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ケケケのトシロー 第一部(27) 

ヤンキーのカズに絡まれ老人狩りにあったトシローはキダローという不思議な術を使う男と知り合う。彼は悪霊退治を使命にもつケケケの妖術使いだった。非力で情けなさ100%のトシローは、最初はキダローの強さに惹かれ行動を共にし彼から妖術を学ぼうとするが、キダローがカズの仲間をゴキブリに変え抹殺したことからその非情さに疑問を持つ。一方、命を助けたことでトシローを慕っていたカズが所属する反社組織権藤会に呼び出され音信不通になり、トシローは彼を追って権藤会本部へ走る。しかしそこに待っていたのはサトーという人間の姿を借りた途轍もない怨霊だった。トシローと瀬戸内海先生危機一髪、そこへキダローが現れキダローとサトーの意外な因縁が明らかになる。

前回までのあらすじ

 サトーの正体 4


(本文2960文字)

 サトーの稲妻の二刀が頭上から振り下ろされ、俺と小豆あずき先生を抱えたキダローは左右に飛び一撃をかわした。一直線にゲートの外まで地面が粉砕され亀裂が走る。コンクリートや砂利が俺達に弾丸のように飛んでくるのをケープで何とか防いだがまともに喰らっていたら俺達も真っ二つ。こいつはホンマにやばいぞ。
 
と、思う間もなく、サトーは別れ飛んだ俺達へ二の手を放つ。稲妻の水平切りだ。キダローは上空へ飛びこれをかわした。あいつ、小豆先生をまたお姫様抱っこしてる。ああ先生、うっとりしてる場合やないで。

と、これも思う間もなく、俺も地べたにしゃがみ込んで稲妻水平リーベーボクノフネ切りをかわした。文学目指してるが実は理系やぞ俺は。と、やっぱり言うてる間もなくサトーの稲妻の切っ先が俺を串刺しにしようと突っ込んでくる。しょーもない事考えてるから、かわす時間がなくなった。

 俺は散髪屋トルネードで稲妻の切っ先をギリギリで受ける。ガシッ!という鈍い音と共に亀甲布を持つ俺の手に重い衝撃が走る。元々は布であるはずの亀甲が伝えるのは金属と金属がぶつかり合った時のそれだ。

「おらおら、なんやお前らその程度で俺に向かってきたんか? コラ」
 サトーは右手で俺の散髪屋トルネード、左手でキダローの錫杖ライトサーベルを受けはじき、さらに切り込んでくる。俺もキダローも防戦一方だ。
ガシ!カン!キィーン! いやーん! グワシャ! きゃー!とつばぜり合いの音と先生の黄色い声が混じり闘いは続くが、俺達はどんどんと瀬戸際へ追い込まれている。このままではあかん。

 俺は散髪屋トルネードで奴の一撃を掃ったあと一気に奴の懐へ飛び込んだ。サトーは指先から稲妻を発している。内へ潜り込めばわずかながら稲妻刀の切り返しまで隙ができる。そう。カウンターをかわしての接近連打だ。
 トルネードでサトーの首を狙う。お命頂戴つかまつる! 俺は奴の首筋に向かって放った。「秘技、亀甲縛り!」

 亀甲布はサトーの首を見事に捕まえ、ぐるぐると巻き付く。「ぐぇっ」という呻きを発し、サトーの右手からはすでに稲妻が消えていた。そして首から亀甲布をむしり取らんと手をかけた。俺はその隙を狙い自分のケープを脱いでサトーの頭に向かい投げつける。ケープはムササビが飛ぶようにサトーの頭へ向かいそして大きく広がり包み込んだ。

「今や!キダロー! 頼む!」

キダローの錫杖ライトサーベルがケープにくるまれ視界を封じられたサトーの頭に叩き込まれた。
「妖魔両断!!」
叩きこまれたサーベルが閃光を放ち、ケープに喰いこんでいく。ぐわああと地の底から響くような叫びをあげ、サトーの身体全体も発光しだした。

「トシロー! ケープをはぎ取れ! とどめを刺すにはケープが邪魔だ!」
 キダローが渾身の力で錫杖ライトサーベルをサトーの頭にくいこませながら叫んだ。
ケープの防御力は高い。それが今はサトーを守る形になっている。俺は亀甲布を引き付けながらケープの端を捕まえ、はがそうとするがびくともしない。

「あかん。俺の力じゃはぎ取れん」
「チカラやない! 念じるんや。ケープよ戻れと! 早うせい!!」
俺はケープを掴む右の手に意識を集中させる。

「戻ってこい」

次の瞬間、サトーの身体を覆うケープが元の大きさになり右手に戻った。
サトーの全身から蒼い光が四方に拡がっている。キダローは奴の頭部にくい込ませたライトサーベルを一気に押し込んだ。サトーの身体は真っ二つに裂け閃光が俺達の眼をくらませる。そしてその光が消えた時に一帯は元の駐車場に戻っていた。
 サトーの手下どもは倒れたままだ。他に人影はない。カズは? キダローと瀬戸内海小豆先生が近寄って、地面をなにやら探している。
「あかん、逃げられたな」キダローがぼそりと呟いた。
「えー、真っ二つやったやんか」
「…… お前、あいつがホンマにお前の亀甲でやられたと思てるんか」
「いや、俺だけやない。あんたがその錫杖で、ばさーっと真っ二つに……」
「途中まではそうやったけどな、あれは寸前に乗り替えよった」
「乗り替えた?」俺は悪い予感がした。
「まさか……」
「あのガキがおらんやろ」キダローは立ち上がり周囲を見渡した。
「カズに乗り替えたっていうこと?」
「そうや、もうあのガキはお前が知っているガキではなくなった。サトーとかいう奴を操っていた網乾左母二郎あぼしさもじろうはあのガキに取り憑いたやろう」

 俺はまだ信じられなかった。ではあの半分に裂かれたのは単なるサトーなのか? 人間があんなふうになるか?
「奴は寸でのところでチンピラどもについていた下級悪霊を取り込みそれを盾にして左母二郎本体は近くにいたガキに入り込みやがった。俺は見逃さんで」
「うん、あたしもそう思う。あの子がここに抜け殻でおれへんのがその証拠」

 ということは……
「キダロー、カズの身体に乗り移ったということはカズがサトーみたいになるっちゅーことか?」
「ああ、ガキは悪霊そのものになったからな。もう、あいつをナメてはいかんぞ」 キダローは唇を噛みしめた。奴を仕留められなかったことへの悔しさが見て取れる。しかしあのキダローが、そしてそこまでいかんのはわかってはいるけれど、俺もそれなりに貢献はした。それでもやっつけられんかった。強い。恐ろしい相手や。

「あいつがフキさんを殺した奴の親玉やろ。絶対にやっつけなあかん」
「いいや」 キダローは小豆先生の胸元をちらりと見て顔をほころばせたが、すぐに険しい表情に戻った。

「あいつは昔、俺の先祖が成敗した奴。怨霊になったからといって主役やない」
「じゃあ、まだラスボスはおるということ?」俺は小豆先生のお尻のあたりをちらりと見ても険しい表情のまま聞いた。
「おまえ、南総里見八犬伝知らんのか……」
「え、八犬伝? いや、知ってるけど、原作本は読んだことないな、実は」
「はあ~、お前それでよく文学がどうのこうのとか小説が~とか言うとるな…… 小豆ちゃん、ちょっと手ほどきしたってくれるか?」
「ええよ~、トシローちゃん、うちにおいで。原典しかないけどアタシが読み解いてあ・げ・る」と、ウインクする小豆先生。くそ、ちょっとかわいい。

「いや、先生。俺は原典で読んだことないだけで、口語訳なら読んでますよ…… あ、さっきあんた、犬山なんとかって言ってたな」
「ああ、そうや。わしは犬山道節の子孫で……」
「ちょっと待って。八犬伝って戯作やで」
 俺は古典に詳しいわけではないがあれが曲亭馬琴の戯作であることくらいは中学生でも知っている。
「それも含めてお前には説明する必要があるな。なんでお前みたいな根性無しで泣き虫ですぐちびる奴を俺が探してたかもな」

 え、それはどういう意味や。俺はお前らとどういう関係なんや?

 キダローは「さ、警察に見つからんうちに撤退や。小豆ちゃん、とりあえずあんたの庵に行こか。左母二郎もすぐには動けんはずや。逃げられたとはいえ腕の一本切り落としてるからな」と言い、地面で拾ったと思われるトカゲの真っ黒に焼かれた手か足みたいなのを俺に見せた。うわ、それはサトーの腕やったんか?

 そう思う俺はその時、重大な見落としがあったことにまだ気付いていない。そしてそれが俺の残りの人生を左右する出来事につながることも。



続く


注 あくまでもこの作品はフィクションです。



ケケケのトシロー 1  ケケケのトシロー11  
ケケケのトシロー 2  ケケケのトシロー12
ケケケのトシロー 3  ケケケのトシロー13
ケケケのトシロー 4  ケケケのトシロー14
ケケケのトシロー 5  ケケケのトシロー15
ケケケのトシロー 6  ケケケのトシロー16
ケケケのトシロー 7  ケケケのトシロー17
ケケケのトシロー 8  ケケケのトシロー18
ケケケのトシロー 9  ケケケのトシロー19
ケケケのトシロー 10  ケケケのトシロー20

ケケケのトシロー 21  ケケケのトシロー31
ケケケのトシロー 22  ケケケのトシロー32
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