いもの。ひと通り見た感じ、このクラスはたぶん、居心地が悪くはなさそうだと感じていた。

「ねえねえ!」その時、突然、明るい声が割り込んできた。
 顔を上げると、仁の横に、知らない女子が立っている。
「はじめて同じクラスだよね?三小の子たち?わたし佐根!よろしくー!」

 まぶしい。かなり明るい電球を持っている子だ。
 そしてその明るさと、言動や雰囲気がぴったりと一致している。ぱっちりとした目と大きい口という外見までもが、電球の明るさを反映してるみたいだ。
 全方向に広がる光。バキバキの白色。明るさは、たぶん最強クラス。1520ルーメンくらい。
……リビングで大活躍しそうな電球だ。知らんけど。

 思わず、目を細めそうになる。明るすぎる電球は、夜道でいきなり出会うコンビニみたいに、まぶしすぎて目が痛い。
 実は僕、こういうタイプが少し苦手だ。なんで明るい電球の人って、こうもグイグイ来るんだろう。たぶんこれは、生まれつきだけじゃない。明るくて積極的だと褒められる。その経験の積み重ね。
 ……まあ、そういうもんなのかもしれないけど。

「うん、俺たち三小出身。俺は水野 仁。こっちは小学校から仲いい、優太」
「羽村 優太です。よろしく、佐根さん。(電球は、オレンジ寄りで中くらいの明るさ)」

 とにかく平和に生きる、がモットーの僕は、心の中でだけ自分の電球の情報を付け足しつつ、普通に返した。

「おっけーおっけー! あとでクラスLIME作ろうねー!」
 と、そう言い残して佐根さんは自分の席に戻っていった。

「元気なやつ~。クラスにひとりいると助かるタイプだよね」
 すっかり佐根さんを気に入った様子の仁を横目に、僕は思う。
 明るい電球を持つ、明るいやつ。だいたい、こういうのがクラスの中心になる。
 いわゆる、一軍。……まあ予想通りだ。

 そういえば、と、さっきのやつのことを思い出す。あの、やけに明るい電球のやつ。あいつもきっと佐根さんと同じグループに属するのだろう。似た明るさの電球の人間は群れやすい。
 もう一度そっちを見ると、変わらない体勢で本を読んでいる。教室のざわつきにも、ほとんど反応せず無表情。

 ふと、そいつの電球が一瞬チラついた気がした。何かを思い出しそうな気がして、慌てて目を擦り、もう一度確認する。

 最初に見た通りの、オレンジの電球だ。やっぱりとても明るい。
 あまり会った事ない、変わったタイプだなーと、気になりつつも「はーい、席についてくださーい」と担任の先生が教室に入ってきて、僕の思考はそこで途切れた。 




 
 

『お前、楽屋ではすごい無口のくせになー!』
『そんなことないです、楽屋で口閉じたことないですもん』
『嘘つけ、カバンに必ずお菓子と10冊くらい本入れてるくせに』
『読書めっちゃ進みます楽屋。口閉じないのはお菓子食べながら読むからでした』
 わはははは…

 テレビからバラエティ番組の声が流れている。楽屋では無口だとか言われてる芸人さんの頭の上には、暗めの電球がちゃんと見えている。本当のことを言っているのだろう、その会話に少し好感がもてた。

 そのテレビに向かう位置にあるリビングのソファに、正子おばさんが座っていた。
「あ、おばさん!きてたのー」
「お邪魔してるよ、優太」

 お父さんの姉である正子おばさんは、隣の市に家族3人で住んでいる。うちの柴犬のマメと、かわいい甥の僕に、あとついでに僕のお姉に会いに、たまに我が家に顔を出す。

「今日から中学2年生ね。進級おめでとう。はい、進級祝い!」
「わお、お小遣い!おばさんありがとう!」

 柴犬のイラストが描かれたかわいいポチ袋を渡される。いつもすみません~というお母さんの声が奥から聞こえてきた。

「どう、新しいクラスは?」
「あー仁とも同じクラスになれたし? なんとなく良さそうなクラスだよ」
「ああ、一致している人が多い、ってやつ?」
「うん、そうそう」

 正子おばさんは、たったひとり、僕の電球の話を信じてくれている人だ。
小さい頃、電球の話を誰も信じてくれず、自分にしか見えていないと分かって、ひとりぼっちみたいな気持ちになっていたとき、正子おばさんだけは、
「その電球はどんなものなの? わたしの頭の上にも見えてるの?」と、馬鹿にせず話を聞いてくれた。

