見出し画像

ベトナムの快進撃(上)ビンG株価が急上昇

【連載】アジア株投資の最前線 第4回(上)

東京海上アセットマネジメント
シニアファンドマネージャー 秋澤 宏典

今回のテーマはベトナムです。サプライチェーンを中国以外にも移転するという「チャイナプラスワン」戦略の最大の受益者として、対米輸出を大きく伸ばすと共に、内需の拡大により高い経済成長を実現しています。今後も経済発展が続くと期待されるベトナムの現在をお届けします。

ベトナムは、現在の人口が1億人強でまだ増加中、国土面積は約33万平方メートルと日本(約38万平方メートル)に似た規模感を持った国です。総人口の約4割が30歳未満と若く、生産年齢人口(15~64歳)は今後も緩やかな増加が想定されています。

実質国内総生産(GDP)成長率の前年比も、2024年に+7.1%、25年は+8.0% と好調に推移。東南アジア諸国連合(ASEAN)域内で最も高い成長を見せており、長期間にわたる高い経済成長率が期待されています。国としても、約20年後の45年に高所得国入りという経済目標を掲げ、産業育成に取り組んでいます。

国連データを基に東京海上アセットマネジメント作成

産業別に見ると、GDPに対する産業別寄与度はサービス業が40%台前半と最大で、工業・建設業の30%台後半が続きます。経済成長のけん引役はやはりサービス業と製造業で、中でもIT関連自動車への関心が高まっています。

海外からの直接投資(FDI)の約6割が製造・加工業に集中しており、主要輸出製品である「コンピューター・電子製品・部品」「電話機・部品」「機械設備」の生産が勢いを増しています。サービス業では、国内消費の回復と観光需要の大きな伸びが追い風となっていることに加え、金融・小売・運輸などが内需拡大の恩恵を受け、好調に推移しています。

生産拠点シフト
進む「脱中国」

これまでの連載でも触れましたが、米国が導入した相互関税と対中規制強化によって、グローバルサプライチェーンは変化を余儀なくされました。この動きはトランプ大統領が一期目の大統領を務めていた時代から既に始まっていたわけですが、相互関税の導入がその動きを促進することとなりました。

ベトナムは中国と陸続きである地理的な優位性もあり、2010年代より中国に次ぐアジアの工場として多くの企業が生産拠点を築いていきました。技術的なハードルが低く、以前から輸出が積極的に行われてきた繊維・衣料品に加え、PC・スマートフォンなどエレクトロニクス関連製品の輸出に占める割合が10年代に大きく上昇したことが分かります。

国連貿易開発会議(UNCTAD)、ベトナム統計局のデータを基に
東京海上アセットマネジメント作成

国連貿易開発会議(UNCTAD)、ベトナム統計局のデータを基に
東京海上アセットマネジメント作成

輸出先の国別内訳を見ると、ベトナムにとって米国が最大の輸出先になっていることが分かります。米国側から見た場合でも、他のアジアの国と比べてベトナムからの輸入額が過去15年間の間に顕著に伸びています。この事実は、米トランプ政権が「(ベトナムが)中国からのう回輸出先」になっていると指摘する背景の一つでもありました。

出所:米Census Bureauデータを基に東京海上アセットマネジメント作成

ビンファストEV
販売シェア9割超

経済成長の一翼を担う自動車、IT産業の状況を見ていきましょう。まずは、販売の拡大に加え、自国内でのサプライチェーン構築が進む自動車についてです。

ベトナムの自動車販売台数は、現在50万台程度だと言われています(ベトナム自動車工業会発表値と発表値に計上されない販売台数の合計)。かつては日本車と韓国車を合わせると新車販売に占めるシェアが8割程度あったのですが、現在は6割を切る水準にまで低下しています。

シェアを大きく伸ばしているのは、ベトナムの大手財閥ビングループが手掛けるビンファスト社の電気自動車(EV)です。EV販売に占めるシェアは9割を超えており、自動車市場全体で見た場合でも3割のシェアを獲得し、販売シェア首位の座にあります。

25年11月に開催されたビングループの投資家向けカンファレンスに参加し、ハノイ東部ハイフォンにあるビンファスト社の工場を見学しました。年間30万台の製造能力を抱える主力工場です。

現在インド、インドネシアにも工場を建設しており、それぞれ年間5万台の生産規模を計画しています。納入台数は2024年に10万台弱、2025年は16~17万台となる見込みで、順調に台数を伸ばしている様子がうかがえます。ただし投資が先行しているため費用が重石となっており、赤字が拡大、収益性が課題です。

ビンファスト社の電動スポーツタイプ多目的車(eSUV)である「VF8」(ビンファスト工場にて筆者撮影)

また販売の9割近くがベトナム国内向けで、国内販売シェア首位の地位は盤石と呼べるものですが、工場が稼働開始するインドやインドネシアでの販売が順調に拡大するかが試金石となります。かつては米国販売を拡大する方針でしたが、思ったほど販売は伸びず、米国工場の稼働時期も延期されています。

