1520ルーメンの暗い常盤 ⑭終
エピローグ
「シャイニング・ソウル……はどうだ」
「くそダサいな」
「え、自信あったんだけど。じゃあ、トゥルー・マイ・ライト、では?」
「なんか、そのままだな」
「文句ばっか言うなよな。じゃあルーメン・ハートは?」
「いいんじゃねぇ、かわいくて」
「じゃあ、能力名はルーメン・ハート!で」
「でも、バトル中に能力名を叫んで技を出すのは、確かによく見るけど。いつ言うんだ、ルーメン・ハートって」
「まぁ、技を出すときだよ」
「はは、そんな時、ねーよ」
佐根さんと仁を待つ間、早く駅に着きすぎた僕と常盤は、電球の能力名決めをしていた。渾身の案を出してるのは僕だけだし、確かに言う機会なんて無いんだけど。
結局、こないだの移動教室に常盤は参加できなかった。
だから、「あなたのお名前なんてーの巡り」だけでも、週末使って行ってみない?と佐根さんが言い出してくれて、今日は4人だけでリベンジ旅行を決行することになった。
上諏訪駅までは、在来線と特急で2時間半。朝7時過ぎに出発して、諏訪湖が見える公園に行って、観光して、お土産を買って帰る予定だ。帰りは夜になるので、僕のお母さんが車でみんなを家に送ってくれる。
「遅いね、仁たち」
「電車、7時9分だから全然大丈夫だろ」
「常盤、今日お母さんは?」
「今日は、父さんが帰ってきてるし、最近は落ち着いてる」
そうなんだね、と言って、僕は、常盤の電球をそっと見る。
今日は、しっかりした光を放っている。
あれから、常盤の電球の点滅は、すぐ完全に戻ったわけじゃなかった。しばらくは、不安定に揺らいでいる状態が続いていた。
でも、生活が落ち着いていくにつれて、前みたいに、しっかりした光に戻ってきた。
それでも僕は、常盤の電球を毎回確認してしまう。
——あの日。
僕と常盤が山の入り口まで戻った頃、ちょうど僕の家族と正子おばさん、それから警察が駆けつけてきた。
常盤が山に入ったのを知っていたのは正子おばさんだけだったから、
「喧嘩して、心配させようとして少し隠れていただけ」みたいな説明にしてもらい、厳重注意だけで済んだ。
あれから、正子おばさんが色々動いてくれた。
学校にも行政にもすぐに話がいったらしく、常盤の家には、保健師さんが定期的に来てくれるようになり、困ったことがないか相談に乗ってくれたりするらしい。
お父さんも、帰ってこられる頻度を増やしたみたいだ。
正子おばさんには、「お母さんが不安定で、しかも二人暮らしって分かった時点で、大人に相談しなさい」と、だいぶ叱られた。やっぱり、助けが必要な状況だったらしい。だけど「まぁ結果的に、いい方向にいって良かったけどね」と言っていた。
常盤が恐れていた、
「家のことが知れ渡る」なんてことは起きなかった。
常盤が決めつけていた、
「誰も助けてくれない」なんてこともなかった。みんな、常盤の家をなんとかしようと動いていた。きっと、前よりは少しずつ良い方向に向かっている。
「あ、きたきた」
常盤がそう言ったので目線を向けると、おーい、と手を振りながら、仁と佐根さんがこっちへ向かってきていた。
「遅いぞー! じゃあ、行こう」
僕らが改札へ向かおうとしたとき、常盤が少し改まった感じで言った。
「みんな、今日……ありがとうな。わざわざ計画してくれて」
「え、全然。っていうか、僕も本当にもう1回行きたかったし」
「意外と日帰りで行ける距離だよな」
「あたしトランプ持ってきた!特急乗ったらやろう」
みんなで「どういたしまして」を返すと、
「あ、俺も、夏休みに読んだ怪談の本。持ってきた」
と常盤が言って、本を取り出した。
「うわ、やめろ!」 仁がギャーッと言いながら改札へ走っていく。
そんな仁を見て、ははは、と大きな口で常盤が笑った。
うん。やっぱり常盤って1520ルーメンだ。
僕らも笑いながら追いかける。7時9分の電車に遅れないよう、急いで改札を通った。
今日も、とても平和だ。
end
1520ルーメンの暗い常盤 ③話目
常盤の朗読部分は、以下作品より引用
『新装版 銀河鉄道の夜』P18
原作 宮沢賢治
影絵、文 藤城清治
講談社