「この芸人は、本当は暗い電球なのに無理してテンション高い芸風をやっている」
「この芸人は、正真正銘の明るい電球。明るさと芸風がピッタリ一致している」
 そんな僕の芸人暴露話も、
「あの超ハイテンションな人が実は暗いなんてビックリだわ。プロ根性ね」とか、「じゃあこの人が楽屋でもプライベートでも1秒も黙らない、なんて言われているのも信ぴょう性があるのね」なんて言って、本当に楽しそうに聞いてくれる。

 だから、人には話さなくなった電球の話も、唯一、正子おばさんの前でだけは封印を解いている。本当に信じてくれているのか、ただ話を合わせてくれているだけなのかは分からない。でも、僕が正子おばさんに救われているのは確かだった。
 そんな正子おばさんの頭の上には、ピカピカの明るい電球がある。

「新しいクラスに、気になる子はいない? あ、好みのタイプって意味じゃなくてね~!」
 ニヤニヤしながら、正子おばさんが言う。
「おばさんがいつも言ってるやつでしょ? だから、いないって。見たことないよ、そんなタイプ」

 電球の話を信じてくれる正子おばさんに、僕はこれまで、電球の意味について逐一報告してきた。きっと電球の明るさは性格を表していて、明るさと言動が一致している人は、自然体で生きている……そんなふうに。

 正子おばさんは、それを疑う様子もなく聞いてくれて、「本当に便利な能力だよね、羨ましいよ」と言った。
 信じてくれるだけでもありがたいのに。正子おばさんは、僕が数学が苦手だとか、声が大きいとか、そういう特徴のひとつみたいに、この能力の話を受け止めてくれる。

 たぶん、正子おばさんの仕事柄なんだと思う。
 正子おばさんは、スクールソーシャルワーカーという仕事をしている。小学校や中学校で、先生やスクールカウンセラーと協力して、いじめや不登校など、いろんな問題に関わっているらしい。福祉につなげる、とか言っていた。

「そういう能力があればさ、あの子は無理して明るく振る舞ってるな、とか。この子は自然体で過ごせていていいな、とか分かって便利だよね」
 前にそう言われたとき、ああ、なんの役にも立たないと思っていたこの能力も、立場によっては役に立つのかもしれないな、と思った。

 そんな正子おばさんが、いつも「もしもこういうタイプがいたら、ちょっと気になる」と言うのが、【明るい電球なのに、暗い雰囲気の子】だ。

 これまで僕が見てきた電球と言動のズレは、ほとんどが「本来より明るく振る舞っている」パターンだった。
 元気が一番という空気とか、周りに合わせるために、無理して明るくしている子。そりゃ疲れるよね、と思う。たまに素に戻っている瞬間を見ると、そのままでいいのに、と心の中で偉そうにつぶやくだけだけど。

「そうかぁ。いないか。ま、そういう子がいないに越したことはないからね!」
 正子おばさんは、少しほっとしたように言った。

 クラス替えのたびに、正子おばさんはお小遣いを渡しに来るついでに、その「気になるタイプの子」を僕が見つけていないか、確かめに来ている。
 それを知っているから、僕も少し気にするようになっていた。もし見つけたとしても、どうするのかなんて分からないけど。

「ただいまー。あ、正子おばさんだ。こんにちは」
 とお姉が帰ってきた声がした。正子おばさんが、お姉にもお小遣いを渡しにいく。

 うちは、お父さんと柴犬のマメが白くて明るい電球。お母さんとお姉と僕が、オレンジ寄りの中くらいの明るさ。おばさんも含め、皆、明るさと言動の不一致はない。自然体で過ごせる、快適な我が家だ。
 ワンワンワン!とおばさんに構って貰えてうれションでもしそうなマメの声が聞こえる。
 
 正子おばさんの言う「ちょっと気になる子」に、出会うことなんてきっと無いだろう。僕は、この時まで呑気にそう思っていた。

 

  


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