AI革命で空前の好景気 台湾・韓国の半導体セクター(1)
【連載】アジア株投資の最前線 第7回
東京海上アセットマネジメント
エマージング運用部長 秋澤 宏典
昨今の株式市場を動かしているドライバーの一つが「AI(人工知能)」です。多くの方が「チャットGPT」や「ジェミニ」「クロード」といった生成AIサービスを日常的に利用していると思います。また、生成AIの基盤となる半導体を供給している、米国のエヌビディア(NVIDIA)の名前を聞いたことがない方はいないでしょう。実は、エヌビディアをはじめとする米国の半導体メーカーの多くは回路設計に特化しており、実際の製造は主に台湾で行われています。今回はAIブームがアジア株式市場に与える影響と、アジアに築かれた半導体サプライチェーンについて見たいと思います。
(カバー画像提供、illustAC)
アジアに構築
半導体サプライチェーン
半導体は米国で発明・実用化されましたが、日本をはじめとするアジア企業の技術進歩もあり、インテルなどを除いて半導体の設計と製造を分離。米国企業は主に半導体の設計に特化していきました(俗に言うファブレス企業の誕生)。また、DRAMやNANDと呼ばれる半導体メモリーも、日本、韓国、台湾ひいては中国で作られるようになっていきました。
アジアの中でも半導体製造で当初先行したのは日本企業でしたが、その後は韓国企業や台湾企業に技術的にキャッチアップされ、徐々に追い抜かれていきました。その過程で存在感を高めていったのが、ファウンドリーと呼ばれる台湾の台湾積体電路製造(TSMC)や、半導体メモリーで高いシェアを誇る韓国のサムスン電子、SKハイニックスなどです。
現在は中国でも関連企業が次々と誕生していますが、米国が課す規制によって、先端半導体および先進国各国が提供する半導体製造装置へのアクセスが禁止されている事を背景に、華為技術(ファーウェイ)を中心に中国独自の進化を見せ始めています。
先端半導体
製造基地は台湾
人口2300万人と小規模ながら、TSMCをはじめとする半導体メーカーが数多く存在しており、半導体産業の集積地として知られます。TSMCは先端半導体の製造において独占的な地位を築いており、エヌビディアの半導体のほとんどが台湾にあるTSMCの工場で作られています。
歴史的な経緯もあって中国とは政治的に微妙な距離感を保っているものの、経済的な結び付きは強く、台湾の輸出先は長年中国が首位の座にありました。親日地域としても知られ、台北市内には数多くの日系飲食店が軒を連ねています。

鴻海精密工業
スマホからAIサーバー、そしてEV製造へ
7月に台湾を訪問し、複数の企業を取材してきました。その中でも日本とのつながりが深い鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)について紹介します。
同社は海外ではフォックスコン(Foxconn)という名前でビジネス展開しており、こちらの名前を聞いたことがある読者の方も多いかもしれません。電子部品の製造や最終製品の組み立てを請け負うEMSビジネスを手掛け、PCやアイフォーン(iPhone)の生産(主に組み立て)を引き受ける事で大きく成長してきた企業です。
もともと製造能力の多くは中国国内にありましたが、2010年代後半にはアップルの要請を受けてインドでの生産能力を拡大させました。20年代に入ると、AIサーバーの組み立てにも参入するなど、事業領域を徐々に拡大させています。26年後半からは電気自動車(EV)事業での売上高が計上され始める見込みとなっています。
16年には経営難に陥ったシャープを買収し、構造改革を進めました。EV事業では三菱自動車とも提携しています。
同社のEV事業は、台湾の裕隆汽車(ユーロンモーター)も共同出資する鴻華先進科技股份(フォックストロン)が主導しています。三菱自動車は、フォックストロン開発の小型スポーツタイプ多目的車(SUV)のEV「Model B」をベースにした車を、26年後半にオセアニア地域(オーストラリア・ニュージーランド)向けに投入する予定です。
三菱ふそうトラック・バスやポーランドのエレクトロモビリティー・ポーランド(EMP)との提携も決定しており、EV事業は20年代後半から30年代にかけて同社の業績をけん引するドライバーになると期待できそうです。

半導体メモリー
韓国が製造拠点
人口は5200万人程度と日本の半分弱の規模の韓国ですが、半導体メモリーの一大製造拠点として注目が高まっています。サムスン電子とSKハイニックスの2社だけで、全世界のDRAM生産の約7割、NAND生産の4~5割を占めています。特に最近需要が急拡大を見せている最先端のAI需要用途の広帯域メモリー(HBM)では、韓国2社で8割前後という圧倒的な世界シェアを誇ります。

韓国は半導体産業以外にも自動車産業(現代自動車や起亜)や造船産業が盛んで、日本同様に幅広い産業を抱える国でもあります。品質と比して割安な化粧品や、K―POPをはじめとするエンターテインメント産業でも近年は世界的な成功を収め始めています。
ソニー・ピクチャーズ・アニメーションが製作したアニメ映画「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」は韓国のクリエーターや俳優を多く起用した事で知られ、ネットフリックス史上首位の視聴数を獲得しました。映画の主題歌「Golden」はK―POP曲としてグラミー賞「最優秀映像メディア楽曲賞(Best Song Written for Visual Media)」を初めて受賞するなど、大ヒットを記録しました。

