ケケケのトシロー 第一部(31)
ヤンキーのカズに絡まれ老人狩りにあったトシローはキダローという不思議な術を使う男と知り合う。彼は悪霊退治を使命にもつケケケの妖術使いだった。非力で情けなさ100%のトシローは、最初はキダローの強さに惹かれ行動を共にし彼から妖術を学ぼうとするが、キダローがカズの仲間をゴキブリに変え抹殺したことからその非情さに疑問を持つ。一方、命を助けたことでトシローを慕っていたカズが音信不通になり、トシローは彼を追って反社組織権藤会本部へ走る。そこに待っていたのはサトーという人間の姿を借りたキダローと因縁のある悪霊だった。キダローと共に戦い勝利を手にする寸前のところでサトーはカズに乗り移り逃走。そして妻、真由美にも危険が迫っていることを知り、自宅へキダローと共に急いだ。
真由美を救え 2
(本文3422文字)
「ひゃはは、わちきがちょっと早かったわな~」
口裂けマユミじゃない、口裂けオバケ女はそう言い、ぴろぴろと二股にさけた舌を口から出した。
「あ、マ、マユミさんはど、どちらにお、おられるかご存じ?」
無駄な質問のように誰もが思うかもしれんがとりあえず訊く。
「マユミ~? 姫はマユミと今は言うんかえ~?」ぴろぴろ。
「そ、そうですねん、真由美と書いてマユミですわ~」
「おまえ、あほやねぇ~」ぴろぴろ。
「へ?」
「それじゃあ~漢字の説明にもなりゃ~せんで~」ぴろぴろ。
「あ、あ~そうですねぇ~。ほんまや。あほやね~」俺は精一杯の笑顔を見せた。
「で、あんたはどなた~?」ぴろぴろ。
「いや、あの、なんて言うか、一応、配偶者っていうやつです」ニコニコ。
「ふ~ん、そうかえ~」ぴろぴろ。
「え~、で、真由美はどちらに……」えーっと、ニコニコ。
「いま、ここに詰め込んだとこやきにね~」
そう言って口裂け女は宙に浮いたベッドからぬるぬるとした蛇の身体をしならせながら床に降りてくる。頭は口裂け、胴は蛇、手らしきものが二本。そしてとぐろを巻きだした。えええ、まさか……
「詰め込んだというのは…… まさかその、おたくのお腹とか……」
俺は「顔だけ口裂け女蛇女」なんかややこしいので以降「蛇女」とするがその蛇女に訊いてみる。
「いいとこに気付いたねぇ~、けど、ブブーやねぇ~。喰うたらあかんといわれたからねぇ~。こっちよね~」蛇女は胴体から出ている手で器用にベッドから水晶玉のようなものを取りだす。
「ほれ、見てみぃ~」ぴろぴろ。
眼を凝らしてその水晶玉を覗くと、中にちっちゃい真由美がいつものパンダさんのパジャマを着て何か叫んでいる。あ、水晶玉の壁をどんどん叩いとる。一応元気みたいやな。一安心。て、そんな事言うてる場合やないがな、毎度毎度。
「あの~、なんかここからはよ出せ~って言うてるみたいなんですけど、出してもらう訳には……」
「ひゃはは、ぴろぴろ。あんたおもろいねぇ~。そんなことできるかいな~やっぱりあほやねぇ~」ぴろぴろ。
「ケケ、そうですか、それでもね、そこをなんとか……」
「しつこいねぇ~、あんた、今、ケケってワロタ?」ぴろ。
「へ、いや、気のせいでしょ。ケケケ なんてワロてませんよ」
蛇女は頭を天井近くまで持ち上げ、今までやや友好的とも思えた笑顔? かどうかわからん表情を一変させた。
「おまえ、なんかあんまり怖がらんから(いや、充分怖いです)おかしいとは思うたが、ケケケの仲間かえ~」蛇女はもはやぴろぴろ無しで凄む。
「え~と、もしそうやったらどないなりますかケケ あっ!」
「あほは、死なな、治らんえ~!!」
蛇女は尻尾をしならせ鞭のようにして俺を掃い飛ばそうとした。俺は咄嗟にケープで防御する。衝撃が左腕に響く。まともに受けていれば身体は真っ二つだったかもしれない。ここは狭い、後手に回ると危ないか。
俺は亀甲布を素早く蛇女の首元に放った。蛇女の首に巻き付いた亀甲布の手ごたえを感じた瞬間、力の限り引っ張る。蛇女は「ぐえぇ」と唸るとぴろぴろの舌を出したまま、廊下に出てリビングへ身体を這わしていく。窓から外へ逃れるつもりだろう。水晶玉はしっかりと握ったままだ。ここで逃がすわけにはいかない。俺はくねくねの蛇女の胴に馬乗り、いや、蛇乗りになり亀甲布を渾身の力で絞る。
「ぐぇぇぇぇぇ」
蛇女は断末魔の唸りを響かせながら、真由美入りの水晶玉を窓に向かって放り投げた。「あ、あかんがな!」と思う間もなく水晶玉は窓ガラスを粉々に割り外へ投げ捨てられた。俺は亀甲布を手放し、ダッシュで水晶玉を追い窓からそのまま飛んだ。ケープがある。俺は追いつく。
手を伸ばし落ちていく水晶玉を掴もうとした瞬間、黒い雲のような塊が水晶玉を包んだかと思うとその雲は空中で人型に変わっていく。雲と思ったのはよく見ると小さな翅虫の集合体のようだ。夏によく頭の上に集まるあれみたい。うー気持ち悪い。
俺は戻れと念じた。右手に亀甲布が戻ってくる。その端には干からびた蛇がぶら下がっている。あとで始末だ。俺は亀甲トルネードの体勢に入る。もちろん空中浮遊の状態でだ。凄いぞ俺、完全ヒーローやん。
「真由美、返してもらうで」もうおれはチビリのトシローとちゃう。愛する妻を救う正義のヒーロー「ケケケのトシロー」や! いざ! 勝負!
