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インド経済は希望の星(上) 自動車セクター株価が絶好調

【連載】アジア株投資の最前線 第3回(上)

東京海上アセットマネジメント・インターナショナル
CIO 秋澤 宏典

今回は人口、経済規模とも成長を続けるインドの「今」を、上・下編と番外編の3本立てでレポートします。(上)では自動車やIT分野を中心に製造業の最新状況と株価の推移をチェック。(下)は米アップル社の iPhone生産の事例を見ながら、インド経済の状況を解説します。番外編では私のインド出張の裏話もご紹介します。

<記事リンク>
インド経済は希望の星(下) iPhone生産が脱中国で爆増 
インド経済は希望の星(番外編) 食べる・泊まるならココ!


まずは、消費市場としても製造拠点としても存在感を増しつつある自動車産業を見てみましょう。インドの自動車販売台数は2024年度(24年4月~25年3月)に乗用車で430万台、商用車で96万台を記録しました。中国、米国に次ぐ世界第3位の市場ですが、世帯普及率はまだ1割程度。伸び代が大きいといえます。

勢いを増すマヒンドラ&マヒンドラ社

完成車(四輪)メーカーで最も有名なのは、やはりマルチ・スズキ(Maruti Suzuki)社です。言わずと知れた日本のスズキのグループ会社で、スズキが約6割の株式を保有しています。インドの乗用車販売に占める販売シェアは約4割と、業界首位を誇ります。
 
マルチ社もスズキ同様に小型車のラインナップが豊富で、小型車市場だと6割前後のシェアを保有しています。インドでは小型車の方が税制上は有利なため、かつては小型車に需要が集中していましたが、近年はスポーツタイプ多目的車(SUV)の人気が高く、中型・大型車への需要シフトが見られています。

日本語・英語・ヒンディー語の3言語でお出迎え。手前は新型車フロンクス。
ニューデリーのマルチ・スズキ本社にて筆者撮影

次いで現代自動車タタ・モーターズ。それぞれ販売シェアで10%台前半~半ばの二番手集団に位置しています。

マヒンドラ&マヒンドラ(M&M)社はインドの地場メーカーで、売れ行きが好調なSUVに特化しています。かつては業界4番手の立ち位置でしたが、好調なSUV販売や電気自動車(EV)モデル投入によって二番手集団に食い込む形となり、25年度は頭一つ抜け出しそうな販売の勢いを持続しています。
 
最近では4月に商用車を手掛けるSMLいすゞ社(住友商事といすゞ自動車が保有)の株式取得を発表しました。同社はトラクターが強く、インド国内トラクター販売シェア4割超と業界首位の座に座ります。
 
EVも尖ったデザインでひと際目を引きます。下写真の電動SUV「BE6」の販売価格は189万ルピー(約320万円)からと比較的リーズナブルで、コストパフォーマンスの良さが売りだといえそうです。

マヒンドラ&マヒンドラ社の電動SUV「BE6」。
ムンバイのマヒンドラ・タワーにて筆者撮影

マザーソングループも存在感

EV販売を増やすため税制優遇措置が取られており、特にガソリンエンジンだと税率が高い大型SUV(州で異なり43~48%、平均45%程度)を中心にEV車への需要・関心が高い状況が続いてきました。

インド四輪市場の新車販売に占めるEV販売比率は、24年度時点では2%程度に留まりますが、徐々に増えてきているのは事実です。既に米テスラや比亜迪(BYD)も参入を果たし、販売台数が徐々に拡大すると期待される一方、輸入関税の影響もあり、販売は苦戦しているようです。
 
引き続きガソリン車が半数超を占めているものの、ここ数年は圧縮天然ガス(CNG)車の販売が伸びていました。また新車販売に占めるSUV車の販売比率は既に半数超となっています。最近では多人数乗車のニーズが高まっており、3列シート車の投入を計画するメーカーも増えてきているようです。

自動車部品メーカーでは、マザーソングループが存在感を強めています。インドを代表する自動車部品サプライヤーとして、日本企業をはじめ数多くの企業を買収する形で成長してきました。

