ケケケのトシロー 第一部(24)
フキ時計店のフキさんはこの世を去った。盟友だったはずのフキさんに冷たい仕打ちのキダローに怒りを覚える。トシローは警察で事情聴取を受け核心部分は話せなかったがなんとか解放される。フキさんのことを警察に頼み、迎えにきた妻の真由美を見てトシローは安堵するが、真由美に自身の変化を言い当てられ動揺した。
サトーの正体 1
(本文2673文字)
カズがどこにいるのかは分からない。けれどサトーというカズの兄貴分が関わる権藤会が経営の金融会社は、この市の中心地である四ノ宮駅前に店舗があるのを知っている。フキさんがいなくなった以上、手がかりはそこにしかない。真由美がすやすやと寝息を、いや、ンゴゴゴゴといびきをかきだしたのを確認してから、こっそりと夜中に家を出た。明日になってからでええかと思いもしたが、カズから返信がないのが今の状況を表しているとすれば猶予はない。流しているタクシーを拾って三つ隣の四ノ宮駅前へ出向いた。
駅前はもう0時を回ったのにまだ多くの人が行き来している。自分も現役の頃、これくらいの時間はゴールデンだった。今から行きつけのスナックだ、カラオケだとハシゴして午前様で家に戻るなんていうのは日常だった。当然、真由美に怒られるわけだが、ある程度稼いでいたし、まだ会社の経費で接待ができるいい時代だった。もうあんなことはこの国ではできない。そう思うと今の若い連中が少し可哀そうにも思える。まあ今の若い人はそんな不健康で面倒くさく、楽しくもない付き合いなど望まないという話もTVで言っていたけど。
と、そんなことはどうでもいい。サトーの金融会社を探す。ネットからクークルマップで地図を確認。一階にコンビニが入っているビルの三階だ。しかし、こんな時間にどうやってビルに入ろうか。思案しながら歩いていると目指すビルの前になにやら多くの人だかりと赤色灯が点滅する車が何台も止まり、周辺を封鎖しようとしているのがわかった。
もしかしてと胸騒ぎがする。咄嗟に股間を触るが、うん、大丈夫。ちびってないのを確認する。俺は速足で人混みに分け入っていった。
がやがやと何やら皆がコンビニ横にあるビルの正面入り口を覗き込みながら喋っている。警官が「はい、関係ない人はさがってー」と声をあげる。警官も10名以上はいる。パトカーも見える範囲で5~6台、救急車は1、2、……4台もおるがな。えー、何やねん、コンビニでなんかあったとか? えげつないこと? 俺は腹に巻いている綺麗に洗ってアイロンでちょっとだけ乾かした亀甲布の少し湿った感触を確かめる。いつでもこの必殺亀甲をほどいて臨戦態勢をとれるように。え、なんで腹に巻いたか? そりゃあれですやん。ヤクザのとこにいくんやから、たいがい腹にさらし巻いていきますやん。そういうもんですやん。
「すんません、なんかありました?」
スマホで動画撮影をしている感じのサラリーマン風中年男性に声をかける。
「なんかねーこのビルでさっき暴行事件があったようですわ」
くそっ、間に合わんかったか。
「もしかして三階?」
「いや、どこかわからんのですけどね」
「でも、ここ、あれやろ、ヤクザの会社の事務所があるやろ?」
「いや、私は知らんですよ。あんたさん、その関係のかた?」
「ちゃうちゃう、みたらわかるやろ。こんな人の良さそうな男がヤクザなわけないやろ!」
少し声のトーンがあがって周りの人が一斉にこちらを振り返る。マズいと思った俺は「もう~ 冗談きついわ~、おにいさん」と何故かオネエ口調の笑顔で返した。
へへっと愛想笑いでごまかしつつ、ビルのエントランスを見ると、ストレッチャーに乗せられた怪我人らしき人が次々とでてきた。警官は野次馬を遠ざけるのに必死だ。俺はその中にカズがいないか凝視するが見覚えのない顔ばかり。カズがヤキを入れられるのならわかるのだが、どうして顔だけ見るとゴツそうな兄ちゃん達がこんなに何人もはこばれてくるのか。
まさかとは思う一つの場面が頭に浮かぶ。一計を案じた俺は人混みを抜け、迂回してビルの裏の通用口に回り、そこにもいる刑事らしき男に声をかけた。
「ご苦労さんです。毎朝新聞のタチバナです」俺は新聞記者の名を適当に騙った。
「毎朝さん? えらい早いな。無線か?」
「え、まあね、それにそろそろこんなことがあるかもという気がしてたんですわ」
「毎朝さん。それどういうこと? なんか知ってるんか?」
「いや、知ってるというか。知りたいというかねぇ。どうです?情報交換ちゅうのは」
俺は作家である。こういう駆け引きはミステリーによくある場面。素人と一緒にしてもらっては困るぜ。フフフ……。
「あとで記者クラブで発表があるからそれで聞きーや。内容にもよるんやけどやな。協定あるからあんたとこだけちゅうわけにはいかんやろ?」刑事は俺の腹の中を探るようにそう返す。
「ここの金融屋でしょ? 権藤会の」
「だからな。あとで皆に……」
「誰か拉致されてたんと違います?」
「調べなわからへんから、あとあと」刑事は表情を変えず俺から逃れようとする。ん? これはアタリの気配やな。もう少し餌を撒く。
「若頭補佐のサトーも襲われたんちゃいますか? それも相手はもしかしたら一人とか?」
刑事の顔色が明らかに変わった。俺の肩に手をまわし小声で訊いてくる。
「毎朝さん あんたどっからその話を?」
「俺も伊達に記者、40年もやってませんで」俺はふっと息を吐き、上目遣いで刑事にニヒルな笑いをおくる。おお、俺、今、役者やのう。
刑事は俺の名演技にすっかりだまされたようだ。俺の袖口をつかむようにして「ちょっ、知ってること聞かして。頼むわ」と態度を変えてきた。
「その前に、やられたんは?事務所には何人おったんです?」
「全部で8人と言う話や」
「サトーもいれて?」
「いや、サトーは本部に行くと言ってその前にここを離れてる。なんかチンピラ一人つれて出て行ったらしい」
チンピラというのはカズのことだろう。
「そこにのりこんできた奴が残ってた権藤会の奴らを全部ボコボコにして引き上げた。たぶんそれはサトーの行先を聞くために」
「あんた、どこまで…… あんた、もしかしてその相手を知ってるんか?」
「いや、流石にそれは知りまへんがな、そこまでは。ただね、昨日かな、不帰橋のとこで家が一軒潰れておばあさんが亡くなった事件あったでしょ」
「あーそんな話は聞いたな。なんや、それがどうしたんや」
「この事件、もしかしたらね、亡くなったおばあさんと関係あるかもしれまへんで ケケケ」
俺はキダローの事を思い浮かべていた。こんなことをできる奴はあいつしかおらん。
「なんでそんなことを? どういう事や……」俺は刑事が全て言い終わる前に意識のスイッチを入れる。そう『亀甲速く走る術』だ、ぐいーん。
俺はあっという間にトップスピードでその場を後にした。目指すは権藤会本部。キダローもそこにいる。きっといる。
注 あくまでもこの作品はフィクションです。
ケケケのトシロー 1 ケケケのトシロー11
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