両国・地域の実質GDP成長率の推移を見たものが下記グラフです。経済成長率は共に前年比2~3%程度で推移していましたが、ここにきて少し差が広がっているように映ります。これは産業構成の違いからくるもので、半導体産業への依存度の高い台湾の方が、見た目の恩恵が大きく出る結果となっています。

AIサービス浸透がけん引
半導体需要
AIサービスは果たしてどのように動いているのでしょうか。
ユーザーが打ち込んだ質問や依頼をコンピューターが計算できる形式(数字データ)に変換してユーザーの意図を把握し、回答を予測しながら同時並行で出力形式の調整を実施して回答する、といったプロセスを「バックグラウンドで実行」しています。スマートフォン上のアプリなどはその情報をやり取りするツールに過ぎませんので、PCやスマホのスペックに回答時間などが影響を受ける事はほとんどありません。
ここで言う「バックグラウンドで実行」とは、インターネットでつながれたAIサービス企業の「サーバー」で複雑な計算や情報処理を実行している事を意味しています。「サーバー」とは高性能な画像処理装置(GPU)を備えた強力なコンピューターであり、エヌビディアのGPUをはじめとした高性能な半導体がフル稼働して計算しています。
AIサービス企業は右肩上がりの需要に応えるため、大量のAIサーバーを備えて計算能力のキャパシティーを増強し続ける必要が有ります。毎年多額の投資を実行、エヌビディアのGPUや韓国メーカーの製造する半導体メモリーを調達し続けています。結果としてエヌビディアはもちろんのこと、その半導体を製造するTSMC、半導体メモリーを製造する韓国2社の業績は右肩上がりの拡大が続いています。

会社発表値を基に東京海上アセットマネジメント作成
中国AIサービス企業
企業向けのシェア上昇
日本のBtoC(消費者向け)市場では、米国製AIサービスのシェアが高い状態ですが、BtoB(企業向け)市場では中国製AIサービスのシェアがじわりと上昇しています。背景にあるのはトークン単価の圧倒的な違いです。トークンとはAIサービスを使用した際の出力の単位であり、AIサービスを利用すれば利用するほど、トークンの使用量も増える事となります。
AIサービスの料金体系はトークン使用量に応じた従量課金制に移行しつつあり、AIサービスの利用頻度が高まるほど、企業がAIサービスプロバイダーに支払う使用料金が増える構図となっています。近年は使用量の急増に伴うAI利用費の増加を受けて、多くの企業がトークン使用量を制限するという動きに出ています。
昨年はDeepSeek(ディープシーク)が彗星のごとく現れ、中国AIサービスに対する注目が高まりました。その後も阿里巴巴集団(アリババグループ)の「千問(Qwen)」など、日本語性能が高いとされるモデルを中心に日本国内でも一定のシェアを獲得していきました。
今年6月には北京智譜華章科技(Knowledge Atlas Technology、通称Z.AI)が展開する大規模言語モデル(LLM)の最新版「GLM-5.2」が、米国AIサービス各社の最新モデルと遜色のないパフォーマンスを計測したとして、大きな話題を呼びました。
7月には、騰訊控股(テンセント)がアップデート版を発表した「Hy3」というAIモデルが、トークン使用量が少ない上に単価も安い事で話題となりました。さらに月之暗面科技(ムーンショットAI)が出したLLM「Kimi K3」は米国製最新AIサービスの性能を凌駕する場面が見られるなど業界内外に衝撃を与えました。阿里巴巴も「千問」最新版プレビューを公開し、性能が世界最先端クラスであると示唆されています。
中国製モデルは米国製モデルよりもはるかに安い価格で利用が可能で、米国AIサービス各社のシェアが脅かされるのではないか、投資の勢いが衰えるのではないかといった懸念が株式市場に台頭する結果を招きました。

AI関連の代表格と見なされている米国半導体セクターを代表する、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)やアジア情報技術セクターの株価、韓国株式市場、台湾株式市場はおおむね同様に推移してきましたが、中国AIサービスの台頭を受け、6月中旬以降は調整を見せています。

AIの性能は凄まじいペースで進歩を遂げており、米中間の技術競争も激しさを増しています。今後もイタチごっこで競争が続くと思いますが、中国勢の性能がとうとう米国勢に追い付いたと言えるような水準まで肉薄したと言えることは特筆に値します。トークン使用量の世界シェアでは、中国製AIが米国製AIをすでに上回っていると指摘する分析もあり、今後もこの領域からは目が離せません。
秋澤 宏典(あきざわ・ひろのり)
東京海上アセットマネジメント株式会社
エマージング運用部長
東京大学工学部卒、同大学院経済学研究科修了。大和総研を経て2008年に東京海上アセットマネジメント㈱入社。株式運用部にて企業調査/株式運用のキャリアを歩む。ITセクターに明るい。21年から25年までシンガポール駐在、東京海上アセットマネジメント・インターナショナルCIO。26年7月より現職。

企業概要
東京海上グループの中核資産運用会社として、主に個人投資家の顧客を対象とした「投資信託業」と機関投資家の顧客を対象とした「投資顧問業」を展開。運用資産残高は約9.6兆円(2026年3月末現在)。
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