俺は亀甲トルネードで黒の塊を大上段から真っ二つに切り落とす。しかし塊はすぐに二手に別れ、やり過ごしたかと思えばまた人型の塊に戻った。そうか、これだと何回切っても奴らはダメージを受けない。くそ、どうすればいい……
「姫は預かる。ケケケよ、助けたければ『ケケケ伝』を持ってこい」どこからかあの網乾左母二郎の声が響く。
「そうはさせんで ケケケ」おっ、その声は。同じく空中浮遊するキダローが奴らの後ろに浮かんでいた。
キダローが黒い塊に向かい自らのケープを拡げ放つ。ケープはみるみるうちにマンション全部が包めるほどの大きさに空中で拡がった。そして黒い塊を逃れられないように包みこんだ。
「トシロー! 秘技『蠅とり亀甲や』!」キダローが叫ぶ。
「え、何? それ」と言っても仕方ない。俺はオウム返しに唱える。
『秘技! 蝿とり亀甲!』俺は念じ叫び、そして亀甲トルネードを黒い塊に突き刺す。ダメージを受けまいとする集合体はバラバラに別れ逃げようとするがケープに包まれ逃げきれない。その中で亀甲布はトルネードをしながらその黒い一軍をどんどんとその渦巻く布の中に取り込んでいく。なるほど、昔の蝿とり紙のようなもんか。しかしネーミングセンス、ダサっ!
ぎゅわーん、ぎゅわーん、ぶぇぇぇぇぇと、いうような表記するに難しい効果音が小さくなるにつれ黒い塊は亀甲トルネードの中に吸い込まれていった。蝿とりというより掃除機やで。そして亀甲柄などわからないほど真っ黒になった布にキダローが錫杖サーベルを叩きつける。
「かあっ!」
瞬く間に炎があがり黒い亀甲布は燃えていく。
「ああ。俺の亀甲があ……」
「心配すな、燃えてるのは悪霊だけや」キダローがふぅと息をつきそう言った。
「ほんま? ほんなら真由美も大丈夫やね」俺も安堵の一息。
「え、姫は?」キダローが訊く。
「え、真由美は水晶玉に閉じ込められてさっきの中に……」
「ええええええええ」
「え、いや、悪霊だけでしょ、燃えるの……」
「燃えへんのは亀甲が燃えへんと言っただけや! はよ消せ!」
俺はそのままゴミ集積所の掃除用水道のところへ行き、亀甲布に水を散水ホースでかけて火を消す。キダローもわちゃわちゃしながらケープで炎をぱんぱんと叩いて消そうとする。そしてようやく火が消え、生き残った虫がぷーんと力なく飛ぶのをキダローがパチンパチンと両手でつぶしていくのを横目に真由美の水晶玉を探した。すると真っ黒にすすけた丸い玉がころんと現れた。
「あった。キダロー。あったで!」「うわわわ、真っ黒になってるし」
二人でそーっと水晶玉に触れようとする。すると熱したあとに急激に水を掛けたせいか、パリンという音とともに水晶玉にひびが入った。
「ねぇ、キダロー、大丈夫やんな?」
「…… たぶん」
「どうする?」
「ケ、ケープをかけて」キダローらしくなくちょっとビビりながらそう言う。
俺は自分のケープを割れた水晶玉に掛ける。キダローが「ノウマクサンマン……」と唱える。
「かあっ!」
キダローの気合と共にケープを頭からすっぽりかぶった人が現れた。背格好から見て真由美に違いない。
「やったー。真由美、無事やった~」俺は思わず真由美を抱きしめようとケープをはぎ取った。
ぱあああああ~ん!!
早朝に乾いた音が鳴り響いた。
俺はその場に倒れる。意識がもうろうとする。頬の感覚が無く、目の前をハレー彗星のような星が流れたな。電光石火の張り手を喰らったようだ。
「あんたー!! ようもウチを焼き殺そうとしてくれたねー!」
「いや、あの、姫、これには深い訳が……」キダローがしどろもどろになっているのが見えた。
「やかましいわ、あんた誰!? 殺人未遂! 放火! ケーサツ行こ、ケーサツ!」
「いや、あの、姫……」キダローがオロオロしてる。
「誰が姫じゃ…… え、姫、ウチ? まあ姫と昔は呼ばれたこともあるっちゃああるけどね。けど、それで誤魔化そうとしてもあかんよあんたら!」
俺は薄れる意識の中、嘘つけ真由美と呟いていた。
注 あくまでもこの作品はフィクションです。
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