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畑と掃除機 #自然 #ちび創作大賞

『畑と掃除機』
〜虫との境界線〜

畑と掃除機にどんな関係があるのだろう。
そう思っていただけたら、こうしてエッセイを書く意欲もわいてくる。

まぁそんなことは置いといてーー。

最近、裕子が必ず畑に持参しているものがある。

それが掃除機だ。

掃除機といっても、いわゆるハンドクリーナーだ。
充電しておけば、手軽にどこでも掃除できる。

そう、畑で掃除しなければならない案件が見つかったのだ。

掃除すべきものはーー。


みなさまはご存知だろうか。

チュウゴクアミガサハゴロモ

という虫を。

裕子がこの虫を初めて畑で見たのは去年の夏だった。

大切に育てている晩白柚(ばんぺいゆ)に、何匹かついていた。

その蛾のようなフォルムには、特別敵意をいだくことはできなかった。

チュウゴクアミガサハゴロモ


しかし、チュウゴクアミガサハゴロモがいかに厄介な虫であるかを、YouTubeのあちこちで耳にするたびに、裕子の意識は変化していった。

裕子は畑にやってくる虫を殺さない主義だった。

今年の春に植えたじゃがいもが全滅するまでは。

じゃがいもが全滅したのは害虫のせいだけではないかもしれない。

YouTubeで発信されている自然農のなかでも、肥料なしで耕さないというやり方にチャレンジしてみたかったから。

自然栽培は年数がかかるということも知っていたつもりだ。

だが、まさか春植えのじゃがいもが全滅するとは思いもよらなかった。

土づくりをしない畑に、深めに切り口を上に向けて種芋を植える。そうすれば発芽には時間がかかるが、土寄せの必要がなく、たくさん収穫できるらしい。

じゃがいもの育成は遅かった。そんなものかと思っていた。土づくりをしていないのだから仕方ないだろう。

じゃがいもの葉に虫がついていても、最初のうちは放置した。

だが近所のおばあさんに種芋をもらい、一番先に植えたじゃがいもが枯れはじめてからは気持ちが変わった。

じゃがいもにたくさんついていた虫は、20星テントウムシ(テントウムシダマシ)だった。

最初のうち裕子は、テントウムシダマシをみつけると捕まえて、遠くの草むらに放していた。

テントウムシダマシ


そうしているうちに、家族の入院によって、畑の滞在時間の確保が難しくなった。

3回に分けて植えたじゃがいもは、花をつける前に、見事に全滅した。

テントウムシダマシはジャガイモの葉を網目状に食い荒らす。ナス科植物が大好物なのだ。


テントウムシダマシ


ナスやじゃがいもの花に似た小さな花を咲かせる草(イヌホオズキ)にもたくさんついて、その葉をレース状にしている。

イヌホオズキの花


レース状になった
イヌホオズキの葉


チュウゴクアミガサハゴロモは樹液を吸って果樹を枯らせるそうだ。

じゃがいもが全滅してから裕子は、危機感を覚えた。

さらに、大切に育ててきたイチジクの木が、気づけば枯れていた。

もう、害虫を放置している場合ではなかった。


裕子は、おばあちゃんの畑で採れる安政柑が大好物だった。おばあちゃんの畑は耕作放棄され、みかんや八朔の木は枯れた。何年か前に畑をおとずれたとき、安政柑は大木に成長し生き残っていて、2〜3個収穫できたが、畑は山側から藪が押し寄せ、イバラが生い茂っていた。

今はもう、どうなっているか分からない。

晩白柚は安政柑によく似た味で、さらに大きな実をつける柑橘だ。
裕子は晩白柚と安政柑のどちらを植えるか悩んだとき、世界一大きな実をつけるという晩白柚を植えることに決めた。

去年、初めてその晩白柚に花が咲き、一つだけ実をつけた。
だが、その実はすぐに落下した。

裕子は今年こそはと思っていた。

今まで害虫から守ってあげなかったことを、晩白柚や他の柑橘類に心からわびた。

「ごめんね、ごめんね。今まで何もしてあげなくてごめんね。守ってあげなくてごめんね。お願いだから元気に育ってね」

果樹たちーー晩白柚と二本の石地(いしじ)みかんは、今年初めてたくさんの花を咲かせ、石地はかぞえきれないほどの実をつけた。


石地と地域猫みーちゃん


果樹は裕子の言葉を聞いて、それに応えてくれたかのようだった。


たくさんの実をつけた石地


晩白柚の大きな葉と実


そして今年、晩白柚の木にチュウゴクアミガサハゴロモが大発生していた。

もう、これは掃除機を畑に持参するしかない。そう思った裕子は、自宅で愛用しているアイリスオーヤマのハンドクリーナーでチュウゴクアミガサハゴロモを捕獲することにした。

チュウゴクアミガサハゴロモ


ハンドクリーナーを強にすれば、捕獲しやすかった。

テントウムシダマシも見つけたら即捕獲。カミキリムシも捕獲した。

果樹や野菜と虫。生きるか死ぬかの選択を迫られたら、害虫を容認することはできない。これが裕子が決めた畑での虫との境界線だった。


裕子は晩白柚にお願いしている。

一つでもいいから、あなたの美味しい果実を食べさせて。


※客観的に記述するため、エッセイの中ではワタシ=裕子として書いています。

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