23年8月には日本の美里工業(自動車照明大手である市光工業のミラー事業)を傘下に収め、24年3月にはホンダ系八千代工業のモジュール・ポリマー製品事業(燃料タンク・サンルーフシステムなど)を取得しています。
 
今後もアツミテック、ユタカ技研が傘下に加わる予定(株式公開買い付け=TOBの実施を表明し賛同を得ている)である事に加え、経営破綻に陥っているマレリ社(旧カルソニックカンセイ)の買収にも乗り出していました。それ以外にも住友電気工業グループの住友電装社とのジョイントベンチャー(JV)企業、マザーソン・スミ・ワイヤリング・インディアで、インド国内向けを中心としたワイヤハーネス事業を手掛けています。
 
25年9月には、次期5カ年計画「Vision 2030」を発表。2030年度のグループ売上高と使用資本利益率(ROCE)目標を、1080億ドル(約17兆円)と40%に設定しました。2025年度売上高は257億ドル(約4兆円)。自動車部門と非自動車部門の両方で多角化を進め、買収も積極的に活用する方針です。

売上高の年平均成長率(CAGR)は33%という野心的な目標ですが、売上高増加のうち最大75%は自動車業界における買収です。ROCEも25年3月期の18%から30年3月期には40%に引き上げることを目指します。こちらも野心的な目標と言えそうです。
 
過去5カ年は、中国とインドの拡大がドライバーでした。中国では新エネルギー車(NEV)メーカー上位10社のうち、7社との取引実績があり、長安汽車、奇瑞汽車、東風汽車、上海汽車、吉利汽車、小米科技(シャオミ)などが主要顧客となっているようです。

「現地生産・現地調達」をグローバル戦略の柱に掲げており、主要市場内では調達、製造、流通が完結させています。米国の関税の影響も少なく、特定分野への依存が少ないことも特徴的です。

ムンバイ市内のホテルで開催された機関投資家向け「5カ年計画説明会」会場にて筆者撮影

国を挙げて半導体産業を強化

インドは現在「メーク・イン・インディア(インドでつくろう)」の名の下に、製造業を強化しています。雇用対策という側面もありますが、産業育成という形でインド経済の発展に寄与するものだといえそうです。

IT産業はインドの主要産業の一つですが、これまではITサービスが中心でしたが、近年では電子部品製造や、電子機器の受託製造サービス(EMS産業)などのIT製造業や、半導体産業を育成・強化しようとさまざまな政策や補助金が講じられています。

25年9月上旬にデリーで開催された、半導体産業の展示会「セミコン・インディア2025」を視察しました。私が参加した9月2日はモディ首相の講演が予定されていたため、厳重な警備体制が敷かれたほか、荷物の持ち込みが原則禁止となり、会場入口に長蛇の列ができるほど大勢の来場者が集まりました。

インドの半導体産業はまだ勃興が始まった初期段階に過ぎませんが、今後の拡大が期待されます。会場ではインド宇宙研究機構(ISRO)半導体ラボ製の、初の”Made in India”チップがお披露目されたほか、今後のロードマップや現在のソリューションに関する展示が目を引きました。
 
代表的なプレーヤーは、タタ・エレクトロニクス社です。まだ事業は先行投資段階で、現在、西部グジャラート州に半導体前工程工場を建設中ですが、技術パートナーとして台湾の力晶積成電子製造(PSMC)社や奇景光電(Himax Technologies)との間で提携関係を結んでいます。

「セミコン・インディア2025」会場にて筆者撮影

米相互関税を受けたインド製造業の株価推移

これらインド製造業各社の株価がどのように推移しているのかを見ていきましょう。

自動車産業とIT製造業の代表的な企業の株価の動きをチャートにしました。米国による相互関税発表直後の25年4月4日を出発点にしています。

なお、インド株式市場を代表する指数として、SENSEX指数NIFTY指数が存在します。SENSEX指数はボンベイ証券取引所に上場する流動性の高い30銘柄で構成され、NIFTY指数は国立証券取引所に上場する50社から構成されています。多くの銘柄が重なるため、両指数は基本的に同様の動きを見せます。

