1520ルーメンの暗い常盤 ②
明るくて暗い常盤光希
「【明るい電球なのに、暗い雰囲気の子】なんて、いないって。見たことないよ、そんなタイプ」
なんて、あの時は正子おばさんに言ったけど……。おばさん、僕、見つけてしまったかもしれない。
常盤 光希。
新学期の新しいクラスで、明るい電球だな~と思ったあいつ。僕の予想を破り、クラスの一軍入りはせず、あれ以来もひとりでずっと読書をしている。
佐根さんが、「クラスLIMEつくるから常盤くんもIDおしえてよ~!」と話しかけてた時も「俺LIMEやってないから」なんて無表情で答えて、まわりを凍りつかせていた。
おいおい。せっかく計画してくれてるんだから「ごめん、親が厳しくて連絡アプリは入れてないんだ」とか、もうちょっと言い方あるだろ。どうするんだ、この空気。
僕の心配もよそに「じゃあ仕方ないよね~」とあっさり引く佐根さんも、なかなかの強者だけど。
新学期、とりあえず出席番号順の席に座る。
な行の苗字の人がクラスにいなかったので、は行の最初の僕、羽村優太は結果的に常盤の隣の席になっていた。
僕はそもそも、電球と言動のズレがある人間には、積極的には近づかないようにしている。だけど、僕が知ってる“ズレ”と、常盤は真逆だ。だからどうしても、気になってしまう。
暗い電球なのに、無理して明るく振る舞うやつ。そういうタイプは、たくさん見てきた。「元気にあいさつしましょう!」なんて学校から言われる生活では仕方ないことだ。
でも、逆のタイプは今まで、ひとりも見たことが無かった。一体なぜなんだろう。暗く振る舞うメリットとは?
「クールぶってかっこつけたいんだろう」以外の理由が思いつかない。
——知りたい。とても気になる。
正子おばさんの大人の懸念を言い訳に、僕は常盤をさりげなく観察しはじめた。
観察を始めてすぐに、常盤は暗く振る舞っているわけではなく、本当に暗いのだろうと思った。
なんせ、人との壁がすごい。近くでみんながワイワイ話していても、まったく会話に入ろうとしない。人見知りっていうより、自分で壁を作ってる感じだ。新学期に積極的に友達を作ろうとしない行為は僕には理解できない。見てるだけでハラハラしてしまう。
一度、配られたプリントを見ながら「新学期って持ち物多くて面倒だよな」と、それとなく話を振ってみたけど、常盤はチラリとこちらに視線を向けて「ああ」とだけ言った。
なんだ?!『ああ』って。話を広げるつもりゼロ。『ああ』なんてカッコつけた返事、僕はしたことないぞ。感じ悪いやつ!
おばさんの言う「気になる子」を、僕も気にかけられたらいいと思うけれど。できれば、友達になれたらいいんだろうけど。
でもおばさん……ごめん。僕はこいつとは絶対に仲良くなれない気がする。
読書週間(強制的に読書の時間を設ける、地獄の制度だ!)でもないのに、常に本を読んでいるところも、なんか気取ってて鼻につく。
しかも「村上春樹」とか読んでるし?
……無理だ。絶対、話が合わない。決して僕が難しい文章を読めない僻みではない。
こいつとは、適度に距離を取って過ごそう。
そう思っていたのに。
☆
「クラスから各委員を1~2名ずつ選出しないとなので、立候補募りますっ! はい、じゃあ体育委員やりたい人?!」
4月中旬、学活の時間。
新しいクラスになって2週間が過ぎたころ。委員や係を決めなければならない時期だった。
昨日の立候補でこのクラスの学級委員になった佐根さんが、黒板の前で委員会の種類を書き出している。
学級委員に迷いなく立候補できる佐根さんみたいな人は、本当にえらいよなぁ……と、委員会なんてやる気のない僕はぼんやり考えていた。
「図書委員、常盤くんと羽村くんのふたりでやりなよ~。わたしが推薦します」
「えっ?!」
突然名前を呼ばれて、思わず大きい声が出た。なかなか決まらない図書委員を、押し付けられそうになっている。
「いや羽村、声おっき……。常盤くんはいつも本読んでるし、本好きなんでしょ? 羽村くんは常盤くんと仲良くなれそうだし、いいんじゃない?」
なんて横暴な学級委員だ。これだから明るい電球のやつは。こっちは家に帰ってだらだらする時間を1秒でも失いたくないんだ。というか、“仲良くなれそう”ってなんなんだ。
どう断ろうか考えている間に、
「立候補がない場合は話し合いですよね。押し付けられるのは嫌なんですが」
隣で常盤が佐根さんに反論していた。ちゃんと学級会らしく敬語で発言していてえらい。
「だから話し合いで決めようと、2人を推薦してるんだよ~。常盤くん、図書室よく利用するでしょ? 図書委員になると、新しく入ってきた本も優先的に借りられるんじゃない? 書架整理してたら、本のラインナップを把握できたりね」
「……そうなんだ」
あっさり説得されそうになっている。見かけによらず、なんてチョロいんだ。本のことになると、そうなのかもしれない。
しかし図書委員なんて、押し付けられてなるものかとなんとか反論を試みる。
「僕は、委員会じゃなくて係を受け持とうと思います! やりたいやつがあるので! 本とか好きな方じゃないし……!」
「ん? さっき常盤くんと本の話しで盛り上がってなかった?」
——さっきの休み時間。常盤が読んでいた本に、僕は思わず反応してしまった。
常盤が読んでいたのは、漫画「ブルーダークの冒険」のスピンオフとして出版された小説だった。オリジナルキャラも結構いい味を出していて面白い、と評判で、前から気になっていたやつ。
ブルーダークの冒険が大好きな僕は、ついうっかり、前のめりになって話しかけてしまった。
「常盤もブルーダーク好きなの? そのスピンオフ、おもろい!?」
「……漫画の方は読んだことないけど、この本は面白いよ」
「うっそだろ。漫画読まずにスピンオフ小説に手を出すって邪道すぎない?」
「この作者の前作が面白くて。それで読み始めたんだ。漫画は知らんけど、ハラハラして面白い」
「いやいや、漫画の方をまず読んでくれ!」
「漫画はあまり読まなくて……」
「貸す! 貸すから!」
——と、常盤にブルーダークの冒険の布教活動をしていたところを、たぶん佐根さんに見られていたんだろう。
「で、羽村くんがやりたい係って一体なんなの?」
「ええとぉ……」
とっさに出た嘘なので、係の名前が出てこない。そんな僕にたたみかけるように、佐根さんが言う。
「羽村くんはさぁ、自己紹介で『とにかく平和に生きるがモットーです!』とか言ってたじゃない? 決まりにくい図書委員がさっと決まれば、この委員決め、かなり平和的に終わるんだよね。助かるんだけどなぁ~!」
というわけで、本のことになると判断がゆるくなるらしい常盤と、クラス運営のセンスばっちりな佐根さんに丸め込まれ、僕と常盤は図書委員に決定してしまった。
……よりによって常盤とふたりでなんて。
僕は10月まで続く委員会活動を思うと、一気に憂鬱な気分になった。
