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ケケケのトシロー 第一部(25) 

ヤンキーのカズに絡まれ老人狩りにあったトシローはキダローという不思議な術を使う男と知り合う。彼は悪霊退治を使命にもつケケケの妖術使いだった。非力で情けなさ100%のトシローは、最初はキダローの強さに惹かれ行動を共にし彼から妖術を学ぼうとするが、キダローがカズの仲間をゴキブリに変え抹殺したことからその非情さに疑問を持つ。その後キダローの仲間であるフキさんが守る不帰橋の時計店が悪霊に襲われフキさんは命を落とす。が、そこでもキダローの冷たい態度にトシローは彼に反抗する。一方でカズが所属する権藤会は地元で暗躍する組織であり、カズはキダローが退治した彼の兄貴分の金銭トラブルのせいで組織に呼び出されていた。助けを求めるカズを追ってトシローは権藤会本部事務所へ走った

前回までのあらすじ

 サトーの正体 2


(本文3236文字)

 権藤会の本部事務所は車でも10分かからない住宅街の一角にあった。戦後から反社組織とこの街はある意味共存してきた。彼らも、自分達も日常を常にここで過ごしてきた。大きな抗争が勃発した時には警察や司法は彼らを排除するために行動をしてきたが、裏では政治家も含め繋がっている。社会の利益構造に根深く浸透しつくしているのが彼らの本当の姿なのだ。表面上は反社組織の撲滅などと言うが、人間の欲が消えない限りその存在は本心から否定されることはない。

 その本部は周囲の一般の家とまるで違った。周囲は表面に鋼製の板が張られ、高さ3mはあろうかという塀で囲まれていた。角には監視カメラが設置され死角なく見張られている。入り口に相当するゲート前には組織の人間とそれをまた監視する警官とが対峙する奇妙な絵面で守っている。塀の中の様子は外からは一切伺えない。全く住宅街には不釣り合いな要塞のような建物が、運送会社でも中にあるような広大な敷地に居座っているのだ。

 金融会社の事件のせいか本部に出入りする人間は少なく、逆にパトカーを含めた警察らしき車が周辺を絶え間なく巡回している。これではキダローといえど手も足もだせないのでは。

 うーさぶっ、と警察からもヤーさんからも睨まれない距離で様子を伺いながら俺は途中で買った缶コーヒーをちびちび飲んでいた。夜は冷える。それに水分を取ると用を足したくなる。近くに公園があってそこにはトイレがあった。そこまで戻るかと考えていたら、後ろから誰かが俺の口を塞ぎ腕を逆に取られた。

「だまってそのままバックやで~。 おとなしいーにしてやー」
聞き覚えのある声と少し甘めの香りがする。なんかお香っぽい。え、もしかして。腕を取られ口を塞がれた状態で目だけで正体を追った。
「トシローちゃん、お元気~」
「しぇ、しぇとにゃいかいしぇんしぇ~?ふがふがわ~」俺は口塞がれたままお返事をした。

 俺は後ろに引っ張られ、完全に本部から見えない位置でやっと解放された。腕をほどいて微笑みかけたのはやはり瀬戸内海小豆せとないかいあずき先生だった。
「先生、なんでここに?」
「いやー、キダローはんから連絡もろてね」
 改めて先生を見て俺は少々下半身が熱くなった。いや、またちびりそうなわけではない。先生のいで立ちが凄いのだ。いつもの法衣ではなく全身黒ずくめのボンテージスーツだ。少々胴周りの張りが気になるが、胸もお尻も現役世代に負けぬボリューム。うーん、俺の歳がもう20歳ほど若ければ……いけるかな…… ケケケ いや、何をいくねん! 俺はかぶりを振る。ぶるぶる。

「あ、トシローちゃん。変な事考えてたでしょ。いかん子やね~ 南無阿弥陀仏」瀬戸内海先生はお尻を二回ふってから合掌する。そんな恰好で合掌されてもと思いながらも訊く。しかし目のやり場に困る。

「キダローは? もうここに?」
俺の問いに先生は目つきを変え、お尻をふるのも勿論やめて俺をしゃがませ、自らも膝をおった。
「キダローはんはすでに侵入してはる。ケープを使えばこの暗闇。誰の目にもとまらんわ」
そうだ、あのケープを纏えばまるで影。要塞のような本部でもキダローなら問題ないだろう。

「もうすぐ始まるわ」そう言って瀬戸内海先生は腕時計を見た。いつかフキ時計店で見た腕時計に似ていた。
「何が始まるんです?」
「悪霊退治パート2」
先生は時計を見たままそう言う。
「あそこにいるのがラスボスでっか?」
「いいえ、ちゃうよ。今夜は権藤会のボスも東京に行っておれへん。知ってるでしょ? 例の国会議員スキャンダル」
「えー、あいつら繋がってるんですぅ?」
俺が思わずでかい声を出したので、先生はまた俺の口を手で塞いだ。先生いい匂い。白檀びゃくだんやな、これは。つい口が緩くなって涎を先生の掌につけてしまう。

