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海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー1

#創作大賞2025 #恋愛小説部門
約12万字/完結済み


あらすじ

航路の要所で「海の国」たる祖国を追われ、一度は「海のなんでも屋」である半商半賊に属した男レオン。そこで腹黒さを得た彼と、半商半賊の首領の養女で地味顔を世界中の娼婦の化粧技術で絶世の佳人『海の国の黒真珠』と言わしめるほどに彩り、波も風も味方に破天荒でえげつない策を弄する魔女のような性悪女シーアによる海の国再興譚。
国王となったレオンに「船を降りるなら嫁に来い」と求婚された仕事人間シーアは「よし一年ほど婚約しよう。会食3万、夜会5万、式典10万。功績に応じて臨時手当も出せ」と応じる。
明敏な頭脳に人材、人望と容姿にまで恵まれ後に希代の名君とされる男は絶望的なまでに女の趣味が悪かった。そんな二人の攻防。

他サイトでも別タイトル(「海の国再興譚~腹黒国王は性悪女を娶りたい~」)にて公開中。

本文

第一章 わだつみの娘と拾われた男
第1話 めんどうな出会い


 うわ、なんか妙なのがいる。

 頭からすっぽりフードを被った男の姿に、シーアはそう眉を寄せた。
 小型から中型船がひしめく船着き場だ。そこでやっと空きを見付けたというのに、シーアが目をつけたその場所で大変胡散臭い風体の男がこちらを見ている。

 近付きたくない事この上ない。
 しかし、残念ながら他にめぼしい空きもない。
 幸い満杯状態の船着き場はにぎわっており、周囲には大勢の海の男達がいる。こんなに人目のある場所だ。相手も大事にはしないだろうと、そこに船を進み入れた。

「ここ、使ってもいい?」
 男が仲間の為に場所取りをしているのかと、シーアは一応確認のため声をかける。
 ずっとこちらを見ていた男は頷いてシーアに手を差し出した。一瞬逡巡したシーアだが、手にしていた船をつなぐ為のロープを男へと軽く投げると男は素早く杭に固定した。

「どうも」
 船は大事な商売道具であり財産だ。
 人の手に任せられない。ロープの固定が確実か確認してから。シーアは警戒を解かぬまま男に声をかけた。
 単に十代半ばの小娘一人で船着き場を使っているのが珍しく、手を貸してくれただけという可能性もあるかと思ったが━━

「海王にお目通り願いた」
「よく間違えられるんですけど、人違いです」
 下心がある方だった。
 ひそめられた男の硬い声は耳に残るような美声だったが、それをシーアは途中で力強く切り捨てた。

 まったく。子供に手を貸そうって親切な人間はいないのかね。
 純粋な親切であれば「子供扱いしやがって」と面白くない癖に、目的を持って接触してきた男にシーアは内心嘆息する。
 
 船と桟橋の高低差から自然と見上げる体勢になると、フードに隠そうとしている顔が容易に見て取れた。
 あまり手入れされず伸びたままの暗い色の髪、口元には無精ひげ。
 しかしそんな風貌をしていようとも、その顔立ちは思わず眉を顰めるほど整っている。 
 強い意志を宿した青い瞳が、静かに少女を見つめていた。
 声からしてそうだとは思ったが、やはりまだ若い。

 色男はひげ面でも男前ってか。
 咄嗟に舌打ちしたい衝動に駆られたシーアには、自分の顔が地味だという自覚がある。
 きつい印象のある切れ長の目だけが特徴的ではあるが、薄い唇に低めの鼻と黒髪。これといって特徴のない自分に男は確信をもって声を掛けてきた。
 地味で覚えられにくい顔はこの職業ではとても都合がよく、実は本人は割と気に入っているほどである。

 港には少数とは言え他にもシーアのように若い娘も働いているというのに、「海王」の関係者だと看破して接触してきた男。
 それなりの情報源があっての事だと思われた。
 厄介な、相手か。

「じゃ」
 さっさと離れるのが賢明だと判断したシーアは慣れた様子で身軽に桟橋に上がる。そのまま港町へ足を向け雑踏に身を潜ませるつもりだった。

 少女の視線が反れる直前、男は己の腰元に右手を伸ばした。危険を察して咄嗟に身構えたシーアだが、男は年季の入った短刀の柄ではなく重厚な細工の鞘を握ってこちらに示す。
 緊迫した空気を発するのはシーアの方だけで、男は敵意のない事を示すように鞘をつかんだまま少女に寄せて見せる。

 一瞬の隙も与えない気構えで相手の瞳を食い付くように見つめていたシーアだったが、男の真摯な瞳に根負けする。警戒を解かないまま一瞬視線をそちら向けた。

「━━」
 息を飲みそうになるのをシーアは根性で耐えた。その柄頭には、今は存在しない王家の紋章があった。

 五年前、王の崩御とともに議会制になった中規模国家「オーシアン」。
 大きな国ではないが航路の要所に位置するその国は世界でも屈指の港を持ち、貿易の盛んなそこは「海の国」とも称される。