自動車セクターに所属する企業の株価は軒並み好調に推移し、SENSEX、NIFTY両指数を上回っています。マルチ・スズキは8月までは指数並みの推移でしたが、物品・サービス税(GST)改革によって小型車の税率が下がる事などを好感し、8月以降は株価が好調に推移しています。指数が過去半年間で+10%程度の上昇率に留まるのに対して、自動車セクター主要銘柄の株価騰落率は+40%に達しています。

(下)でも解説するIT製造業の株価騰落率は、軒並みSENSEX指数、NIFTY指数を上回って推移していますが、中でも地場EMS(電子機器の受託製造サービス)企業、シルマSGSテクノロジー社の株価が好調に推移しています。

25年9月に同社を訪問した際、マネージング・ディレクターのJasbir Singh Gujral(ジャスビル・シン・グジュラール)氏に取材させて頂きましたが、EMS事業の拡大に自信を深めておられ、今後4~5年で3倍の規模に拡大させる方針である事を確認しています。利益率の高いB2B事業に注力する事で、売上高・利益率とも拡大・改善が見込まれています。


米国との貿易交渉が不調に終わって高い相互関税を課されている事や、指数構成比の大きい金融セクターや情報技術セクターの低迷もあり、インド株式市場はグローバル株式市場対比でやや出遅れています。しかし、高い経済成長率を背景に、中長期で見て有望な市場であることは間違いありません。

(下)では、今見てきたIT製造業の成長の背景にあるインド経済の状況を見ていきましょう。

【コラム1】
インド準備銀行を訪問
景気と経済成長率の見通し「心配していない」


2025年2月にムンバイを訪問した際には、インドの中央銀行にあたる「インド準備銀行(Reserve Bank of India、RBI)」にも訪問する機会がありました。

物価の安定を主眼にしつつ経済成長を図るための金融政策の策定という使命に加え、銀行を始めとする金融機関を監督する役割も持っています。ちなみに株式市場をはじめとする資本市場の監視は主にインド証券取引委員会(SEBI)が担っています。

基本的にはインフレ率の安定がターゲットで「4% ± 2%」という目標値を掲げています。24年後半からの景気減速は政府の設備投資の影響もあったものの、農村地域の民間最終消費が弱かった影響が大きいとの認識を示しました。その後インフレ率は低下し、落ち着きを見せています。

対外部門は輸入関税の影響を受けざるを得ず、米中対立や米国が課す関税が重石となります。新興国の各国が利下げサイクルに入ったこともあり「新興市場からの資金流出圧力は依然として存在している」と説明しています(これはインドに限らず新興国共通の悩みでもあります)。

一方で、消費改善が金利低下と減税により推進されるので「インド景気、経済成長率自体はそこまで心配していない」との事でした。インド政府は2月の予算案発表時に非課税対象枠拡大による減税を発表した事に加え、8月には物品・サービス税(GST)改革を発表、課税方式の簡素化による減税が9月よりスタートしています。

インド準備銀行(奥の高いビル)、手前は別の政府機関および図書館。
ムンバイ市内で筆者撮影

秋澤 宏典(あきざわ・ひろのり)

Tokio Marine Asset Management International 
Chief Investment Officer

東京大学工学部卒、同大学院経済学研究科修了。大和総研を経て2008年に東京海上アセットマネジメント入社。株式運用部にて企業調査・株式運用のキャリアを歩む。ITセクターに明るい。21年よりシンガポールに駐在、22年より現職。

Tokio Marine Asset Management International
東京海上アセットマネジメント株式会社は、東京海上グループの中核資産運用会社として、主に個人投資家の顧客を対象とした「投資信託業」と機関投資家の顧客を対象とした「投資顧問業」を展開。運用資産残高は約9兆円(2025年3月末現在)。
主要海外拠点であるTokio Marine Asset Management International Pte. Ltd.(シンガポール)では「東京海上・インド・オーナーズ株式オープン」などの運用を担う(同ファンドのリスク・手数料はホームページを参照)。


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