「もう、なんやのトシローちゃん、行儀悪いね~もう。まだいけんの?」
「へ? なにがです?」
「あっちのほう」
「あっちとはどっち?」
「もう」先生は意地悪い笑みを浮かべる。心なしかボンテージスーツの胸あたりのジッパーが下がっているような気がする。いや、先生、ちょっと、あなた。 
「そんなこと言うとる場合やない、もうすぐやわ」
いや、あんたが言うてるのよ。

 その時、本部の方で大きな音が連続して鳴った。拳銃の発砲音のような、何かが爆発したような、ハッキリはしないがここまで聞こえるほど大きな音だ。

「始まったよ~。ええか? トシローちゃん。きっとこれで警察は本部に流れ込む。抗争事件かなんかやと思ってね。権藤会の連中も誰かが襲ってきたと思うはず、まずは幹部が避難し始めるわ。、ええか? 裏側に回り込むよ。あんたはこのケープを」
 そう言って先生は側に在ったリュックからケープを取り出した。俺が使っていたケープだ。先生も別のケープを纏う。
「裏側に車専用のゲートがある。そこからサトーは出てくるはず。そこでキダローはんと合流してサトーを捕まえるからね」

 俺と先生はケープを使いシルエットとなって警察とヤクザが右往左往するなか、裏の車両門へ高速移動した。ぴゅーんだ。先生もお歳のわりに速い。
しかし先生はケケケの妖術は使えんとキダローは言っていたが、修行の賜物なのだろうか?
「先生、速いわ ケケケ」
「ケープがあれば素人でも足くらい速くなるわ」そう言う先生の眼はしっかりと門を捉えていた。

 ガラガラと音がして中から数人の組員らしきガタイのゴツイ奴らが三人四人と出てくる。皆、周りを警戒しながらゲートを開けきり、中から車が出てくるのを待っているようだ。

「いくわよ」
 ボンテージの先生がシルエットのまま飛びこむ。俺も続く。先生は一気に外にいる組員の間を風がすり抜けるように通り過ぎた。俺も続いて通ろうとした時、ひとりの組員が急に俺の進行方向に立ち入った。
がつんという衝撃音にぶつかった組員は壁まで吹き飛ばされてへなへなと崩れ落ちた。
「なんや、どないした!」
「おい! なんや、ハジキか!?」
「おい、閉め! 閉め! やばいぞ」叫びながら組員たちはゲートを閉めにかかる。痛たあ、俺はおでこをさすりながら再び中へ飛び込もうとした。

「なんや、おのれ! どこのもんじゃ!」
「なんや、ジジィかい、おのれか? テツ、弾いた奴は!」
 え、なんで。見えてる? 振り向けばそこにケープが落ちていた。あかん。ぶつかった勢いでケープが脱げた……。
「舐めた真似しくさって」一人の組員が中からだんびら(刀のこと)を片手に近づいてくる。げ、ほんまもんのヤクザやん。さらし巻いた意味あったやん。って、あかん、あかんやつや…… これはあかんぞ。

 いつもの俺ならここで間違いなくちびる。しかし俺にはまだこの亀甲がある。俺は腹に巻いた亀甲をほどき、相手に散髪屋トルネードをぶちかましたろ…… あかん。また端っこがわからんで、すぐにほどけんがな。だんびら兄ちゃんが振りかぶるのを見て後ずさりする。

 しかし次の瞬間、だんびら兄ちゃんは後頭部から地面に叩きつけられた。そしてうろたえる他の組員は次々に投げ飛ばされていく。ヤクザを宙に舞わせているシルエットはボンテージ瀬戸内海だった。
「もう、なにしてんの! はよ、来なさいな」怒られながら、のびている組員たちを尻目に先生に続いた。先生、強い。惚れてまうやろ~。

 目の前に車のヘッドライトが眩しく灯った。俺と先生はその強いビームで正体を晒される。
「なんじゃ、お前ら!」運転席から助手席からと若い衆が何人か、今度は飛び道具を持って降りてきた。俗に言う拳銃、チャカと言うやつ。

 後ろに続いている車からはプロレスラー級のでかい男も出てきた。
「あ、あのジジィですわ」
 そのデカイ男の陰からカズが顔を出し叫んだ。
「あいつ、あのジジィがサトーさんの金、くすねた奴ですぅ」
「カズ、ほんまやのう?」
「ホンマです!」

 嘘やろ~カズのばかあ~。俺と先生はあっという間に大勢のヤーさん軍団に取り囲まれてしまった。



続く


注 あくまでもこの作品はフィクションです。


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