 海王と呼ばれ、シーアの養父でもあるウォルター・ドレファン率いる半商半賊ドレファン一家も一目置く国の一つだ。
 変革後、方針を見定めるためにも距離を置いていた。そしてこれまで年単位でオーシアンの動向を精査した結果、養父ウォルターはそのまま距離を置く判断を下したのだ。

 シーアは今度こそ思い切り眉を潜めた。
 くっそ、なんだってわたし一人の時にこんな面倒に……
 まだ自己判断できない未熟さに苛立ちが増す。

 大仰に息をつき、少し逡巡してから黒い髪の頭をガシガシと掻くと右肩に集めて垂らした三つ編みが跳ねる。
「めんどくさいなぁ」
 それまで真剣な顔つきだった男は、少しだけ申し訳なさそうな顔になった。そんな表情にシーアは諦めたように息をつく。

「明日、同じ時間にもう一回ここに来な」
 言い捨てるように乱暴に告げたシーアは市場の方へと爪先を向け、その華奢な背に男は少し慌てたように声をかけた。
「いいのか? これ」
 証として持って行かなくてもいいのかと言わんばかりの相手に、少女は内心呆れながら嫌そうに振り返った。

「それの真贋くらい見抜ける」
 まるで「馬鹿にするな」とでも言うように顔をしかめると、今度こそシーアは小さな港町の人の流れに消えて行った。

 嵐の海に漂う樽の中で泣き叫ぶ赤ん坊。それが発見されたのは十五年前のことだ。
 樽を拾い上げたのは、何代も続く半商半賊ドレファン一家の若き頭領ウォルター・ドレファンである。
 常に波が荒く、航海の困難な海域の奥に位置するまさに絶海の孤島。小さなその島の首領でもある彼は、その赤ん坊を島の習わし通り引き取った。

 島の食物は自給自足でほぼ事足りたが、非常時の食料と生活物資確保のため、そしてそれらを購入する外貨獲得のために彼らが大海に出るようになったのははるか昔の事。
 長い時の流れのなか、荒れた時代もあった。生きるために海賊・運輸業・傭兵業・商人と国や地域によって異なった認識をされるようになり、ドレファン一家の頭領はやがて代々「海王」と呼ばれるようになった。

 海王ウォルター・ドレファンに拾われた赤ん坊は、よほど海の神に同情されたか愛されたのだろう。
 海に生きる者は皆そう噂した。
 乳飲み子のうちから船に揺られていたせいか、海の変化の察知に尋常ならざる能力を発揮した。

 潮を読み、風をとらえ天候を予知する。
 小舟であれば簡単に波に乗り、そうなれば誰もかなわなかった。
 ドレファン一家が嵐で苦労する事はなくなった。

「海王のところの拾われ子」「酒樽生まれの海子」と揶揄されていた少女が、やがてその能力を正当に讃えられ、畏怖も尊敬もはらんで「海神わだつみの娘、海姫」と呼ばれるようになるのは、まだ少し先の話。

「そいつ、男前だったか?」
 沖に停泊していたドレイク号に戻ったシーアが事の詳細を養父ウォルターに報告すると、船長でもある養父はそんな事を尋ねてきた。

「あぁ? まぁ、髭とか髪とかむさくるしかったけど、腹が立つくらいの美形だと思う。それに……」
 シーアは不本意そうに答え、それから少し考えるように言葉を区切ってから続けた。

「なんというか、面白い男だと思う」
 身の証となる宝剣を、あの男は証拠に持って行かなくていいのかと尋ねたのだ。
 いや、単に頭が足りないと言うだけかもしれない。豪気なのか短慮なのか判断がつかず眉間に皺を寄せる養女とは逆に、海王と呼ばれる男は面白そうに目を眇めるとうっすらと笑んだ。

「じゃあ連れて来とけ」
 船長の次の地位にある航海士あたりを使いにやるでなく、自分に連れて来いと言う養父の言葉にシーアは暗澹たる心境になる。
 
 ああ、やっぱり面倒な事になった。

各話URL

第一章 わだつみの娘と拾われた男
第1話 
海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー<1>
第2話 
海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー<2>
第3話 
海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー<3>
第4話 
海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー<4>
第5話 
海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー<5>
第6話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー<6>
第7話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー<7>
第8話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー<8>
第9話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー<9>
第10話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー<10>
第11話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー11
第12話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー12

第二章 わだつみの娘と海の国の婚約者
第13話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー13
第14話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー14
第15話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー15
第16話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー16
第17話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー17
第18話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー18
第19話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー19
第20話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー20
第21話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー21
第22話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー22
第23話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー23
第24話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー24
第25話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー25
第26話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー26
第27話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー27
第28話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー28
第29話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー29
第30話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー30
第31話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー31
第32話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー32
第33話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー33
第34話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー34
第35話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー35
第36話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー36
第37話 海の国再興譚 ー悪女と腹黒王の契約ー37完結 


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