IT人材を国家育成
オフショア実績伸ばす 

さて、ベトナム政府はIT産業の育成にも力を入れています。国策としてIT教育の強化と人材育成に取り組んでおり、STEM(科学・技術・工学・数学)やコーディングといった分野の教育を早期に開始することで人材育成を促すとともに、英語教育にも積極的です。

かつてはIT人材を輩出する国と言えばインドというイメージが強かった方も多いと思いますが、ベトナムがインドに次ぐような形で存在感を増してきています。

ソフトウェア開発、クラウドコンピューティング、フィンテックなどさまざまな領域で取り組みを進めており、オフショア(海外)開発では既に多数の実績があります。英語対応という意味では、インドにまだ劣る面があるのは事実ですが、コストの安さから英語圏ではない国(アジア圏)で特に強みを発揮しています。ベトナムを代表するIT企業で、ソフトウェアのオフショア受託開発を手掛けるFPTコーポレーションは、海外売上高を大きく伸ばしており、全社売上高の4割以上を日本で稼いでいます。

ハノイ工科大学ホーチミン市工科大学といった技術系の大学や、ベトナム国家大学(ハノイ校、ホーチミン校)の情報技術学部の卒業生などを中心に、IT産業に多くの人材を輩出しています。近年はFPT社が設立した、ITに特化したFPT大学も存在感を増してきています。

一方、最近では半導体製造に向けた取り組みも見られます。ベトナム政府は半導体産業を国家戦略として位置づけ、政府主導での産業育成を推進。FPT社は、半導体製造を手掛けるFPTセミコンダクター社を2022年に設立しています。当初は設計に特化し、韓国に製造を委託していましたが、25年には半導体後工程への参入が明らかになりました。R&D拠点を開設したダナンに工場を建てる計画だとされています。

ビングループ株価
内需期待で急上昇

これらベトナム企業各社の株価はどのように推移しているのでしょうか。今回ご紹介したビンファストなどビングループ企業およびFPT社の株価の動きをチャートにしました。米国による相互関税発表直後の25年4月4日を出発点としています。

出所:東京海上アセットマネジメント作成
注:2025年4月4日の株価を100とした週次。ビンファスト社は米国上場のため米ドルベース

ベトナムを代表する株価指数であるVN指数は、ホーチミン証券取引所に上場する企業で構成される指数で、現在ちょうど400銘柄で構成されています(26年1月7日時点)。

ビン財閥を代表するビングループ株と、主要子会社であるビンホームズ株が、VN指数に占める構成比率の1位と2位となっています。株価の大幅上昇でその地位にいると同時に、大型株である2社の株価が上昇する事で、VN指数の上昇をけん引したことも特徴的です。

一方、米国市場上場のビンファスト株は、拡大する赤字に対する懸念から株価が伸び悩んだほか、日本をはじめとする海外市場で売上高の拡大が続くFPT株が全く上昇していないこととは対照的な動きとなっています。

背景にあるのは、内需拡大に対する市場からの強い期待と、ビンホームズが各地で手掛ける大型プロジェクトに対する評価だと言えそうです。スキャンダルなどもあって低迷していた不動産市場も回復が続いており、国内消費も好調な推移を見せています。不確実性の高い外需に依存する銘柄よりも、内需銘柄に選好が向いた結果だと見ることもできそうです。内需主導の経済成長へと切り替わるベトナム経済の質的転換を先読みしている可能性もありそうです。

ベトナム株式市場は、2025年にグローバル株式市場対比で見て大きくアウトパフォームしましたが、高い経済成長率を背景に、中長期で見て引き続き有望な市場であることには変わりありません。2026年もベトナム株式市場に注目していきたいと考えています。


秋澤 宏典(あきざわ・ひろのり)

東京海上アセットマネジメント株式会社
株式運用部 シニアファンドマネージャー

東京大学工学部卒、同大学院経済学研究科修了。大和総研を経て2008年に東京海上アセットマネジメント入社。株式運用部にて企業調査/株式運用のキャリアを歩む。ITセクターに明るい。21年から25年までシンガポール駐在、26年1月より現職。

企業概要

東京海上グループの中核資産運用会社として、主に個人投資家の顧客を対象とした「投資信託業」と機関投資家の顧客を対象とした「投資顧問業」を展開。運用資産残高は約9兆円(2025年3月末現在)。


【連載バックナンバー】
■4 ベトナムの快進撃(上)ビンG株価が急上昇
   ベトナムの快進撃(下)内需育てる「ドイモイ2.0」
   ベトナムの快進撃(番外編)街歩きで見た各地の「今」
■3 インド経済は希望の星(上) 自動車セクター株価が絶好調
    インド経済は希望の星(下) iPhone生産が脱中国で爆増 
    インド経済は希望の星(番外編) 食べる・泊まるならココ!
■2 中国AIのインパクト(上) 企業と製品編
    中国AIのインパクト(下) 現地訪問編
■1 トランプ関税で脱中国 岐路に立つサプライチェーン 


この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー